平成6年9月27日、商工会館において会員企業36社の参加を得て、第17回地球環境問題懇談会が開催された。その中で「環境問題の最近の動向」について、伊藤仁氏(通 商産業省環境立地局環境政策課課長補佐・総括班長)に講演していただいたので、その内容をこの紙面 を借りて紹介する。
◆「環境基本計画の策定」
昨年11月に基本法が制定、施行され、その中で政府が環境保全に関する総合的、計画的推進を図るための環境基本計画を決めることになっております。この7月に、中間取りまとめが公表されましたが、今後のスケジュールとしては、10月14日から中央環境審議会の企画政策部会の審議を再開して、本年12月に答申を得て年内に閣議決定に持っていく予定てす。今後意見を集約していく過程で想定される論点は三つあります。一つ目は環境基本計画の中に数量 目標を設定すること、あるいは今後個別に詰めていく問題について検討のスケジュールを明確にすること、また、抽象的に表現されている部分をどこまで具体的にするかという点です。二つ目は廃棄物・リサイクル対策について今後の道筋を提示するについて、抜本的な政策を出すという考え方があり、それについてどこまで踏み込んで書くかという点、三つ目に自然と人間の共生確保のための具体的施策につていどう書くかという点です。これは、基本法の制定の際に議論されなかった項目として、国土を山地、里地、平地、それから沿岸地域と四つの地域に分けて、その地域ごとに施策を講ずると書いてあるわけですが、具体的に地域ごとに、どのような施策で対応していくのかという所が、論点になると思います。特に自然を保護する立場の方々から、生態系維持のためこの基本計画に具体的内容を盛り込むことを求める意見が数多く出ていますので、これらの意見をどの程度吸収していくかというところが一つのテーマになると思います。
◆「地球温暖化への取り組み」
1990年10月に、地球温暖化防止行動計画を決定し内外に公表しました。その内容は、一人当たりのCO2の排出量 を2000年に1990年レベルに安定化させることですが、このままの状況でいくとこの目標を達成することが難しくなるという見通 しから、民生部門の運輸部門の省エネルギー施策の強化を織り込み、全体としては目標達成できるという形で、本年6月に長期エネルギー需給見通 しを改定しました。そして、これに基づいて9月20日に気候変動枠組み条約に基づく国別 報告書の通報を行いました。
また8月の末から9月にかけてINC10(Intergovernmental Negotiating Committee for a Framework Convention on Climate Change)の会合がジュネーブで開催され、その中で2000年以降の対応について話されています。全体の認識としては、現行の条約上の約束(CO2の排出量 を1990年レベルに安定化させることや途上国のコミットメントがないこと)では、2000年以降の対応としては十分でないというコンセンサスができていますので、来年3月開催予定の締約国会議のときに、2000年以降の措置のあり方についての取りまとめを、98年度ぐらいに行うという合意がなされると思います。
もう一点、条約上の「共同実施」(地球研ニュースレター10月号参照)の項目については、先進国と途上国で意見の隔たるところはありますが、パイロツトプロジェクトで経験を積んでいくという形で議論を進めることになっています。
◆「経済的手法(環境税)の検討」
環境税の検討については基本法22条2項で、環境への負荷の抑制を目的とした環境税については調査研究を行うこと、導入する場合には国民の理解と協力を得ること、地球規模の問題については国際的連携を図ることと、法文上規定されています。通 産省のポジションとしては、エネルギー需給構造の改革を進めることによって、地球温暖化問題に対応していくのが基本であり、経済的手法に踏み込む必要はないとの前提で政策を進めています。ただ、基本法では調査、研究を行うことが求められていますので、環境庁ではこの8月に経済的手法研究会(座長:石弘之一橋大学教授)という委員会を設置しています。メンバーはほとんど大学の先生およびアナリストの方で、利害関係者は入っていません。そして10月から自治体、消費者団体、産業界から順次ヒヤリングを行うことになっています。ただ、この委員会は、ヒヤリングの結果 に基づき具体的な答申を出すという性格のものではなく、今まで勉強してきた内容をより広く深くしておきたいというのが環境庁の考え方のようです。
炭素税については、引続き米国とEUを注視していく必要がありますが、米国のBTU税については、結局、輸送燃料税という形で落ち着きましたし、EUについてもイギリスなどの反対のため閣僚理事会で承認されていません。今のところ、北欧5か国が環境税を導入していますが、いづれも税率は非常に低いものですし、色々な中立的な措置を取っていますので、環境負荷を減らすという形にはなっていません。いずれにしても、G7の諸国の中で環境税を導入している国はありませんので、この問題は先進国の連携が必要であるという議論からすると、今のところ国際的に導入の方向に進展するという状況になっていないと思います。
