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2003年 4号

Meeting
IPCC第4次評価報告書作成に向けて



I.IPCC( Intergovernmental Panel on Climate Change)とは

目的と特徴

 IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)は、人為的な気候変動リスク、影響及び対策オプションに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府に政策立案等に関連した(policy relevant)情報を提供することを目的とした政府間機構であり次の特徴が挙げられる。
(1) 世界第一線の研究者や専門家のみならず、各国政府代表が参加しており、IPCCで承認された報告書は、国際的に合意された権威ある科学的知見として取り扱われる。
(2) IPCCの作業で中心的な役割を担うのは各国の研究者や専門家であり、政策立案等に有用な客観的・科学的評価を行う。政府関係者の役割は、科学者や専門家とともにそのアセスメントを査読し、また最終的に完成した報告書の全部または一部を承認することなど。IPCC総会は、作業の開始に当たり報告書の骨子を承認し、最終的に完成した報告書を承認、採択又は受理する。
(3) 科学的評価においては、参加した研究者や専門家は、新たな研究を行うのではなく、発表された研究を広く調査し評価(assessment)を行う。
(4) 科学的知見を基にした政策立案者への助言を目的とし、特定の政策の(policy prescriptive)提案は行わない。

IPCCの組織
第一作業部会(Working Group I)
  気候システム及び気候変動に関する科学的知見を検討・評価。

第二作業部会(Working Group II)
  気候変動に対する社会経済システムや生態系の脆弱性と気候変動の影響及び適応策を検討・評価。

第三作業部会(Working Group III)
  温室効果ガスの排出抑制等の気候変動の緩和策を検討・評価。

国別温室効果ガスインベントリー(目録)に関するタスクフォース(TFI)
  国別温室効果ガス排出及び除去の算定・報告手法等の開発・改良と普及 
 IPCCのビューロー(議長団)は、IPCC議長1名、IPCC副議長3名、各WG共同議長各2名、各WG副議長各6名、タスク・フォース共同議長2名の計30名で構成されており、作業全体の管理を行っている。作業計画、経過報告、最終報告等は、IPCC総会(パネル)の承認を受けなければならない。なお、常設事務局は、ジュネーブのWMO (the World Meteorological Organization:世界気象機関)本部内に、WMOとUNEP (the United Nations Environment Programme:国連環境計画 )の共同で設置されている。

設立背景

 大洪水や干ばつ、暖冬といった世界的な異常気象を契機に、1979年、WMOとUNEPは気候と気候変動に係わる研究を開始した。その後、気候変動に関する国際的課題が増大するにつれ、各国政府が効果的な政策を講じられるよう、気候変動に関する科学的情報を包括的に提供する必要性が高まった。これらを背景として、IPCCの設立構想が1987年のWMO世界気象会議並びにUNEP理事会で提案され、1988年に承認、同年にIPCCが設立された。

UNFCCCとIPCCの関係

 IPCCはもともと国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)とは関係なく設立されたが、第1次評価報告書が気候変動に関する知見を集大成・評価したものとして高く評価されたことから、基本的な参考文献として広く利用されるようになっている。IPCCの報告書は、UNFCCCにおける交渉の重要な基礎の一つとなるものである。現在、作業が進められている第4次評価報告書は2007年に完成する予定だが、その過程でも、2005年から本格化すると予想される京都議定書第一約束期間以降の国際的枠組みに関するUNFCCCでの交渉への貢献が予想される。

II.IPCC報告書作成作業について

作業の性格

 IPCC報告書作成にはその執筆だけで世界中の研究者・専門家数百名が関与する。IPCCからの報酬はないが、IPCCの作業に加われること、あるいは報告書に引用されることが世界に認められた研究者・専門家の証となることから、世界有数の専門家が参加している。

 参加した研究者・専門家は新たな研究を行うのではなく、発表された研究を広く調査し、評価を行う。また、科学的知見を基にした政策立案者への助言を目的とし、特定の政策の提案は行わない。第4次評価報告書においては従来中心となっていた自然科学技術的分析に加えて、社会・経済的側面の分析を充実させる方針が出されており、経済学・社会学等の分野も重視されている(例えば、温室効果ガス削減措置の社会・経済的影響の評価、持続可能な開発との関係の評価など)。

 WG毎に、それぞれの共同議長が全体の進行を主導するが、その中で代表執筆者(LA)が重要な役割を果たす。LAは、WGの議長及び事務局的役割を果たす技術的支援ユニット(TSU)と連携をとりつつ、受け持ちのセクションのドラフトを作成し、それに対して寄せられる多数のコメントを処理しテキストの改定を行うという作業を一手に引き受けることとなる。

作業のプロセス
(1) スコーピング
 報告書の骨子を作成する作業で、2003年11月のIPCC第21回総会において確定する予定。
(2) 代表執筆者(LA)及び査読編集者(RE)の選定
 合意された骨子に基づき、その部分部分の執筆を担当するLA及びWG毎に全体の査読編集を行うREを、政府が推薦した研究者・専門家の中からIPCCのビューローが選定する。2004年4月の各WG及びIPCCのビューロー会合で選定を終了する。
(3) ドラフティング
 報告書案のドラフティング作業は2004年に開始される。研究者・専門家による専門的査読と政府による査読プロセスを経て3度の改訂作業を行い、最終的にはWG1報告書案は2007年第一四半期に、WG2及び3の報告書案は2007年央に、また、それらを統合した報告書案を2007年第4四半期までに作成することとなっている。
(4) IPCCパネルでの承認
 報告書案はIPCCパネルに報告され、IPCCパネルとしての承認、採択又は受理を受けることとなる(第3次評価報告書では、統合報告書の政策決定者向け要約が承認、本文が採択され、WG報告書については受理されている)。
報告書作成への貢献の方法

