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2003年 4号

Conference
UNFCCC-SB18会合出席報告(1)
− 異常気象の中での気候変動交渉 −



 2006年6月4日〜13日まで、ドイツ・ボンのマリティムホテルにおいて、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第18回補助機関会合(SB18)が開催され、GISPRIからは木村専務理事をはじめ3名が参加した。会合の詳細な報告は、弊所ホームページに掲載予定の参加報告書に譲ることとして、ここでは今回の会合の全体的な印象について報告する。

※ SB18に関する情報は下記をご参照ください。
http://www.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/copinfo.html

・SB18会場のマリティムホテル
 フランクフルト空港を一歩出ると、そこはまるで東南アジアの空港のような湿気を含んだ熱気に満ちていた。昨年の経験から寒さ対策で持参したジャケットは早速カバンの奥の方にしまいこみ、冷房があまり効かない電車の中では、ミネラルウオーターで自分自身を冷却しながら、ボン中央駅までの2時間を耐え忍ぶことになった。我々が滞在した期間中のボンは概ね好天に恵まれ、日中の空は青く澄み渡り、遮るもののない太陽からの日差しは予想より随分強いように感じた。最高気温は30℃を超える日もあり、ライン川沿いや町の公園等では、日光浴や水遊びをしながら、少し早い本格的な夏の訪れを楽しむ市民の姿が数多く見られた。しかし、日中の気温の上昇による水蒸気は、夕方の激しい雷雨となって大地に舞い戻り、あまりの激しさにしばしば会場やホテルで足止めを食らったこともあった。また、落雷や強風による倒木等によって航空機や電車が遅延することもあったようだった。インターネットで日本が入梅したことを知った後は、暑さに辟易しつつも太陽の恵みを十分楽しんでいたが、帰国してからこの暑さは欧州全域において記録的なものであったことを知ることとなった。

 世界気象機関(WMO)や日本気象協会が発表した資料によると、今年の6月において、「南フランスでは最高気温が40℃を超え、6月の平均気温は平年よりも5℃〜7℃上回った」、「スイスでは1753年以来、過去250年で最も暑い月となった」、「ミラノでは最高気温が35℃を超える日が続き(平年は28℃)、6月末にはイタリア全土における冷房需要増加による電力不足のため各地で停電が発生」、そしてドイツでもベルリンで平年21℃だった最高気温が32℃を超える一方で、不安定な大気の影響により各地で大雨・暴風による被害が報告されたという。昨年、欧州を襲った記録的な豪雨と同様に、この記録的な猛暑と地球温暖化、さらに人為的な活動との因果関係は科学的に証明することは難しい。このことが、気候変動あるいは地球温暖化問題の交渉、対策の難しさである。


  UNFCCC事務局発表によると、今回の会合のメディア、オブザーバーを含む参加者は、138ヶ国、107機関から約1,300人となっており、数字の上は昨年の同時期に開催されたSB16よりも200名ほど多かったようだが、直前の日本及びEUの批准手続き完了で京都議定書発効の機運が少しずつ高まりを見せ始めた昨年のSB16と比較すると、その後、カナダ、ニュージーランド、スイスと先進国の京都議定書批准国は着実に増加したもの、発効の最後の鍵を握っているロシアに関しては、SB18直前のG8サミットにおいても明確な回答は得ることが出来ず、今会合における議定書発効への機運は昨年よりもむしろ下り坂のような印象を受けた。その状況を反映してか、同時期に開催された研究機関や国際機関によるサイドイベントでは、クリーン開発メカニズム(CDM)に関するものと並んで、京都議定書第一約束期間以降(2013年以降)の枠組みのあり方に関する研究テーマが注目を集めていた。2008年から2012年における5年間にわたり先進国に温室効果ガス排出量の削減義務を課した京都議定書がさらに厳しい削減目標とともに継続されるのか、あるいは途上国の削減義務を含む新たな枠組みや目標設定等が採用されるのか等、といった2013年以降の気候変動レジームに関する議論は、2005年末までには気候変動枠組み条約締約国会合において交渉が開始されることとなっており、京都議定書発効及びその実施と並行して、今後数年にかけてさらに注目度が高まってくると思われる。


 尚、会場内外で注目を集めていたロシアの批准については、全体会合でロシア代表団が「批准前向き」という従来の回答を繰り返したものの、やはりその時期についての具体的な言及は無かった。一方で、ロシア政府にとって京都議定書実施にかかるコストが懸念材料であることを明らかにされ、今回の会合では京都議定書の発効により12月イタリア・ミラノで開催される気候変動枠組み条約第9回締約国会合(COP9)が、第1回京都議定書締約国会合(COP/MOP1)になる可能性を高く見積もる雰囲気は極めて薄かった。

 一方、京都議定書実施に向けた作業として、議定書5,7,8条(排出量算定の方法論、報告、審査)ガイドライン策定作業がほぼ終了したのに続き、排出削減クレジット等の登録簿システムの構築、吸収源CDMの定義と様式についても一定の進展が見られた。登録簿システムと吸収源CDMの議題についてはCOP9と並行して開催されるSB19での議論、及びCOP9決議のために、COP9直前にも交渉の場が用意される予定である。また、途上国が温室効果ガス排出削減の「緩和措置」という文言に対して「削減義務の受け入れ」に繋がるものと強く警戒しているため、膠着状態からなかなか抜け出せないでいるIPCC第3次評価報告書(TAR)の気候変動枠組み条約の交渉における取り扱いについても、IPCC専門家と、産業界、地方自治体、NGOといった関係者との情報交換を目的とした協議の場がCOP9前に開催されることになっている。


 大方の予想通り京都議定書が発効しない状態でCOP9が開催された場合は、COP9が交渉期限となっている吸収源CDMに関する議論が最も注目を集めることになるだろう。一方で、サイドイベントで注目を浴びていた将来の枠組みに関する議論にも注意を払う必要があるだろう。すでに京都議定書採択から6年を過ぎ、発効への道筋を開いた「マラケシュ合意」からも2年が経過しようとしている。そして、議定書第一約束期間開始まで5年あまりの中で、将来の枠組み交渉も始まろうとしている。SB18会場の外側で経験した「日中の強い日差しと夕方の激しい雷雨」という明確に区別された"異常気象"と呼ばれる天気とは対照的に、会場内における気候変動の交渉の行方は、長期、中期、短期の対策・交渉が入り混じり、各国の思惑を包み込む灰色の雲は思いのほか厚く広く、議定書発効というこの問題の当面の梅雨明けすら、まだまだ先のようである。
以上
(文責 高橋 浩之)