2025年1号

グリーン・トランスフォーメイションにかける産業の未来



 2025年の年頭に当り、新春のお慶びを申し上げるとともに所感の一端を述べさせて頂きます。
 

 1. GXをめぐる国際環境

 最近、世界各地で異常気象が厳しさを増している。2024年の夏には、米国西部に巨大なハリケーンが襲い、世界各地で山火事が発生している。日本では熱波や豪雨に見舞われた。
 11月11日から第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)がアゼルバイジャンで開催され、2015年COP21で決議された「産業革命前からの平均気温を1.5度以内に抑える」というパリ協定をいかに実現するか具体策の成否が注目されていた。そしてCOP29では気候変動対策資金として先進国が2035年までに年間3000億ドルの拠出を達成することで合意し閉幕した。
 最近、GXとともに、DXが大きな関心を呼んでいる。生成AI、データセンター、高度半導体などがその中心をなす。DXは、産業革命以来の産業システムを根本から革新するものである。しかし、それはエネルギー消費を増大させ、新たな対応を迫っている。世界のエネルギー消費の所得弾性値をみると、1990年代の0.29%から2020年代に0.51%に上昇し、今後AIなどを中心にDXが進展すれば、GXへの対応はさらに必要性を増すことになる。
 1972年ローマクラブが資源の有限性と地球環境の重要性を指摘して以来、52年が経過した。1992年リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議で気候変動枠組条約が締結され、それを基礎に国際社会の挑戦が始まった。1997年の京都議定書の締結をはじめ、屡次の締約国会議での合意がそれである。しかし、米国が前期のトランプ大統領時代に一時パリ協定から離脱したり、発展途上国が支援強化を求めたり、GXをめぐる国際協調体制は、必ずしも順調に進行してきたとは言い難い。
 最近の国際情勢をみると、厳しい対立を深めている。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ地区等との戦乱などによって天然ガスや石油の市場が混乱し、エネルギーや環境問題を共同して解決しようとする機運が損なわれている。米国では、1月にトランプ氏が大統領に就任するが、過去の経験からみて地球温暖化問題には関心が薄く、パリ協定から再度離脱するのではないかと危惧される。また、最近、グローバル・サウスが政治経済上の存在感を増しているが、地球環境問題よりも成長志向に傾いている。

 2.産業はGXにいかに立ち向かうか

 産業は、産業革命以来、化石燃料を消費することによって、近代化を進めてきた。しかし、それは、効率中心の大量生産、大量消費、大量廃棄、大量汚染のシステムで、資源、エネルギーを大量に消費し、地球環境を悪化させるものであった。今や産業構造を根本から脱炭素化しなければ、今日までの産業活動や生活環境を維持できない事態となっている。
 GXとは、単に、化石燃料をクリーン・エネルギーに転化するだけでなく、それによって起こる産業や社会の構造変化を含めた取り組みを意味する。地球社会の存続は、世界の産業がグリーン化をいかに実現するかにかかっている。それには、エネルギーの需要、供給の両面において革新的な技術革新と構造改革が不可欠である。また、先進国、発展途上国を問わず、世界の政治のリーダーをはじめ産業界、学界、それに消費者がこの問題の重要性を認識し、対策実現に協力することも必須であろう。
  第一に、エネルギーの供給構造を革新することである。太陽光や風力などの自然エネルギーの利用拡大に加え 安全性を確認したうえで原子力の利用の拡大が期待される。さらに、水素、アンモニアなどの利用が必要になる。核融合も研究課題である。
 第二に、利用面で構造を革新することである。産業活動や生活面での省エネルギーをさらに加速するとともに、電気自動車、自動運転システムなどの拡大が必要となる。さらに、ドローンによる配送システムの活用も期待される。また、高速道路でのソーラー発電と自動走行充電なども検討に値しよう。
 第三に、排出権取引の国際展開である。欧州の経験を国際社会での展開に役立てることが有効であろう。
 第四は、資金調達メカニズムの改革である。発展途上国のへの支援を拡大し、革新的な技術開発を進めるとなれば、多額な資金が必要になる。各国が温暖化ガスの排出に応じて資金を拠出するメカニズムを導入することも検討課題である。これには、反対が多く実現するにはかなりの困難を伴うが、二酸化炭素の排出が経済成長とある程度の相関性があるとすれば、それに応じて資金を拠出し、その資金を技術開発、発展途上国への援助などに有効に配分すれば大きな効果が期待できるであろう。

 3.日本の取り組み

 日本では、環境対策には、1970年代から精力的に取り組んできた。その中心は、公害問題の解決から始まり、脱炭素(カーボン・ニュートラル)を実現する試みである。そして経済のリサイクルを促進するため、1999年に循環経済ビジョンを策定し、それを受けて2001年に循環型社会形成促進基本法が制定されている。
 最近、日本政府は、COP 21 の合意を確実に実施するため、2030年に二酸化炭素の排出を46%減少することを目指して取り組みを強化している。その一環として、2023年5月に、GX関連2法を成立させた。それは、GX推進法(正式名称「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」)及びGX脱炭素電源法(正式名称「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」)である。
 2023年2月の閣議決定により、成長志向型のカーボン・プライシング構想として2025年度に排出量取引制度の本格稼働、2033年度に発電事業者への有償オークション導入を目指し、2028年度に炭素に対する賦課金制度の導入という方向が打ち出されている。そして、安全対策を確保したうえで、原子力発電の再開、洋上風力の建設促進、水素エネルギーの拡大などに取り組んでいる。現在、政府はこうした内容を含めてエネルギー基本計画の再検討を進めている。

 4.アジアの脱炭素化

 ASEAN諸国の多くは、脱炭素化の実現を表明してはいるが、電力の多くを依然として石炭、天然ガスの火力発電に依存している。2050年―2065年にカーボン・ニュートラルの目標を掲げてはいるが、経済成長を志向しているだけに現実にそれを実現するには、多くの課題がある。
 2023年12月、アジア・ゼロ・エミッション共同体(AZEC)首脳会議が開催され、脱炭素に向けて基本原則、政策策定支援、脱炭素技術の協力強化が確認された。これに基づき、いくつかの案件が動き出している。
 中国は、現状では、二酸化炭素の最大の排出国であるが、ソーラーパネルや電気自動車の最大の産出国であり、風力発電の上位10社のうち6社は中国が占めている。中国の地球環境条件は、今後徐々に改善に向かうであろう。
  日中間では、脱炭素化に向けて、多彩な協力が展開されてきた。技術革新の展開、政策面の協力、サプライチェーンの強化、環境教育と人材育成、第三国への協力などがそれである。例えば、日中経済協会が窓口となり、約17年にわたり、環境エネルギー・フォーラムを開催するなど、企業間の協力を進めている。

 終わりに
産業の未来への発展は、GXの成否にかかっている。GXは、産業社会にとって、重要な挑戦課題である。関係国際機関や関係政府が適切な対策を講ずるとともに、関係企業が精力的に対策を展開し、明るい地球社会が構築されることを期待するものである。

      

 

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