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ニュースレター
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2004年 1号 |
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Conference | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第9回締約国会議(COP9)の概要
【総括】 COP9での我々の主な注目点は、
ロシアが批准すればCOP/MOP1ということで大変盛りだくさんな会議になるところであった。しかし、結局COP単独の会議となり大きな機軸を打ち立てたというより、マラケシュ合意からCOP/MOP1に至る間の個別検討課題を粛々と詰めていく比較的地味な会議という印象であった。また、主要議題をみて分かるように対立が尖鋭化するようなシビアなテーマは少なく、交渉の外側にいる我々には静かに検討が進んだようにみえた。 会議を通じて、吸収源CDMのルールの合意により京都メカニズムの実務ルールは完成を見、LULUCFのグッドプラクティスガイダンスも採択された。また、サイドイベント等を通じた情報交換や人的交流の蓄積からは、CDMや排出権の市場を巡る様々な取組が、準備・検討からいよいよ実動の段階には入りつつあることが感じられた。 議定書の発効はともかく、温暖化対策へ向けた各国各層の様々な取組が地道に進みつつある印象をもった。 気になるロシアの動向に関しては、秋のモスクワでの気候変動会議で示されたスタンス(批准は経済的利益・国益をもとに慎重に判断していく)を織り込み済みであり、ロシア政府高官の様々な発言の報道にも会場は比較的冷静であった。結局、特に踏み込んだ発言等はなく、目新しい動きはなかった。 一方アメリカは大代表団及び多数の関係者(計100名近く)が参加し、独自の温暖化対策についてのスタンスを示した。京都議定書の枠外ではあるが、長期視点にたつ技術開発を中心とした明確な姿勢と活動は、1つの温暖化対策の流れを形成しつつあるといえた。 COPの交渉は、過去10年に及ぶ交渉の経緯を経て、各国の立場・利害の差が明確化・固定化する傾向にあり、テーマごとに途上国と先進国、先進国間でもEUとアメリカ、EUの中でも旧15カ国と新規加入予定の中東欧諸国、途上国の中でも産油国と非産油国・島嶼国というように、複雑に意見・立場が分かれ、全体としての合意することの難しさが表面化している。なるべく、対立を表面化させず、信頼関係を保ちつつ一定の合意に交渉を導くのは相当の手腕を要し、各ワーキンググループでの合意成立に際してはグループの議長が涙する場面も見られた。 この点、昨年のCOP8(インド・ニューデリー)では、デリー宣言へ盛り込む内容に関し途上国と先進国の対立がかなり表に出た(途上国の削減義務等を巡り対立)。そこで、今年は相互の信頼関係の醸成を意識し、会期の後半(10日、11日)に行われた閣僚級会合では交渉ではなく自由な議論を行うことになった。昨年のようにコンセンサス文書は出さず、内容は議長サマリーとしてまとめられた。なお、閣僚級会合では日本の小池百合子環境大臣が3つのセッションのうちの1つで共同議長を務めた(テーマ:気候変動、適応〔気候変動による悪影響への対処〕、緩和〔温室効果ガスの排出削減及び吸収〕及び持続可能な開発)。 次回COP10は、2004年11月〜12月、アルゼンチンの首都 ブエノスアイレスでの開催が予定されている。 【主な交渉内容とその結果について】 上記にあげた主な注目点にそって、主な交渉内容と結果を概括する。 なお、蛇足であるが、COPでの交渉の仕組みを簡単に説明すると、はじめにCOP全体会合で検討すべき議題を採択し、それらを内容に応じてSBSTA、SBI両補助機関での検討に付す。SBSTA、SBIではそれを受けて、各議題を検討するために議題ごとの交渉・作業グループ設ける。各グループでの結論はSBSTA、SBIの中の全体会合にあげられ、そこで採択されればCOP全体会合にあげられる。そこで採択されてはじめてCOPとしての決定となる、という手順を踏む。
【CDM理事会第12回会合について】 COP9に先立つ11月27日、28日に、同じ会場でCDM理事会第12回会合が行われた。 主な議題は、OE(operational entity)の信任、CDMの新方法論(ベースラインとモニタリング計画に関する方法論)の承認、CDM登録簿の構築についてであった。