◆「環境アセスメントの見通 し」
これは工場の立地あるいは開発事業にかかるアセスメントですが、環境基本法を制定する際に関係官庁一体で調査、研究を行い、法政化を含めて見直しをするという考えが出ております。これに基づき環境庁では環境影響評価制度総合研究会という研究会を7月に設置しています。この研究会には10省庁が参加しています。この研究会の今後の予定ですが、現在各省庁が持っているアセスメントの手続きについて、順次ヒヤリングをしていくようになっています。また欧米に調査団を派遣して各国の導入状況、実施の中身等を調査する予定になっています。この研究会は8年3月まで続くため、丸2年かけて内外の状況を検討し、これを踏まえ制度論を含めた議論を平成8年度から行うという大まかな日程で考えています。
◆「環境監査制度の構築」
これまでの取り組みとしては、環境管理規格審議委員会(茅委員長)を核として、国際標準の策定作業に積極的に参画してきたわけですが、この関係では現在二つの規格が小委員会レベルで動いています。一つは環境管理システム、もう一つは環境監査です。これは最後は一体のものになりますが、小委員会レベルでのドラフトの完成が来年の6月のため、大枠として見えてみるのもその頃になります。そこからまた6か月かけて、ISOのインターナショナルスタンダードを制定するため、正式制定が行われるのは平成8年の春というのが現在の見通 しです。
通 常、ISOのスタンダードができてからJISの作業を始めると時間がかなりかかると考えられるため、来年の6月に小委員会レベルの原案ができた段階で、JIS化の検討にはいる、また認証、認定スキームについても並行的に作業を進めていき、JSOの規格が発足する8年の春には、国内の規格、認証、認定スキームが整備されているような形に持っていきたいと思っています。
EUはEU規則に基づいてEMASの独自の環境監査スキームを、EC域内の企業に対して適用するという考えを持っており、これが来年の4月に発足する予定です。EU当局は、この適用をあくまでEU域内にサイトを持つ企業に限り、ISOと重複する部分についてはISOの規格に準拠すると説明していますが、EU企業が部品を輸入する際にEUのスキームを輸入品を適用すると、実質的な貿易障壁になる可能性があります。この点については今後とも十分にEUと調整していく必要があります。
補足としてEUのEMASとISOの違いを説明しておきます。ISOでの検討は、企業が環境管理システムをつくって、そのシステムが整っているかどうかをチェックするのが監査であると考えています。一方EMASは環境パフォーマンスと呼ばれているもので、即ち、環境負荷をどの程度その企業が行っているのか、廃棄物をどの程度出しているのか、省エネルギーはどの程度なのかといった環境上の実績を、環境監査のスキームに取り込むべきであるとの考えです。ここが今アメリカとヨーロッパが対立してきた最大のポイントです。もしEUがこのところに固執して、それを域外の国にも要求すると貿易障壁になるということです。また、ISOの環境管理システムは、内部監査でも外部監査でもしかるべきチェックをすればいいというスキームですが、EMASのほうは内部監査や外部監査のほかに環境声明書について第三者の認証を求めています。この辺は今後標準を作っていく過程で、わが国としても戦略的に考えていく必要がある分野です。
その他のISOの検討項目としてラベリングとLCAがあります。これについては環境監査にくらべると産業界の関心は低いようですが、製品に係わる環境負荷をどう評価するかということですから、ISOの検討状況に留意されて、個別 の業界にとってどういう利害があるのかという点について検討を深めてもらいたいと思います。
◆「環境に関するボランタリープランの作成」
産業界における自主的な環境行動計画ということで、平成4年10月に環境に関するボランタリープラン策定の協力要請をしましたが、現在340社が策定されています。この数は私どもの方へ報告をいただいたものだけですので、実際はもう少し多いと思います。これらのフォローアップを引続きしていきたいと考えています。その意義ですが、将来企業として対外的に環境に関わるステートメントを出していくことが、一般 化する可能性が高いと思われます。企業での環境活動を定期的にフォローアップして文書化しレポートにまとめておくという作業は、いずれ内部監査でも外部の監査でも必要になってきます。環境管理活動の流れの中でも、こうしたプラン、計画を作り反復、継続してフォローアップしていくことが一層重要になってくると考えています。
◆「産業環境ビジョン」
これは、今年6月に産業構造審議会地球環境部会の報告としてまとめたものです。企業の環境対策について、企業の自主性に任せるというところからもう少し踏み込んで、産業別 に、原料調達から、製造、販売、使用、廃棄の全ての段階において、どのような環境配慮のやり方があるかという点について、環境問題への対応が進んでいる企業を参考にして、提示させていただいたものです。この内容は、その全てができないまでも、個別 企業なりその業界が、今後どのような取り組みを進めていけばよいかというガイドラインになると考えています。
