IPCC
WGIII第6章執筆者会合について
背 景
IPCCでは、TAR(第3次評価報告書)のドラフティング作業が現在、進行しており、三つのWG報告書の各章ごとに、執筆者(LA)の会合が持たれている。今回、WG
III第6章「政策措置」のLA会合が、東京国際文化会館で1999年5月23〜24日に行われた。なお、この章の日本人LAは、慶応大学経済学部の山口教授である。
この章は、京都議定書で導入されることとなった排出権取引制度や共同実施、CDMなど、それから最近先進国の産業界で広く用いられている自主的アプローチを本格的に扱う最初のIPCC報告書であり、そこからの政策的インプリケーションは、今後の国内外の政策策定過程において、影響を及ぼす可能性もある。
第6章では、今回の会合が持たれる前段階で、暫定的な目次にしたがって、各LAが自分の担当部分の最初の原稿を書いた。それをベースに、CLA(Coordinating
Lead Author)がほぼ全文を見直し、書き直したドラフトが電子メールでサーキュレートされた。これに対する各LAのコメントというキャッチボールを通
じて、会合の直前に、CLAのCatrinus Jepma(オランダ)から、第3弾の全文ドラフトがサーキュレートされた。
会議内容
1.第6章の目次の見直し:
昨年6月のドイツでのScoping Meeting、10月のウィーンでの全体会合を経て、おおよその目次案が暫定的に認められていたが、今回のLA会合において、いくつかの修正と、場合によっては執筆担当者の修正がなされた。その主たるものは、「国際的対策」の節と「国内対策」の節の順番を入れ替え、国内対策を前に持ってきたことである。その他、いわゆる京都メカニズムの排出権取引制度などを、より一般
化したTradeable Quota制度の一例として位置づけるなどの修正もあった。これは、合理的な面
もある一方、発効していない京都議定書を既成事実のように書くことに対する途上国などの反発を回避するという側面
もある。
2.内容の検討:
各節ごとに、既存のドラフトをベースに、内容の検討がなされた。検討に関しては、専門家の会合らしく、きわめて合理的な判断の下で行われ、特にバイアスのかかったようすは見られなかった。
全体的印象
WGIII第6章のLAは、かなり理論的な経済学者から、実務家に近い人まで混在している。その中で、いかにして、学問的なベースを確保しつつ、平易でわかりやすく、中立的で、内容的にも偏らず、かつ政策担当者の役に立つ(しかしpolicy-prescriptiveでない)報告書にまとめるか
が、難しい。また、全体で30ページの制約の中で、すでにドラフトは50ページを超えている。これをどうまとめるか、も問題である。
京都議定書は、第2次評価報告書の後で採択された。したがって、新しい手法である京都メカニズムなどの柔軟性措置は、この第3次評価報告書が最初のIPCCの公式な評価報告書となる。その意味でも、この第6章の議論は重要であろう。CLAのCatrinus
Jepma、カナダのErik Haitesは、実務面でもかなりの経験があるため(JepmaはJI
Quarterlyの編集者、Haitesは現在UKの国内排出権取引制度のコンサルテーションを行っている)、Peter
Bohmなどの経済学者とのバランスをとりつつ、policy-relevantで有益な情報提供を目指すこととなる。
また、日本で行われたこともあり、レセプションでの谷通産省地球環境対策室長のスピーチや山口教授の主張などから、日本の特徴(特に自主行動計画やトップランナー方式の特徴)などが、各LAにかなり理解されたと思われることは、大きな収穫であったと考えられる。一般
には、自主「協定」に比較して自主「行動」は実効性が疑問視される傾向があるが、むしろ、文化的背景や政府との協調体制依存性などがキーであることが認識された。なお、第6章の節立ては以下の通
りである。
Executive summary
6.1
Introduction
6.2 National policies, measures,
and instruments
6.3 International policies, measures,
and instruments
6.4 Interrelations between international
and national
policies,
measures and instruments
6.5 Choice of policies
6.6 Case studies illustrating barriers
and opportunities
6.7 Research Needs
(松尾直樹)
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