講演内容
現代はグローバリゼーション進展により、社会的傾向や新たなアイディアが世界各地に急速に伝播されるようになり、米国をも含め、世界の人々は海外からの圧力が自国の文化に脅威を与えていると憂慮する傾向にある。WTOシアトル閣僚会議の不調も貿易が国内問題に密接にリンクし、他国の動向が自国に強く影響する事が背景であり、貿易の自由化で自国が不利益になるのではないかという各国が持つ不安のためである。
しかし、一方でグローバリゼーションに対応し、政治・経済・社会制度も変貌してきた。具体的には市場経済化の進展や民主的な政治制度の普及が挙げられよう。社会環境の変化は各種要因から何時でも発生し得るものであり、我々はこの変化に対応する準備を怠ってはならないのである。
折しも現在はミレニアムにあるが、100年前の日米においても社会環境は変化しつつあった。日本においては明治維新後30年に当たり、時の明治政府は広範な改革を実施し、教育向上等にも力を注ぎ、それが当時の日本における発展の礎になった。米国では産業革命が進展し、産業が勃興し都市へと労働力が移動する一方、スラム地区、独占問題等が発生していた。要すれば、社会状況の変化は当時も存在したのであり、これに直面
した人々に大いなる不安をもたらすこととなったのである。
現在の状況はどうであろうか?日本においては、近年規制緩和政策の重要性が広く認識されている。この概念をベースに高齢化対策、コーポレートガバナンスの変更等を行おうとしているが、一部の人々はこの動きを単なるアングロサクソン被れとして批判していることも事実である。米国は、史上最長の好況・低い物価上昇を謳歌し、景気サイクルの消滅を唱える人も出てくるほどである。だが、米国においても制度的な変革は常に必要であり、80年代の不況の再来を完全に否定することは出来ないのである。
それでは日米両国において、将来に備えるために今、何を行うべきなのであろうか?まず、日本においては「高齢化社会においても生活水準を向上させるべく生産性向上が不可欠」である。また、「高齢化に従って財政負担の増大が予見され、現在の政府債務の削減に速やかに着手する」ことも重要である。この点で、OECDは日本が持続可能な成長を達成する手段として勧告を行った。この勧告は、新たなダイナミズムの萌芽を目指し、
-
日本独自の技術革新(日本の製造業生産性は他先進諸国と同レベルにまで高まり、もはやキャッチアップ型の行動だけでは立ち行かない)
-
制度改革による従来のコーポレートガバナンスの変更(企業内部の統治関係等)
-
政府省庁の構造と機能に関する提案、競争政策の役割、電力%通
信分野での規制緩和を主旨とするものである。
米国はどうか?米国では、新たな変革に対する準備として、新たな技術$商慣行の採用・労働者の質的向上の実現・貧困層の学習機会創出等が必要であると思われる。また、米国内の一部に、「米国は他国とは関係なく自らの道を進めば良い」と考える人々が存在するのは問題である。米国は、国際社会との新たな関わりの模索が必要である。その際、検討のベースとすべきことは
-
国際協力こそが唯一の世界発展のキーポイントである
-
国際機関において、米国の主張の正当性を地道に説得することの重要性認識
であろう。
さて、この様に多くの点で変革が必要な状況下において、将来にわたり国家の独自性はどの様にすれば保つことができるのであろうか?
一般的に人々はローカルアイデンテティー(自己が親しみを持てる分野)を求めているように見える。自己の伝統$考え方を守るのに安全な避難場所だからである。このことは、多くの多様性の源となり、世界はこの多様性を尊重すべきである。
日本は過去、政治%経済%社会制度の大きな変化を経験してきたが、日本人の中核的な考え方、良い行動様式は今でも残存している。変化を恐れず将来に希望を持つことが、正に変化に直面
した時に自らを守る力となろう。
技術は確実に進歩し社会環境は変化していこうが、人類は自己の創造性%性善性を信じ、コミュニティーを守っていかなければならない。