産業環境ビジョンのなかでは、個々の産業ごとの取り組みに加えて、個別 産業の枠を越えた業際的取り組みについても取り上げています。これまで15業種について色々検討してきた訳ですが、各業種の方々から話を聞いていくうちに、環境対策については、もっと業際的にやった方がいいのではないかという問題意識が出てきました。やはり上流、下流の企業が組んでやるところに環境対策のフロンティアがまだまだ広がっているのではないかと考え、したがってビジョンの中では、一章を割りまして業際的取り組みについて記述しており、その中で可能性を提示しています。
また、あわせて環境産業の主要分野における市場規模の将来展望を行いました。(表1参照)これは、ビジョンの中で検討した15業種の環境配慮の組み込みを、環境産業化への取り組みという観点で捉え直したものといえます。従来ですと、公害防止装置や環境コンサルティング事業といった環境に関わる財、サービスを提供する産業を環境産業と呼んできましたが、ここでは15業種の取り組みの中で、今の事業をさらに環境に調和したものにしていくという活動を捉えて、そこに環境産業としての芽がどの産業にもあるという観点で、分野ごとの市場規模を展望しました。
通 産省としては今回のビジョンを踏まえ、環境に関するビジネスを今後どう伸ばしていくべきか、そのための対策をどう考えるかという点について、異業種間での意見交換を行えるような場をつくりたいと考えています。研究会という形で発足させ、更に展開ベースで継続して行うにふさわしい事業があれば、それを推進して頂くというように考えております。
分 野 |
内 容 |
現在の市場規模 |
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1 | 環境支援関連分野 | 公害防止装置、環境コンサルティング等 |
1兆3,400億円 |
2 | 廃棄物処理 リサイクル関連分野 |
廃棄物処理事業、リサイクル事業等 |
10兆9,300億円 |
3 | 環境修復・環境創造関連分野 | 河川・湖沼浄化、都市緑化等 |
8,700億円 |
4 | 環境調和型 エネルギー関連分野 |
コージェネレーション、太陽光発電、燃料電池等 |
1兆9,400億円 |
5 | 環境調和型 製品関連分野 |
生分解性プラスチック、特定フロン、代替物質パルプモウルド、クリーンエネルギー自動車等 |
2,300億円 |
6 | 環境調和型 生産プロセス関連分野 |
生体反応利用省エネ型プロセス技術、溶融還元製鉄技術、膜分解精製プロセス技術等 |
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現状:約15兆円 → 2000年:約23兆円 → 2010年:約35兆円
年平均6% 年平均4%
(注)環境産業の範囲……数多くの企業が環境に対して積極的に取組むことを期待し、できるだけ広く捉えて、「環境負荷の低減に貢献できる可能性のある産業分野」と定義
◆「廃棄物・リサイクル問題への対応」
この問題については、我々の一番身近な問題であるにもかかわらず、国でも地方レベルでも色々な問題に突き当たり、将来へのシナリオがまだ描けていない状況にあります。通 産省はこの問題への対応として、現在新しい包装材リサイクルシステムの構築について議論を進めています。この問題については、ドイツ、フランスにおいて、事業者責任をより強化する動きがあります。このような欧米の動きも踏まえて、日本においてどの様に考えるべきかが課題であります。という点で、廃棄物は再生利用されて資源として活用されるのでなければ、ゴミ問題の根本的な解決にはならない。したがって、廃棄物を再生利用の方へいかに多く持っていけるか、そのために必要な投資、事業者の負担の枠組みといったものをどう今後作っていくかというのが基本的な立場です。いずれにしても、再生利用なきゴミの引き取りは意味がない、あるいは効果 がないという観点で他省と調整していますが、他方自治体における議論とか、一般 国民のゴミ問題に対する意識もあり、十分な調整が必要かと思います。いずれにしても、包装材にターゲットを絞って、ゴミを減らす新しい仕組みあるいは分別 回収することにしてメリットがでるような市場メカニズムを作るという点では各省庁とも共通 認識があるわけですから、現実的な対策を打ち出すべく現在努力している状況です。
このように言うと、なにか厚生省と通 産省が対立していると受け取られるかも知れませんが、環境問題については、基本法の制定がエポックメイキングだったと思いますが、環境庁、厚生省といった環境政策を専門とする官庁と、通 産省を始め、建設省、運輸省、農林水産省など事業所管官庁の間で横の連携ができており、どういう仕組みが一番実態に即した効果 的な対応なのかを検討する体制ができていると思います。環境問題については、今後とも省を越えた横の連携を強化していく必要があると考えていますし、厚生省と連携をとってモデル事業を立ち上げるといった協力関係も出てきています。