国連気候変動枠組条約
第8回締約国会議(COP8)の概要 |
2002年10月23日(水)から11月1日(金)までの10日間、インド・ニューデリーにおいて気候変動枠組条約第8回締約国会議(COP8)、および第17回補助機関会合(SB17)が開催された。
10月のインドは乾燥期で、昼間の気温は30℃以上になり、日本の初夏の陽気である。デリー市内の主要道路はかなり整備されているが、そこにバス、トラック、普通乗用車、オートリクシャー、自転車、人、牛などの動物までが同時に通行している。クラクションは鳴らし放題。交差点はロータリーになっているところが多く、ここでは今にもぶつかりそうになりながら、それぞれ隙間を縫いながら目的の方向に進んで行く。バス、タクシー等の公共交通用自動車は、圧縮天然ガス(CNG)が燃料になり、大気汚染はかなり改善されたらしいが、乾燥しているため空気は埃っぽく、空はいつも黄砂がかかっているようにどんよりしていた。
ニューデリーの中心部から南に5kmほどに位置する会場の周りは、最近アジア各地などで発生しているテロを意識してか、会場前の道路にはCOP8関係者だけが進入を許可され、会場の各門の前には銃を持った警官が多数配備されており、入場者にはかなりの神経を使っているようであった。会議の舞台となったビガン・バワーン国際会議場には、170ヶ国を超える世界各国の政府代表者やNGOなど約4400人が集まり、23日(水)、メインホールにて全体会合が始まった。
今回のCOP8は、前回のモロッコ・マラケシュでのCOP7で京都議定書の運用が決まり、「交渉」の段階から「実施」段階へという局面であった。しかしながら、ロシアの議定書批准が遅れており、議定書発効待ちという状態の中で、話題が少なく、今後の取組の方向性を示す予定の「デリー宣言」が最大の焦点となった。
最初の「デリー宣言議長案」は、ヨハネスブルサミットの決定事項にそった内容で、「共通だが差異ある責任」の原則、「持続可能な開発」が強調されており、先進国側が求めていた「途上国の将来の削減義務」や、「京都議定書未批准国の早期批准要請」についてはふれておらず、途上国側の意見に偏ったものであった。
開会8日目に開催された閣僚級会合において、会議の冒頭バジパイ首相(インド)が壇上に上り、途上国の気候変動に対する脆弱性を考慮した適応措置のための技術移転や資金援助の重要性、先進国の率先した温室効果ガス排出削減実施を強調するとともに、途上国に対する新たな排出削減の約束を強く拒否する意思を表明した。
一方、日本の鈴木環境大臣は、閣僚級会合において京都議定書の早期発効を求めること、全ての国が共通ルールのもとで温暖化に取り組むこと、そして京都議定書の第一約束期間が終了する2012年以降の温暖化対策の議論を早急にはじめることに関する文言を「デリー宣言」に入れるよう要求するとともに、途上国に対する資金援助や技術移転等における日本の協力の姿勢を強調した。
その後、徹夜で交渉が行われた結果、「途上国も含め、全ての締約国が削減に取り組むことの必要性を確認すること」で妥協が成立し、「気候変動と持続可能な開発に関するデリー閣僚宣言」が採択された。
宣言は、8項目の前文と13項目の行動事項で構成されており、途上国が削減を始める時期や、具体的な目標は記載されなかったが、「全ての締約国において、温室効果ガス排出緩和が高い優先性にあることを強調する」、「全ての締約国は、緩和や適応行動にについての情報交換を促進する」との表現が盛り込まれたことにより、将来、途上国の削減交渉の糸口になることが期待される。
また、京都議定書の「実施」に向けた動きとして、COP8に平行してCDM理事会が開催された。
理事会では、小規模CDMの簡易化された様式及び手順が採択されたほか、理事会が運営機関(OE)の信任及び指定を暫定的に行うことが認められた。OEは、現在7社(そのうち5社が日本)が申請を提出しており、その評価は12月末までに終了させる予定である。
なお、懸案としては、天然ガスや水力などのクリーンエネルギーの京都議定書非締約国への輸出分をクレジットとして換算し、京都議定書目標達成に使用できるようにするという「カナダ提案」が、より長期的な視点での検討が必要との理由により、次回以降の検討課題として先送りされたほか、各国の歴史的累積排出量の気候変動への寄与を評価するという「ブラジル提案」は、今後も科学的なスタンスから研究を継続し、進捗状況はSBSTA20で報告、SBSTA23でレビューされることとなった。
次回のCOP9は、2003年12月1日〜12日イタリアで開催される予定であるが、ロシアが8月までに京都議定書を批准し、議定書が発効した場合、COP9が「COP/MOP(京都議定書締約国会議)1」となる可能性が高い。しかし、気候変動枠組条約の締約国であるものの、京都議定書の締約国ではない米国が、COPとCOP/MOPの参加形態に対して、オブザーバーとしてしか参加できなくなるためこれに反対しており、今後の行方が注目される。 |
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