IPCC報告書作成作業への貢献は次の3通りがある。

(1) LA等として参加することによる貢献
 LAとして選ばれることにより、報告書の受け持ち部分を執筆する。LAは、各国が推薦した者の中から、専門性、地域バランス等を考慮してIPCCビュローが選定する。LAは執筆した部分に対する他の著者や査読者たちのコメントに対応してドラフトの改訂作業を行う。このため、客観性、公平性、プロセスの透明性を確保しつつ、科学的・国際的な議論を行う能力が必要となる。報告書作成の過程で、LA等が集まる会合に出席し、報告書の内容の調整や作業の進め方についての打合せを行う。2004年以降2007年まで、このような会合は、世界各地で年間数回開催されると見られる。

 LAの中から、IPCCビュローは統括執筆者(CLA)を選定する。CLAは一つの章全体のとりまとめを行うという重責を負うとともに、各作業部会毎に作成される政策決定者向けの要約や技術的要約の執筆者となる。また、最終的にIPCCパネルで承認を受けるまで、各国政府が当該章へ提出したコメントに対応する一切の責任を有する。
 LAは、LAの受け持つ部分に関して他の者に執筆の手助けを求めることがある。この者が報告書に大きな貢献を行っているとCLAが認めることとなれば、この者は執筆協力者(CA)として、CLA、LA等とともに、最終報告書に名前が掲載される。

 これらの執筆者の他に、IPCCビュローが選定した査読編集者(RE)は、それぞれのWGの報告書の査読コメントについて適切に検討・処理されたかを確認する作業を行う。REも報告書に名前が掲載される。また、この他に、各国が査読のために推薦した査読者(Expert Reviewer)は、ドラフトが配布され査読を行い、コメントを提出することができる。ドラフトに対して意義あるコメントを行った者は、査読者(Reviewer)として報告書に名前が掲載される。
(2) 論文が引用されることによる貢献
 IPCCの作業は、公表された論文のレビューによることになっているため、引用されるような論文を適時に発表していくことが報告書に対する重要な貢献となる。

 第4次評価報告書の作成完了は2007年であり、執筆作業は2004年に始まる。従って、この1〜2年中(遅くても2005年内)に論文として掲載することが望まれる。論文発表が2005年あるいはやむなく2006年になる場合は、その論文が注目され確かな評価が得られるように事前に学会などでの発表を行っておく必要があろう。なお、英語以外の論文もレビューの対象となるが、peer reviewが行われていることが前提となっており、英語での発表が有利であると思われる。

 分野は広範であり、気候変動問題に関する科学的な検証、モデル分析、気候変動の自然・経済・社会への影響評価、気候変動を緩和させるための温室効果ガス削減ポテンシャル及び政策ツールの評価、政策の国境を越えた影響評価など、自然科学・工学分野にとどまらず、経済学、法律学(国際法など)、社会学等の分野での研究もレビューされる対象となる見通しである。 

 IPCCに論文が引用されれば、著者の国際的な評価が高まるだけでなく、その論文の知見を生み出した研究プロジェクトの評価も自ずと高くなる。また、総合科学技術会議の地球温暖化研究イニシアティブにおいては、わが国の温暖化研究はIPCCの第4次評価報告書に貢献することが重要であるとしている。
(3) LAや論文著者らへの情報提供による貢献
 LAや論文著者らが執筆をする際に、技術についての可能性やコストの評価などIPCCの作業に重要な情報を提供することは、大きな貢献となる。また、政策手段のコスト評価などの基礎となるだけに、現実を正確に反映した報告の作成を確保する上でも重要である。この観点で大きな貢献を行ったと認められた個人は、謝辞に名前が記されるのが一般的である。

国内支援体制

 IPCC報告書作成を支援するために、平成16年度にLA等が確定した時点で国内連絡会を設置する予定である(平成15年度は準備会)。連絡会には、原則、LA等が参加する。また、必要に応じて、情報の収集やIPCCに盛り込むべき内容の検討等を行っていくために、WG毎(必要に応じて特定の課題についても)に分科会の設置を検討する。

 準備会の事務局は、地球産業文化研究所(GISPRI)及び地球・人間環境フォーラム(GEF)が共同で務める。

 上記(1)のLA等は、選ばれること自体が専門家として世界に認められるというメリットがある一方、ワークロードは大きなものとなる。そのため、国内連絡会を通じて情報の提供や執筆・査読作業の支援を行うほか、研究プロジェクトの評価に当たってIPCCへの貢献を勘案する、LA等として大学や研究機関の専門家がIPCCの会合に出席する場合には、その旅費を支援する等のインセンティブを検討する。(2)の論文発表については、引用されることがその論文の価値を大きく高めることに繋がるものであり、国内として特段のインセンティブは用意していないが、関係省庁等が運営する各種研究資金の配分においては、IPCCに対する貢献の可能性にも十分配慮するものとする。