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2001年 2

CONFERENCE
IPCC第6回第三作業部会全体会合出張報告




 2月28日-3月3日、ガーナ・アクラにおいて、上記会合が開催された。ここでは第三次評価報告書第三作業部会の政策決定者向け要約の採択が行われた。その紹介と会議全体の概要を報告する。




会場
 IPCC第3次評価報告書は、地球温暖化問題全般に関する世界の最新の科学的知見をとりまとめたものであり、気候変動予測を扱う第1作業部会報告書、温暖化の影響・適応を扱う第2作業部会報告書、温暖化への対策・政治経済的側面の評価を扱う第3作業部会(WG3)報告書及び統合報告書の4部構成となる。WG3の報告書では、気候変化の緩和対策について、技術的対策のみならず、京都議定書に基づく対策を講じた場合の社会的経済的な影響等を含め、経済学を始めとしてその他の社会科学を幅広く含めた総合的な評価を行っている。 これまで本誌でも報告してきた4回にわたる代表執筆者会合や種々の専門家会合、専門家と政府による査読プロセスを経て、本会合は、最後の審議の場であった。

パラグラフ毎の審議風景
審議は、パラ毎に、時には文毎に行われ、非常に長い時間をかけるものであった。具体的には政策者向け要約(SPM:Summary for Policy Makers)の検討と承認、さらに報告書そのものの受諾であった。

 日本からは重枝経済産業省大臣官房参事官、谷口IPCC副議長、第2章統括代表執筆者の国環研森田氏ほか、環境省、経産省より担当者6名が出席し、GISPRIからは石田・田中の2名が参加した。

 尚、最終SPMに関し、英文はIPCCの公式サイト(www.ipcc.ch)に、そして、日本語訳はGISPRIホームページで公開予定である。


報告書と議論の概要
ここでは、報告書の内容とともに議論となった部分について簡単に報告する。

(1)気候変化の緩和への挑戦

政府からの質問に応答する執筆者団

 気候変化の緩和は、開発、公平性、持続可能性に関連した幅広い社会・経済政策とトレンドに影響を受け、また影響を与えている。緩和は、より幅広い社会的な目的と相まった場合、持続可能な発展の促進に役立つ可能性がある。
 21世紀中に化石燃料資源の枯渇によって炭素排出量が制限されることはないが、既存の石油及び天然ガスの埋蔵量は限定されているため、 21世紀中にエネルギー構成の変化が起きる。
 公平性という言葉について、社会的な定義がないため、議論が政治的なものとなってしまい、非常に長い議論があった。また、サウジアラビアが安定化シナリオの濃度について1,000ppmを入れることを主張したことが印象的であった。

(2) 温室効果ガスの排出を制限または削減し、吸収を増大させる方策
 技術面では大きな進展がみられており、全世界の排出レベルを2010〜2020年において2000年の水準以下にできる潜在的可能性がある(種々の仮定と相当程度の不確実性を含む)。選択肢としては、天然ガス、コージェネ、バイオマス発電、ゴミ発電、原子力発電などが挙げられている。
 森林・農耕地・陸上生態系は、大きな緩和ポテンシャルを有している(2050年までにおおむね100GtC、排出量予測値の10〜20%に相当)。これは必ずしも永続的なものではないが、炭素ストックの保全及びCO2の吸収により、他の対策をさらに開発し、実施する時間的猶予が得られる。適切に実施されれば、生物多様性の保全、持続可能な土地管理、地方における雇用等の社会的・経済的・環境的な便益をも併せ持つ可能性が高い。
 大部分のモデルによると、既知の技術的オプションにより、例えば、おおむね100年後には大気中のCO2濃度を450、550ppmあるいはそれ以下で安定化できる可能性がある。ただし、その実施には関連する社会経済的及び制度的な変革が必要となる。
 ここでは、原案の技術に関するコスト表記について、値が低く、大変楽観的であることから議論が紛糾した。米・加・豪からは、京都目標がコストをかけずにできるといった誤解を与えるのとの懸念が強く出された。EUはコスト表記を残すことを希望した。結局、仮定・条件など評価の不確実性が明らかになるように明記することで決着した。また、吸収源については、吸収能力の継続性、量の表記について議論が紛糾した。一時的なものであるとの表記を、スイス・独・途上国が要請、米・加・豪は削除を要請した。これら論点は、各国の交渉事情を一部反映しているものと思われ、大変興味深い。

