日本経済は、1990年代の永い不況のトンネルから抜け出し、最近ようやく成長の軌道に乗ってきた。企業は、リストラの努力の結果、収益力を高め、モノづくりへの自信を回復した。しかも技術開発に力をいれ、国際特許の取得でも、米国に次いで、二位となった。
日本は、新しい大衆文化の創造をリードするようになり、2002年に米国の若いジャーナリストが「日本はグロス、ナショナル、クールで世界をリードしている」と指摘した。「クール」とは「かっこよさ」のことであり、ポップアート、アニメ、ゲームソフト、漫画、ファッション、ディジタル製品、キュイジーヌなどをさす。このような日本の新しい大衆文化が欧米やアジアの若者の心を捉えている。
このような明るい反面、最近、日本の社会の持続性に疑問を投げかけるいくつかの現象が起きている。その一つは、人口減少と高齢化である。特殊合計出生率が1.29まで下がり、人口増加率が0.11になったことは、日本人に大きな衝撃を与えた。人口の安定に必要な特殊合計出生率が2.1とされているから、日本の人口減少は深刻である。
高齢化も、日本では先進国のうちで最も早く、かつ大規模に進展する。六十五才以上人口の比率が現在の19.24%から2025年には、27%になるという。
少子化と高齢化は、その進行する過程で、成長率の低下、貯蓄の減少、財政収支の悪化、年金制度の行きづまり、世代間の対立などを招く。
少子化の原因は、若い人の価値観を反映した未婚化と晩婚化にある。例えば、五十才の未婚率は、1950年には男性1.2%、女性1.4%であったが、最近では、男性12.2%、女性5.7%に上昇した。
最近、「パラサイト・シングル」が流行語になっている。親の家に住み、給料を自分の趣味やファッションに使う若い層をさす。二十才から三十九才までの未婚者が人口のほぼ10%に当たる約千二百万人にも達している。
政府は、ようやく育児施設の充実や育児教育の取得の促進、教育への補助金の給付などの少子化対策を講ずるようになっているが、より重要なことは、家庭を重視する価値観の回復や結婚生活の魅力を取り戻すことである。
去る七月、警察庁は2003年の自殺者が34,427人に達したと発表した。これは、リストラによる生活苦や将来への目標喪失などが背景にある。
景気回復により、失業率は、2005年9月に4.2%に回復しているが、若年層のそれは、10%前後と高い。しかも多くの若者が将来への進路を描き得ず、学校を出てもパートかアルバイトで過ごすいわゆる「フリーター」が昨年には二百十七万人にも増加した。若者の労働観や価値観が揺らいでいるといっても過言ではない。
社会の持続性への不安は、こればかりではない。かつては、世界で最も安全だといわれてきた日本で、犯罪が急増してきた。刑法犯の犯罪件数は、2003年に若干歯止めがかかったが、それでも二百七十九万件で、八年前より百万件も増加した。検挙率も、その間に47%から23%へと下がった。親子間の殺人が増加しているし、青少年犯罪の低年齢化と凶悪化が進んでいる。
ここ数年、教育水準の低下も危惧されている。ゆとり教育の実施で小中学生の学力低下が指摘されているし、日本の大学の国際競争力は、低い。日本に来る海外からの留学生が欧米に比べて少ないことが、それを如実に物語っている。
最近、景気こそ回復してきたとはいえ、それを持続するためには、社会の健全性と連帯意識を高めなければならない。学校はもとより、企業、家庭、地域社会、NOPなどが一体となって、規律を回復し、教育を充実させなければならない。要は、「人間力」の充実であり、発揮である。二十一世紀は、「知力の時代」といわれ、「グローバリズムの時代」といわれているが、そうした中にあって、人類が希求する新しい価値を創造し、世界の人々に日本の魅力を感じさせるとすれば、それは、まさに「人間力」なのである。人間力が相乗発展するよう創造性豊かで、規律を重んじ、他人の価値を尊重する質の高い社会を持続したいものである。 |
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