ニュースレター
メニューに戻る



2001年 1号

OPINION

地球環境問題へ国民的な議論を

地球産業文化研究所理事長

平岩 外四


 世界の経済活動が活発になるに従って、地球環境問題が21世紀の人類にとって大きな課題 となることは申すまでもないことである。とくに日本の現状を見るとき、この問題への対応いかんが、今後のわが国の経済成長や国民生活に大きな影響を与えることは疑う余地がない。

 地球温暖化問題に関しては、1992年のリオ・サミット以来、幾つかの重要な会議を経て、 3年前の京都での第3回締約国会議(COP3)において「京都議定書」が採択された。そして、 これを実行に移していくには、先進国と発展途上国との協力が不可欠であることが確認された。 しかし、この問題に関しては、先進国と途上国間あるいは先進国相互間に意見の隔たりがある のは昨年末のCOP6の経緯を見ても明らかである。できるだけ早い時期に各国間で適切な合意 点を見出していく必要がある。現時点では何よりも京都議定書の原則を実現していくことが大 事であり、その意味で日本が約束した6%の削減目標は国際公約としてこれから一層重みを持ってくるものと思われる。

 わが国が約束したこの数値目標の基準は、過去2度に亘る石油危機を契機に産業界が中心と なってエネルギー効率向上に努めた結果が反映されたものであり、その点で他国に比べて厳し い数字だといえる。京都会議の翌年に制定された「地球温暖化対策推進大綱」では、こうした 実情を踏まえて目標達成のためのガイドラインが示された。また昨年の4月には「地球温暖化 対策の推進に関する法律」が施行され、エネルギー需給両面での対策やエネルギー・環境技術 の研究開発の促進、あるいはそのための国際協力の推進などが打ち出されている。そこでは国 や地方公共団体、産業界や国民の役割が明確にされているが、何よりも今はこれを実行に移し ていくことが重要である。推進の主役である産業界自身も、自主行動計画を基本とした幅広い 施策を実施しているが、企業としては与えられた諸制度の下で可能な限り市場原理を生かして 実効を上げていく必要がある。

 またわが国としては、このような国内の温暖化対策に官民を挙げて取り組むだけでなく、これを一歩進めて国際的に共通 な仕組みづくりに寄与していくことも重要であり、国際的な責任であるといえる。とりわけ、京都メカニズムの実現へ向けた努力は、開発途上国での温暖化防 止を支援していくことにもなり、また途上国の持続可能な開発のためにも必要なことである。 その点で、例えば「クリーン開発メカニズム」実現のために途上国と協力していくことは意味 のあることだと思う。こうした施策を最大限に生かさなければ、わが国自身の国際公約達成は もちろんのこと、地球全体での温暖化ガス削減という目標の達成は困難なものとなる。

 地球環境問題を解決することの困難さは、申すまでもなくこれが地球大の問題であり、しかも各国の利害が絡む問題である点にある。前述のようにわが国自身の経済社会の行方を方向づ けることになり、その意味では安全保障や通商問題等と同様に優れて国益に関わる問題である。 そうであればこそ、わが国として地球環境問題にいかに対処すべきかを、国内での対応、国際 的なルールづくりの両面から真剣に考えていく必要がある。その際大事なことは、国内での環 境政策を確立し、これを国際社会に向けて主張していくことである。COP6の会議でも交渉は 決裂したが、その過程で森林によるCO2吸収や原子力の役割などをわが国が主張したのは大 いに意味があったと思う。

 また、複雑な地球環境問題を解決していくには、政府自身をはじめとして、産業活動を担う 企業、生活者である個人や市民が具体的にどのように行動していくかが問われている。最近、 こうした問題を建設的に捉えていく市民社会への期待が高まっており、そのこと自体大事であ るが、わが国の国益という観点では、国の適切な政策と国としての主張がなければならない。 それには、地球環境問題に対する国民全体の関心の高まりと政策への支持が不可欠である。
 21世紀の初頭にあたり、こうした点を国民的な議論にまで高めていく必要があることを痛感 している。