去る8月17日より8月19日迄、ストックホルム郊外アルマサにおいて、ストックホルム大学日本研究所(EIJS)主催による“日本のR&D戦略”に関する会議が開催され、当所から清木が出席した。EIJSはこのところ当所が最も密接な研究協力をしている組織で、今回のワークショップも同研究所の客員教授であるジョー・シガードソン・ルンド大学教授が本テーマでの日本におけるフィールドリサーチを当所に席をおいて行った経緯がある。今回のワークショップの参加者は総勢80名程度、うち日本より清木の他高柳東芝顧問、児玉 東大教授等5~6人、海外からもチャタムハウスのルイ・ターナー、エジンバラ大学のフランセン教授他、第一線の日本の科学技術問題の専門家が集まった。
テーマは多岐にわたり、R&D戦略により日本の産業は再生するか否か、東芝・フィリップス・シーメンスの戦略の比較から何を学ぶか、日本では何故ソフトウェア産業が発展しないのか、日本政府の基礎研究分野でのR&D政策の方向、更には日本の大学教育はどの方向に改革されるか等が議論された。ヨーロッパでの会合、得てしてなりがちのように日本の特殊性、ヨーロッパの慣行との違いが比較的長い時間を取って議論されたのが若干の心残りだったが、2日半の会議で、冷戦後アメリカの軍事予算が大きく減少する中で、世界的なイノヴェーション・マネージメントについて、日欧が政府・民間を問わず協力を強化していく必要が確認されたことは大きな収穫だった。
又、今回の議論の中から今後のEIJSの研究テーマとして、日本のソフトウェア産業に関する研究、大学教育の改革に関する研究が来年度以降アジェンダにのぼることとなっているし、ジョー・シガードソン教授の本研究は、今回の議論の中身も折り込んで来年早々にも一冊の本として上梓されることとなっている。広くEIJSとGISPRIの間では、今後とも引き続きポスト・ウルグアイ・ラウンドの対応等をめぐる日欧の知識人が議論し合うフォーラムを作っていくことも検討されており、日米間、日アジア間に比し、比較的弱い環になっている日欧知識人対話を、二つの研究所で盛り立てていく方向が合意されている。
8月中旬のアルマサは、気温11℃と、ほとんど晩秋を思わせる気候だった。帰国後東京の厳しい残暑にさらされて、文字通 りヨーロッパと日本の体温の違いのようなものを実感させられたが、少なくとも知的レベルでは広範な交流を通 じて、お互いの熱を共通なものにしていくことの必要性を痛感させられた。
(清木克男)