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1999年6月号

COMMITTEE

"グローバリゼーションの中の国際システムとガバナンスの課題」
研究委員会(グローバル・ガバナンス研究会)発足


 第一次のグローバル・ガバナンス研究会における安全保障とグローバル・イシューを中心にした研究に続き、一橋大学法学部の大芝亮教授を委員長として、第二次の研究委員会が発足した。その概要を紹介する。


1.グローバル・ガバナンスの視点

 グローバル・ガバナンス、あるいはガバナンスという概念は、慣行を含む広く制度であり、ルールの体系とする集合概念である。これは分析の視点を広げる見方でもある。レジーム分析を中心にするようにみられることも少なくないが、それは安定した関係維持には多くの課題で最終的には、非制度的協調に止まらず、何らかのレジームに向かわざるを得ないのではないかとの考えが込められる場合であろう。
 ガバナンスの言葉は、第一に国家・政府間のルール、国際組織に止まらずセコンド・トラック、民間レヴェル組織、NGOなどあらゆるアクターを利用しようとするものであり、多元的、多層的、な捉え方を試みるものである。国際社会において、中央政府に類するものが存在しないだけでなく、公正で効率的なレジームが機動的に実現され、また改革されてゆくとも考えにくいからであり、また国家、国際組織、市場、企業そして非政府組織の役割が明らかに変化しているからである。これはまたウエストフェリア的主権国家システムの変化の分析でもある。第二にイシュー・スペシフィックではなく関連する課題を相互作用を含めて総合的に捉えようとする試みをさしている。その意味でレジーム・コンプレックスとして考えることもある。
 一方、この概念は、実務的には、ある意味で多元的に使われている。秩序のあり方についての思いがそれぞれの論者により異なり、その価値観が往々にして暗黙の内に込められることも少なくない。民主主義と市場経済とかが埋め込められていることも多く、より特定の理念を含むこともある。グローバリゼーションの動きは止められず、それに対抗する概念を求めて使われていることもある。この研究会では概念としてのガバナンスに特定の価値観は含めないことを出発点として議論するが、いずれにしても、現在の国際システムにおける、安定性とレジティマシーが共通 する大きな課題になる。

2.研究会の検討課題

 第二次研究会では、グローバリゼーションの進展による種々の問題の発生している現況を鑑み、国際経済的な課題、中でも国際通 貨・金融システム、関連する各種国際組織・国連システムなどの課題、国際協調のあり方と新たな枠組みを検討したい。
 まず環境認識として、グローバリゼーションの進展と国際システムへの影響を分析し、国家と国際機構の制度的分析と課題を検討する。対象機能としては、国際金融制度の課題、世銀・地域等開発金融および二国間援助制度の役割と課題、貿易・投資問題、関連国連システム、およびこれらと多重構造をなす国際組織・制度を取り上げる。そして、これらに対応して、非制度的な政府間協調の枠組み、関連する民間連携組織など非政府組織の役割の課題を取り上げる。
 また、国際組織の重層構造の一貫として、地域の枠組みと役割、リージョナリズムの再評価を連接させて検討する。まさに大きな問題には国家は小さ過ぎるからでもある。ここではEUなどの動きは示唆にとむ指標でもあろう。
 さらに、国際組織・制度の機能と縦横の関係にある、市場と国家、企業の関わりなどの変容とあり方も分析する。これらは国際組織に対比される、市場によるガバナンスであり、アクターの役割が変化している中でのガバナンスへの新たな視点と課題を与えるからである。市場主義とは、個々の理論は別 として、政治的理念、開発経済・分配の理念も含むものでもある。その意味で文化の相克、民主主義の諸形態間の摩擦などの制度論の基盤との関係も可能な範囲で探索の課題とせざるを得ないのかもしれない。
 アジア通貨危機でソーシャル・セーフティ・ネットなどの必要性が挙げられている。それは既存の経済・社会の秩序が、長い歴史の中でそれぞれその信頼のメカニズムを造り、維持そして変化に順応してきたこと、そして旧秩序が崩れる時何が起こるかを示している。これに対するにグローバルに通 用する、新たな社会制度的な調和と安全ネットが実現するのにどのくらい時間がかかるか、気の遠くなるような問題である。世界は共通 の方向に進みつつあるが、一方それぞれの社会は依然強い独自性を示しているからである。
 これらの、主に社会・経済安全保障の側面を入れて、専門分野を超えた横断的・体系的な検討と大胆な試論の展開を試みたい。

 現状の国際システムは米国の強いリーダーシップの下にある。それはよく言われるように一極支配に近いものとも言えるだろう。しかし、軍事、経済力の突出は事実としても、現在程度の国際的勢力バランスの範囲では、一極支配的構造は逆に不安定なものでもある。特にあらゆる面 でグローバリゼーションが深く浸透し、今や後戻りできない情況では、摩擦が起こる可能性は高くなるのではないだろうか。多様性の共存ということは現実には極めて重い課題で、言葉としては共有されている理念であるが、現実に共感を得るモデルをみることは難しい。リアリストのみる側面 とリベラリストの期待する側面は社会の持つ二面性であり、表裏の関係であるのかもしれない。そしてその位 置はしばしば入れ替わり、ある意味で振り子のように動く。その中で、グローバリゼーションは、予想もしない事象をしばしば提起している。
 理念国家である米国は、同時に永遠に試行錯誤を続ける実験国家あるいは実験可能な国家である。しかしながら、多くの国、社会はなお脆弱性を多分に持っている。それはなお、K.ポランニーのいう「市場経済の拡大と社会の自己防衛の二重運動の過程」でもある。この課題と方向を共有する、具体的概念モデル、論理モデルの構築が望まれるわけであるが、その道具であり資源は変化の速度に追従できていない。制度再設計の議論も少なくないが、制度自身がビルトインされれば、変化が激しい中で固定化し拘束性を持つ危険性すら危惧される。
 これらに対するにどういうガバナンスの構造を考えるべきか、安全弁をどう準備するか、柔軟性をどう確保するか、大きな課題を抱えていると考える。

(文責:事務局)

3.研究委員会委嘱メンバー

委員長:
大芝 亮 一橋大学 法学部教授
委  員:
納家 政嗣 一橋大学 大学院法学研究科教授
稲田 十一 専修大学 経済学部教授
金子  勝  法政大学 経済学部教授
勝  悦子 明治大学 政治経済学部助教授
清野 一治 早稲田大学 政治経済学部教授
古城 佳子 東京大学 大学院総合文化研究科助教授   
黒柳 雅明 日本輸出入銀行 海外投資研究所主任研究員
土山 実男 青山学院大学 国際政治経済学部教授
柳田 辰雄 東京大学 大学院新領域創成科学研究科教授
毛利 聡子 明星大学 人文学部助教授