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2003年 6号

Conference

第5回WTO閣僚会合NGOサイドイベント報告


 メキシコ・カンクンにて2003年9月10〜14日まで開催された第5回WTO閣僚会合は貿易自由化のための進展を一切見せられないままその幕を閉じた。ドーハで立ち上がった「開発アジェンダ」は2005年1月1日までに一括合意する予定だが、その折り返し地点となった当会合での交渉が決裂したことで、期限内での合意が非常に困難になったことに加え、WTOという機関の存在意義自体さえ問われる結果となった。

  様々な思惑が行き交う新ラウンドだが、近年における環境協定の重要性に対する認識の高まりや自由貿易と環境保全の両立の難しさを受け、その交渉アジェンダの中には初めて「環境」という項目が取り入れられている。当研究所は、環境と貿易の調和の重要性が更に多くの人々に理解されるよう、アメリカの研究機関Global Environment and Trade Studiesと共に2002年から"Achieving Harmony in Trade and Environment"日米タスクフォースに参加し、貿易と環境の調和を促進するための研究を進めている。今回のWTO閣僚会合でも、当プロジェクトの中間報告として9月10日にNGOセンターのあるホテル・シエラにてサイドイベントを行い、各研究テーマにおける政策提言を発表した。

  サイドイベントは2つのパネルセッションに分けられ、それぞれ10分程度の政策提言に加え1時間の質疑応答を行った。傍聴者は両パネルとも50名程度で、一歩踏み込んだ質問が多く投げかけられ盛況であった。発表プログラム及びパネリストは以下の通り:
 
パネル1:貿易と環境の調和を達成するには:アジアからの新しい視点
議長 Mark Richie (Institute for Agriculture and Trade Policy)
パネリスト 今井健一&Moustapha Kamal Gueye (IGES)
小田原博史&蛭田伊吹(GISPRI)
松本健(公正貿易・WTO研究センター)

パネル2:貿易と環境の調和を達成するには:10年間の経験
議長 岩本功志(公正貿易・WTO研究センター)
パネリスト Monica Araya (Yale Center for Environmental Law and Policy)
松下満雄(成蹊大学客員教授)
Daniel Esty (GETS)

 パネル1では、日本及びアジアの立場から貿易と環境の問題を分析した研究を主に紹介し、特に当研究所は貿易と環境分野におけるキャパシティビルディング及び技術支援を促進するためにどうしたらよいのかについて2つの政策提言を行った。まず1点目としては、WTOに限らずOECD、UNEP、UNDP、UNIDOといった国連機関や環境協定事務局等多くの機関がそれぞれ大量の資金と労力を投入して支援を行っているのにもかかわらず、いまだ途上国における制度・知識レベルが不十分であるという現状から、「貿易推進」「環境保全」という垣根を越えてそれぞれの機関がお互いの支援活動を把握し調整しあい、それぞれの役割に即した活動に特化して行うべきなのではないかという点を指摘した。そうすることによって活動の重複を避け限られた金銭的・人的・時間的資源を最大活用することが出来るようになる。2点目としては、途上国のニーズを把握せずにキャパシティビルディング活動を効果的に実施することは不可能であることから、もっとキャパシティビルディング活動への途上国自身の積極的な参加の必要性を指摘した。特に気候変動枠組み条約では途上国を含む各締約国に自国のニーズ等をまとめた国別報告書を提出するよう義務付けていることから、それらの利用可能性も紹介した。

  その他、IGESからはアジアにおける貿易と環境分野におけるWTOとFTAの関係に関する発表があり、松本健氏からは同GETSプロジェクトメンバーである村瀬信也上智大学教授、及び山口光恒慶應義塾大学教授の論文の紹介を行った。また、パネル2ではここ10年における「貿易と環境」議論の進展及び経験から、「環境」イシューの進展には南北のすべての利害関係者の信頼関係が大きな影響力を持っていることや、WTO協定内に環境に関する問題を扱う際の更なるガイドラインを作成する必要性が指摘された。

  当プロジェクトは今後1年間研究を継続していく予定である。WTOの交渉において環境イシューは最重要アジェンダとして扱われていないものの、既に無視し続けることが出来ないことは明白であり、むしろ更に重要性が増してくると思われる。WTOをはじめ、貿易と環境の調和という問題が様々な場面で注目され、十分に検討されるようになるよう今後もGETSプロジェクトを通して世に問いかけていきたい。
 

GETSプロジェクトの政策提言は、http://www.gets.org/pages/harmony/からダウンロード可能。(CD-ROMバージョンも有。)

以上
(文責:蛭田 伊吹)