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2002年 4号

Conference
Emissions Trading Strategies 2002出席報告



 2002年6月19日〜20日、イギリスのロンドンにおいて、Emissions Trading Strategies 2002が開催された。本カンファレンスは排出量取引制度について、主に欧州各国の現状および各制度間のリンケージ等をテーマとして取り上げている。全18講演が行われたが、以下発表内容について、現状および取引制度間のリンケージにおける問題点を中心に報告を行う。



遵守期間前の排出量取引市場の現状

 国際排出量取引市場は京都議定書の遵守期間が始まる2008年からの開始となるが、すでに現在、様々なタイプの排出量取引関連市場が生まれている。大きく分ければ、英国やデンマークのように国が定めた国内排出量取引制度をベースとした強制的市場、先の需要を見越した自主的市場、の2つのタイプが想定されるが、この他にも企業内取引や州規制をベースとした取引、再生可能エネルギー証書取引市場やプロジェクトベースの取引など、様々なレベルの市場が様々な思惑のもとに存在している。

 このように多くの市場が異なる情況・ニーズのもと設立されていく中、制度間のリンケージや排出量という商品の互換性の必要性は徐々に高まってきており、今後の大きな課題となることが予想されている。

 なお今までに、1997年より全世界で約70件、計8500万tCO2の取引が行われたと見積もられている(報告されていない取引も含めると約2億tCO2との推定もある)。現在取引されている多くは自主的取引をベースとしたクレジットだが、最近では目標が自主的であっても、遵守ツールとしてのクレジットを求める場合が増えてきている。


各排出量取引市場の特徴とリンケージにおける問題点

 以下、既存の排出量取引市場として英国の制度を、さらに2005年から稼動予定のEU排出量取引市場制度について比較紹介しながら、そのリンケージにおける問題点を整理する。

 英国の制度はかなり複雑であり、取引に参加する形態として自主参加者と協定参加者に大きく分けられる。自主参加者はオークションによって自らの割当量を決定すると同時に割当量に応じたインセンティブ資金を獲得、一方協定参加者は目標達成を条件に免税を約束された企業であり、目標は交渉により決定される。6ガス全てを対象とし、すでに2002年4月から2006年までを第一期として取引が開始されているが、今のところそれほど大規模な取引は行われていない。価格_4〜7ポンド/tCO2程度で取引されている。

 これに対しEUの制度は2005年導入を目途に検討が進められているが、基本的にキャップ&トレードによる強制的市場であり、IPPC(Integrated Pollution Prevention and Control)指令対象企業(4000〜5000企業、カバー率44〜46%)をその対象としている。導入当初(2005〜2007年)はCO2のみを対象としており、割当はグランドファザリングを基本に各国にまかせるとしている。また、英国ではプロジェクトベースのクレジットも取引対象として視野に入れているのに対し、EU制度では今後の検討課題として残されている。

 以上からも推察されるように、各取引スキーム間の調整・統合の際には、強制参加か自主参加か、排出量の割当法、カバー率の考え方、プロジェクトベースのクレジットの使用可能性、参加資格と対象の範囲(対象ガス種、発電事業者の取り扱い等)、さらに 技術的統一性(計測、報告、レジストリー等)といった点が検討のベースとなる。また流動性の観点から、「排出量」の商品・コモディティとしての標準化も重要であり、そのためには資産としての定義、権利としての定義、有効性、リスク、クレジットの発生源、移転可能性、といった観点からの互換性の確保が望まれる。

 EU排出量取引は、「両立困難な各国の異なる国内スキームによって域内市場が分割され競争力の歪みが生じることを防ぐ必要性」の認識から検討されたものであり、現在EU議会では他との整合性も視野に入れた改正案が議論されている。排出量取引市場自体は成長基調にはあるが、現時点ではまだ個々の市場が独立した状態であり、流動性の高い市場となるのはEU制度が導入となる2005年頃がひとつの目途になると思われる。



 その他の発表内容としては、既存の環境規制法と排出量取引との整合性、プロジェクトによる排出削減、企業における温暖化戦略・リスクマネジメント、各国温暖化対策(排出量取引制度、SO2スキーム、CDM&JI他)、再生可能エネルギー証書取引等の関連市場と排出量取引制度との連携、といったテーマが取り上げられていた。

 また発表者は各国政府関連機関の担当者に加え、ブローカーやコンサルティング会社、保険会社、法律事務所などからも多く、欧州における排出量取引がすでに現実の課題、ビジネスの対象となっていることが伺われる。


(文責 伊藤 麻紀子)