ニュースレター
メニューに戻る


2003年 4号

Study Report
「WTO加盟後の中国経済が我が国及び東アジア
経済に与える影響と 我が国の対応のあり方」
研究委員会報告書



 平成14年度は、中国経済を理解するために、マクロ的視点に立った分析及び中国産業別動向並びに電子電機、自動車産業等戦略的に重要な産業を中心に日本企業の対中戦略のあり方を研究した。

I.WTO加盟で変貌する中国
 
 WTOへの加盟により、中国は対外的には「世界経済に組み込まれ」、国内的には「人治社会から法治社会への転換」が進む。一方で、「民営企業の健全な発展」、「所得格差の是正」、「環境問題の解決」が新体制下での課題である。

II.中国経済の台頭と日本(マクロ経済的アプローチ)
 
 我が国においては、「中国脅威論」が盛んになっている。しかし、中国の台頭は、日本にとって挑戦ではあるが、機会でもある。中国は潜在的な有望市場で、投資先でもある。両国間の補完性を活かし、日本は衰退産業の中国への移転と新産業の創出を組み合わせた「空洞化なき高度化」戦略を進めるべきである。

III.中国経済に関する考察(産業ベースのアプローチ)
 
 中国産業は、外資主導で発展を続けているが、中国企業の弱点である研究・開発体制の整備が、不可欠である。

 自動車産業については、WTO加盟により世界の自動車企業との激烈な競争が、不可避と見られている。競争力強化にとって、乱立する国内自動車メーカーと部品メーカーの整理、再編が中国の最大の課題である。一方、外資系自動車企業にとっては、中国を自動車の有望なマーケットとして捉えるだけではなく、最適調達の一環として自動車部品生産を初め、完成車輸出を含めてどのように中国を活用していくかが、重要になる。

 電子電機産業は、中国の輸出による外貨獲得のトップになっているものの、輸出の75%が外資系企業によるものである。中国の電子電機産業が極めて優位にある要因は、内需の巨大さ及び部品の国産化とその集積である。例えば、電子電機の花形商品である携帯電話は中国が世界最大の生産・消費国になり、研究開発においても、中国にR&Dセンターを設置し、新製品開発に取り組むことが外資大手電子電機メーカーの勝ち残り条件の一つになっている。一方、中国の課題としては、IC開発設計を独自でできるまで、技術力を高めることが挙げられる。

 また、巨大市場として注目される中国市場で、内外企業による企業間競争の激しさが増している。世界的なIT不況にもかかわらず、コンピュター、通信関連、コンピュター・ソフト関連や通信関連で、欧米企業は中国市場で大きく伸びている。90年代前半までにプレゼンスが高かった日系企業は、グローバル競争に直面しているが、価格競争力が弱く、意思決定の遅い日系企業は次第にそのプレゼンスを低下させている。

 以上からも明白なように、昨今「市場としての中国」の台頭という新しい段階を迎えている。こうした新しい変化のなかで日本企業は、中国経済の新しい転換点を見極め、日本企業の対中経営戦略を構築しなければならない時期に来ている。今後の中国進出に当たり考えるべき方策は、「現地化」である。中国人高級管理者の養成と昇進、技術移転を通じた新技術の開発と設計能力高度化、資金調達の多元化、中国国内で高品質部品の調達、緻密な市場調査等が「現地化」の出発点である。

 WTO加盟で中国の投資環境は改善されつつあるが、市場経済に移行して日の浅い中国では予想外のトラブルが続出し、中国ビジネスには他の地域と比べて、多くのリスクが伴っている。リスクの範疇として「法的不確実性という制御不可能なリスク」(裁量行政の横行、知的財産権保護の対応不足等)、「投資形態のリスク」(委託加工、合弁、独資固有のリスク)、「販売先確保リスク」、「代金回収リスク」、「超長時間労働のリスク」(先進国からの労働条件に関する批判)、「経営現地化の遅滞リスク」(現地人材の幹部登用の遅れ)が指摘できよう。

IV.中国と日本及び東アジア
 
 中国脅威論が盛んであるが、中国の日本との競合度は上昇してはいるものの、決して高いレベルには達していない。中国の発展の速度が今後極めて急速に上昇することも考えがたく、中国の日本に対する競合度は、今後とも徐々に上昇する程度であると思われる。

 FTAに関しては、中国は、他国の忠告を素直に聞く伝統が存在しないので、FTAによって政策環境改善を望むのはすぐには無理である。着目すべきは、FTAの「質」である。質の第1の要素は規律の高さ、第2の要素はカバーする範囲の広さである。日本としては、先に水準の高いFTA網を他国との間で形成してしまうべきである。日本がASEANや韓国と質の高いFTAを作っていけば、中国に対しいい意味でのプレッシャーをかけることになる。それが中国に対し、政策環境の改善を促す最良の方法であろう。さらに、日本は長年にわたって中国に対し経済協力を行っているが、現在の日中経済関係を踏まえ、その目的をもっと明確に規定すべきである。すなわち、中国、ASEAN向け経済協力は、「経済統合促進支援、アジア・ダイナミズム活性化」を目標とするものとして、抜本的に再編成すべきである。

V.委託調査研究  「WTO加盟後の中国経済が東アジア経済に与える影響と我が国の対応のあり方」(委託先:(株)日本総合研究所)
 
 NIESからの生産拠点としての対中投資が増加し、NIESは「産業空洞化」に苦しんでいる部分もあるが、研究開発等高付加価値サービス部門の発展が見込まれる。他方、ASEANに投資している外資はASEAN域内市場をターゲットにしているため、中国への生産拠点移転は限定的である。むしろ、中長期的にみれば、中国資本のASEAN進出が予想される。このような中で、我が国としては国際競争力回復に向け、問題先送り体質等「特異性」の改善、外資の投資対象としての魅力作り等が必要であろう。

「WTO加盟後の中国経済が我が国及び東アジア
経済 に与える影響と我が国の対応のあり方」
研究委員会委員
(平成14年10月現在)

委員長 関 志雄 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員

委員(五十音順)
   
  青木 俊一郎 松下電器産業(株) 中国・北東アジア本部 顧問
  井出 亜夫 慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 教授
  大木 博巳 日本貿易振興会 経済情報部 国際経済課 課長
  角田 博 (社)日本経済団体連合会 国際協力本部 本部長
  木村 福成 慶應義塾大学 経済学部 教授
  金 堅敏 (株)富士通総研 経済研究所 上席研究員
  後藤 康浩 日本経済新聞社 編集委員 兼 論説委員  
  嶋原 信治 日中投資促進機構  事務局長
  服部 健治 愛知大学 現代中国学部 教授
  原田 泰 内閣府 経済社会総合研究所 総括政策研究官

   
事務局 木村 耕太郎 (財)地球産業文化研究所 専務理事
  照井 義則 企画研究部長
  増渕 友則 企画研究部 次長