【サイドイベント】 (1)概括 COPでは政府代表団の交渉と併行して会場内の小部屋や近くのホテルでサイドイベントが行われる。研究機関やNGO、産業界、各国代表団等が主催する。特定のテーマについて最新の動向や主張が紹介されるほか、参加者とのディスカッション等を通じた多様な情報交換も行われる。参加者にとっては人的な交流も含め、貴重な情報収集・気付きの場となる。 12日間の会期中、約150余りのイベントが開催された。120余りの公式イベントと、約20のIETA とWBCSD(※) の共催イベントがその中心である。午後1時〜、3時〜、6時〜、の3つの時間帯で、各2時間程度で行われ、参加者は、各10名〜50名程度である。 今年テーマとして目立ったのは、
日本の国内制度設計の参考になるのではないかと期待していたEU排出枠取引指令下での各国のナショナルアロケーションプランや、国内法制度整備状況に関しては、直接的・具体的に言及したイベントはなく、その方面に関する情報はあまり得られなかった。 多数のイベントの中で、異彩を放っていたのは、排出削減量の取引市場等温暖化ビジネスに関するIETAとWBCSDの一連の共催イベントである。会場でも独自のプログラム冊子を配布し、産業界をはじめ多数の参加者を集めて存在感があった。開催された21のイベントの中には、京都の枠組外での活動、自主行動計画(voluntary approach)、カーボンファンド、排出削減量取引の財務会計処理、CDMの最新動向、GHGプロトコル自主行動計画策定ガイダンス、GHG市場の動向、EUと京都のリンク 等、気になる内容が多数盛り込まれていた。 プレゼンテーターには、弁護士事務所や金融機関からのメンバーもいた。活発なGHGマーケットは、多数のステイクホルダーの存在と、特に金融機関と産業界の緊密な連携により効果的に発展するという印象を持った。金融機関と産業界の連携は、今後日本においても国内制度の進展に伴い更に進むと思われる。それは、プロジェクト投資・資金調達面のみならず、カーボンリスクのヘッジなども含めた証券・保険業界までも含んだダイナミックな広がりを持つものではないかと考える。 他には、アメリカの独自路線も目をひいた。アメリカ政府は報道されているように京都議定書の枠組とは一線を画した動きをしている。「科学的知見をベースにしたリスク回避とチャンスの活用」というキーワードのもと、技術革新を軸とした長期視点での取組の必要性を、公式の交渉の場のみならず、サイドイベント、配布資料等でもかなりアピールした。政府団による説明会のほか、ゴージャスな作りの資料も配布された(Climate Change Science Program Strategic Plan)。 これに対しては、環境NGO主催のサイドイベントで政府の政策に批判的な意見が出される一方、CCX (シカゴ気候変動取引)など民間や州レベルでの独自の取組にふれるもあった。また、USCIB(United States Council for International Business)のイベントでは、産業界での自主行動計画の紹介もあった。このように、アメリカの内部では政府の政策意向と併行して色々なレベルで多様な価値観・利害のもと独自の取組活動が個別に、大変活発に進んでいることが各イベントを通じて伺えた。中でも、CCXは欧州の動きの向こうを張るものである。かつて排出枠取引の導入を強硬に主張したアメリカだけに、民間レベルでもEUに遅れをとらないよう独自の動きを進めている。その背後には、温暖化関連のビジネスチャンスはゲットする、そのためにも、アメリカを軸とした新しい枠組を作りたい、という意思が感じとれた。 なお、アメリカの研究機関やNGO、大学等が主催したイベントは公式イベントだけで13あり、一国としては最多の部類に入る。 (2)個別傍聴報告 参加イベントを選ぶ際に着目したテーマ・切り口は、
【雑感など】 ミラノは、COP初日の12月1日から雨の中公共交通機関のストにみまわれ、参加者にとっては戸惑うこともあったが、後半は天気にも恵まれ、初冬のロンバルディアの古都の美しさは格別だった。閉会にあたりペルシャニ議長(ハンガリー)がミラノの町の中心にある有名なドゥオモが過去数百年かけて建築されてきたことになぞらえて、温暖化の対策も息長くこつこつ積上げていくことが大切である、という趣旨の挨拶をした。過去のCOP、今回のCOP、これからのCOPをみても、色々な意味で示唆に富む比喩だと思った。 当のそのドゥオモは現在清掃作業中で足場に覆われていたが、清掃でさえ何年もかかるという。ミラノは1943年の爆撃で多くの歴史的建造物が瓦礫になってしまったが、戦後数十年かけて正確に復元し続けている。息長く地道に積上げる、という言葉が印象に残った。
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