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ニュースレター
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2001年 3号 |
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SYMPOSIUM | ||||||||||||||
第11回GISPRIシンポジウム
現在、日本の教育制度に関する種々の問題が浮かび上がってきており、「分数ができない大学生」と言われる程、日本の学力レベルは急速に低下してきている。一刻も早く、この学力レベルを回復させなければ、産業・経済総体としての我が国の国
際競争力は急速に失われてしまう。このため、(財)地球産業文化研究所では昨年10月、「学力の崩壊を食い止めるための、教育政策に関する緊急提言書」を発表し、最
近の学力低下問題とその原因などについて報告したが、さらに今回、その後の調査結 果なども含めて、標記のシンポジウムを開催した。
まず、このセッションでは、最近問題になっている「学力低下の問題」に関して、行政の関係者、教育関係の方々、さらに産業界の方より、それぞれ貴重な講演を
いただいた。まずはじめに、国立教育政策研究所の吉川成夫・教育課程調査官(文部科学省教育課程課・教科調査官)からは、「IEA(国際教育到達度評価学会)による
国際比較調査の結果などからは、学力の低下傾向は見られないこと、さらに学力の問 題を議論する時には、その対象がどの段階での議論なのかを明確にする必要がある」
などの報告が行われた。それに対して、岡部恒治・埼玉大学経済学部教授からは、「 IEAの調査結果については、数字の取り方によって結果が大きく変わる」こと、さらに戸瀬信之・
慶應義塾大学経済学部教授からは、同教授らが実施した学力調査の結果からも、「大学生の学力低下が深刻な状況にあること」などについての報告が行われ
た。続いて、産業界より下谷昌久(社)大阪工業会 産業政策委員長((株)オージス総研会長)からは、同会が会員企業を対象に実施したアンケートの結果より、「基礎学力などの低下に関する深刻な現状」についての報告などが行われた。
さらにこの後、会場の参加者からも講演内容に関する活発な質疑応答が行われ 、この問題に対する関心の高さを改めて強く感じたが、残念ながら、当日議論する時 間がやや不十分であったため、問題解決のためにも、今後さらなる議論が必要と思われた。
このセッションでは、小学校や中学校など教育の現場で実際に活躍されている 先生方にもご登壇をいただき、「教育現場の実態」というテーマで、非常に貴重な講 演をいただいた。まず、清永賢二・日本女子大学人間社会学部教育学科教授(元警察 庁科学警察研究所防犯少年部犯罪予防研究室長)からは、「非行少年の問題と、その背景にある社会的な構造の変化との関係」などについての報告が行われた。続いて、 今井健夫・越谷市立平方中学校教諭からは、「内申書が子供の心理面に及ぼす影響や 問題点」についての報告が、さらに陰山英男・兵庫県朝来町立山口小学校教諭からは 、「子供に、本当のやるきを起こさせるには一体何が必要であったか」などについて 、それぞれの方々の、現場での体験等に基づく貴重な報告が行われた。 当日、講演をいただいたそれぞれの内容には、互いに関係のある部分も幾つか あると思われ、例えば、内申書の成績を上げるための「競争」がもたらす子供の心理面への影響や、非行少年の問題との関連性などについては、今後の検討課題とも思わ れた。
次に遠藤誉・筑波大学留学生センター教授からは、「中国での教育改革に関する状況」などについての報告が行われたが、「厳しい国際競争に打ち勝つための、強い意志に基づ いた教育政策」というものが印象深く感じられた。続いて、西村和雄・京都大学経済 研究所教授からは、「米国での教育改革などについての報告」が行われたが(写真1 )、ここでも「教育改革に対する強い意志」というものが感じられた。 教育改革に対する考え方や取り組みには、それぞれの国ごとに特色などもある が、いずれにせよ、「正しい現状分析」に立脚した、「強い意志」に基づく教育政策 の重要性というものを改めて感じさせられる。
「学力向上の観点から、教育改革のあり方を考える −2002年に向けて」
まず始めに、上野健爾・京都大学理学研究科教授からは、「学習指導要領の中 に記されている『...は取り扱わないものとする。...までとする。』といった 表記を指摘し、学習指導要領は最低基準であるとも言われているが、本来は必要最低 限の内容を記したものではなかった」ことなどについての問題提起があった。 続いて 、山岸駿介・多摩大学教授(教育ジャーナリスト)からは、「学習時間数削減の問題 については、あっちを削ってこっちを多くやるということは出来ず、結局一律削減に ならざるを得ない」との指摘などが行われ、また、元・文部省初等中等教育局主任視 学官の山極隆・玉川大学文学部教育学科教授からは、「学力の問題を考える時に、学習指導要領が悪いから学力が低下するという様な単純な発想で解決できるのではなく 、インプット、アウトプット、そしてプロセスなどをトータルで考えなければいけな い」などの指摘が行われた。さらに、精神科医でもある和田秀樹・東北大学医学部非 常勤講師からは、「うまくいくだろう、ではではなく、うまくいったところでのエビデンスに基づく教育を行うべきである」などの指摘もあった。 この後、さらに会場からも数多くの質疑やコメントなどをいただき、活発な議 論が行われたが、残念ながら「まとまった結論」という形にまでは至れなかった。しかし、この様に、「意見の違う立場の方々がそれぞれの意見を出し合い、話し合うための『場』 をもつ」ということが重要であり、本シンポジウムの果たす大きな役割の一つがそこにあるとも思われ、その観点では、大きな意義があったと思っている。
以上、各セッションごとの内容やトピックスをまとめたが、当日は活発な質疑 応答などもあり、非常に意義のあるシンポジウムを行うことができた。特に今回、各セッションの講師には、行政の関係者、教育関係の方々、産業界の方といった多彩な 方々にご登壇をいただき、それぞれ貴重な講演をいただいた。また、最後の総合討論 では「まとまった結論」という形にまでは至れなかったが、多彩な議論が出た、そして意見の違う方々が議論を闘わせたということでは、大変意義のあるシンポジウムであったと考えている。 討論でも出てきたように、これからの日本の将来は、次の世代の人たちの能力 にかかっているわけであり、今後の文化・産業問題、あるいは地球環境問題を考えるにしても、次の世代の人たちの能力をいかに高めていくかということがその源泉であ るとも思っており、地球産業文化研究所としても、今回の成果を踏まえて、今後さらに議論を深めていく機会を設け、我々自身もまた検討して行きたいと思っている。 最後に、今回のシンポジウムでは大変御多忙の中、とても貴重なご講演をいただいた各講師の方々や、パネルディスカッションで大変熱心な討論をいただいた関係者の方々、さらに座長をはじめ、御協力をいただいた関係者の方々に深く御礼を申し上げます。
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