1995年5号

環境重視型社会2010年のエネルギービジョン ―熱利用の原点に戻って―

 熱はいろいろなエネルギーがたどり着く墓場である。全てのエネルギーは最終的に熱に変わり大気中へと散逸していく。物理的には余りにも明らかなことであるにも拘らず、熱の合理的な利用について根本的な議論がされ始めたのは極く最近である。現在でも、読者の大多数はガスや石油バーナを利用し、40C程度の暖房や80C程度の給湯をすることに、何の疑問も持たないのではないだろうか。当然のように、現在でも燃焼バーナで発生する熱が何%有効な加熱に使われたかを示すエネルギー効率でこの加熱過程を評価している。すなわち、高温レベルの熱であろうが低温レベルの熱であろうが、おかまいなしに使っている場合が多い。

 ここで水力発電を例にとり、水の流れと熱の流れを対応させながら、熱の合理的利用を考えてみよう。水力発電の場合、山頂部から平野に至るまでに、高度の高い所から順にダムを作り、第1、第2、第3......発電所と名付け、水の流れが持つポテンシャルを十分に利用し尽くすことは当然のことと考えられている。間違っても山の麓に一ヶ所だけダムを作り発電しようとは思わない。それならば、なぜ熱も同じような活用方法を考えないのだろうか。すでにお気付きと思うが、水の落差に対応するのが熱では温度になる。海面 は大気温度に相当し、海に流れ込んだ水がすでに発電能力を失っているように、大気温度の熱に加熱、冷却能力はない。ガス、石油等の燃焼温度は数百度と高温であり、この熱を最初に100C以下の加熱に直接使ってしまうのでは、余りにももったいない。この観点から、21世紀に向けての熱の合理的利用は、カスケード型(小さく分かれた滝の意味であり、温度レベルを考慮して何段階も熱を利用すること)でなければいけない。

 現在我国が直面 しているエネルギー問題として、筆者は非に地球環境問題への対応の他に、都市部では特に電力のピークカット・負荷平準化問題をあげている。最近の電力需要曲線の特徴は、電力駆動圧縮式ヒートポンプの急激な普及に伴い、夏季だけでなく冬季にもピークをとるツインピークとなっており、都市とエネルギーを考える際にはすでに述べたように、百度未満の低質な熱需要である冷暖房需要に対する合理的なエネルギービジョンの在り方について、原点から考え直さなければならない局面 を迎えている。

 この観点を踏まえ我国では、2010年における民生用エネルギーの10%を熱で供給しようとする目標を揚げた。これは、21世紀に向けて熱供給事業の公益化を意味し、熱供給関連施設・プラントを社会資本として捉えていく方向にある。

 先日、我国の地域冷暖房システムがマグニチュード7級の地震に対して、どの程度の被害を受けたかを調査する目的で兵庫県南部の視察を行ってきた。周辺が極めて大きな被害を受けた神戸ハーバーランドの地域冷暖房システムは、センター屋上に設置された冷却塔部を除き、機器類、パイプライン系はほとんどダメージがなく、短期間の検査後通 常通りの熱供給が行われている。実際にその健全性を目の当たりにし、地域冷暖房システムの威力に対して大いなる自信を得ることができた。今回懸命な復旧を続けているガスパイプラインは、低圧系での被害が大きく、中、高圧系はほとんど無事であったことは注目すべきであろう。これらの不幸な経験を、今後のエネルギービジョンにいかにポジティブに生かしてゆくかが極めて重要となる。すなわち、災害に強い都市部のエネルギーシステムを考える時、公共施設等には都市エネルギーセンター構想を義務付け、中圧系から直接供給されるガスコージェネレーションや、備蓄タンク付設形の石油コージェネレーションによる地域内熱電併給の必要性を痛感した。

 これら災害への対応を考え合わせると、すでに述べた熱のカスケード利用を骨子とした合理的な熱供給体制の推進が関連業界の責務であり、都市エネルギーセンターの中に各種ヒートポンプや蓄熱システム、さらには未利用エネルギーの活用などが必要不可欠となる。特に未利用エネルギーの活用は、環境を保全しつつアメニティも味わえ、かつエネルギー消費も抑えられるため、二者択一の関係にあるこれらの事象を解決できる、数少ない解の一つであると確信している。未利用エネルギーの中でも、特にゴミの有効利用が21世紀社会の課題であり、これまでのように焼却炉の規模を問わず単に燃やしてしまうのでは能がない。従来のゴミ焼却炉は都市エネルギーセンターと名称が変わり、発電と熱供給をカスケード的に行うようになる。そうなると、小規模な焼却炉では発電効率が良くないため、煙突のない再燃料化工場となり、そこで加工したゴミ燃料を大規模な焼却炉(エネルギーセンター)に運び、電気・熱を合理的に生産するゴミエネルギー循環システムが実現することになる。

 いずれにせよ、今まさに、極めて扱いにくい"熱" 利用の本格的ビジョン作りが始まったといえる。

 

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