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2002年 6号

Research Council
平成14年度
排出削減における会計および認定問題研究委員会


1.背景

京都議定書は、環境目標を達成するために経済的手法を用いることを導入したはじめての国際的環境条約である。同議定書で定められた温室効果ガス排出枠の市場は、将来的に数千億から数十兆円規模になるとの予測もあり、経済全体に大きな影響を及ぼすものと考えられる。

温室効果ガスを排出する主体である企業にとっても、排出枠の企業会計上の考え方、取り扱い方によっては、企業活動を左右する財務諸表に大きな影響を与える可能性がある。

このような問題意識の下、当委員会ではH12年度より排出枠の会計上の考え方、取り扱い方を中心とした検討を行っている。

なお、当委員会は日本公認会計士協会さまのご協力をいただく形で検討を行っている。


2.昨年度までの成果

これまでの検討の結果、排出枠の会計上の考え方について、以下のような方向性が得られている。
     
  排出枠現物については、いつでも市場で売買でき、かつ、投機を目的とした利用のされ方もあり得ることから、金融商品的な性質も否定はできない。しかし、現物の排出枠の性質を想定した場合、これが主に漁業免許的あるいは原材料的に利用されることを考えると、無形資産あるいは(無形の)棚卸資産といった考え方がふさわしいと考えられる。
     
  派生商品については、純額決済の要件を満たしているか否かによって処理が異なる。先渡し取引およびオプションであって、純額決済の要件を満たしているものについては金融商品に準じた処理を行う。純額決済の要件を満たしていない先渡取引は、現行の会計基準においては、現物引渡しの際に、バランスシートに載せることとなる。純額決済を行わないオプションについては、オプションの行使による現物受渡しが予定される場合、実物資産の購入と売却の会計処理が適用される。また、先物取引は金融商品の会計基準が適用されると考えられる。

なお、排出枠はヘッジ目的で取引されることも多いが、この場合には、先渡取引、先物取引、オプションいずれであっても、ヘッジ会計が適用されることとなると考えられる。


3.本年度の目的について

今年4月より英国で排出量取引が開始されたこと等から、排出枠を会計上どのように考え、処理するかという問題に対する重要性が認識され、いくつかの海外機関においても検討がなされ、ディスカッション・ペーパーが公表されているところもある。

今年度は、これらのディスカッション・ペーパーでの知見と、昨年度までに得られた当委員会での考え方の比較・検討を行い、知見のブラッシュ・アップを行い、とりまとめとする。

また、昨年度は、派生商品のうちのスワップについては、取り扱いについての検討がされていなかった。しかし、ナットソース社によれば、英国 ロイヤル・ダッチ・シェルとデンマーク エルサム社の間で世界初のallowanceのスワップ取引が行われたとのことである。マラケシュ・アコードで排出枠の種類(AAU、CER、ERU、RMU)によりバンキングや目標達成に利用できる量などに異なる制約がついたため、このような制約の違いによるスワップ取引も、今後、行われると考えられる。そのため、スワップの取り扱いについても検討を行う予定である。

(委員会事務局 : 纐纈三佳子)