(3)緩和行動のコストと補足的便益

 ノーリグレット(後悔しない)方策をどの程度活用できるかによって、温室効果ガス排出を、正味の社会的コストをかけずに制限することが可能である。
 京都議定書実施の推計コストは、研究・地域により異なっており、仮定の置き方に大きく依存する。次のようなGDPへの影響が示唆されている。 先進国:排出量取引が行われない場合、2010年におけるGDPの損失をそれぞれの地域で約0.2〜2%、自由に行われる場合は、0.1〜1.1%と予測と予測している。また、京都議定書の削減目標を達成するための国内での限界削減コストは、排出量取引なしの場合では約20〜600米ドル/tC、ありの場合、約15〜150米ドル/tCと報告されている。 経済移行国:GDPへの影響は、無視できる程度から数%の増加までの幅がある。一部の国では、エネルギー効率が劇的に向上し、また不況が継続するという仮定のもとで、割当量が推定排出量を上回る可能性がある。安定化の濃度レベルが750ppmから550ppmまでの間はコストの上昇は緩やかであるが、550ppmから450ppmの間で大幅なコストの上昇が起きる。
 前半部分については、負のコスト(つまり便益)の方策という表現を後悔しない方策にするといった変更があった。後半部分では、モfルの仮定(CDMの有無など)の表記が求められた。また脚注に具体例があったのは、極端な例であるとの指摘で削除された(米・独・仏)。

(4)気候変化の緩和方策

 緩和方策の実施には、多くの技術的、経済的、政治的、文化的、社会的、行動上、制度上の障害を克服する必要がある。
 各国の総合的政策手法として、排出・炭素・エネルギー税、取引可能または取引不可能な排出枠、助成の供与または廃止、デポジット制度、技術または実施基準、エネルギーミックス、製品の禁止、自主協定、政府の投融資、研究開発援助等が挙げられる。他の国内政策と統合し、長期的な社会的・技術的変化の達成に向けた、幅広い移行戦略として再構築することによって、気候変化緩和の効果を増すことができる。  国際的な協調活動は、緩和コストの低減を助け、競争力に関する懸念、国際的な貿易ルールへの抵触の可能性、カーボンリーケージに対応する上で重要である。これには、京都メカニズムに加え、協調的な排出・炭素・エネルギー税、技術・製品基準、産業界との自主協定、資金や技術の直接的な移転等が含まれる。
 国際的な枠組みの構築に当たっては、効率性と公平性の両方を向上させるように設計することが重要である。適切な努力分担とインセンティブの付与を通じて、枠組みへの参加をより魅力あるものにするかという目的を達成する戦略が提示されている。
 中国から、排出権取引の記述について「国際」を除くよう要請があり、結果的に、各国際手法の地理的範囲を限定した言い方に変更になった。また、京都メカニズムの使用の形態やその有効性について論じたパラは、政策に関与しすぎの懸念が示され、議論後全文削除となった。

(5)知識のギャップ

 前回の評価に比べ、気候変化緩和の科学・技術・環境・経済・社会的側面において進歩がみられた。将来予測を強化し、不確実性を減少させるため、途上国も含め、さらなる研究が必要とされている。現在の知見と政策決定者のニーズのギャップを縮めるために優先的に取り組むべき課題は次のとおりである。

技術的・社会的な改革オプションの地域別、国別、部門別ポテンシャルのさらなる探求
すべての国における気候変化の緩和に関係する経済的、社会的、制度的な問題
特に結果の比較可能性に留意した、緩和施策の潜在的可能性とそのコストの分析手法
気候緩和オプションの、開発、持続可能性、公平性の観点からの評価


今後の予定

 本年4月にケニア・ナイロビで開催予定のIPCC第17回総会で、3つの作業グループの評価報告書の最終的な承認がなされる。また、9月のIPCC第18回総会(ロンドン)において、3つの報告書を取りまとめた統合報告書が審議・採択される予定となっている。

(地球環境対策部 田中加奈子)