当研究所は、WRI(世界資源研究所、ワシントンDC)、ICETT((財)国際環境技術移転センター、四日市市)等と共同で平成5年度に掲げた「IFETEC(環境技術協力国際フォーラム:以下IFETECと略称」2年目の活動として、アジアの途上国(それもとりわけ都市部)の排水処理問題と中・長期的観点からの水資源開発・利用問題を途上国のNGOとの対話を通 して検討すべく、去る1月24日、25日の両国バンコク(YMCA Collins International House)でセミナーを開催した。
本セミナーは、タイの有力な環境NGOであるタイ環境研究所(TEL)と共催で開いたものである。主な参加者は、海外からIFETBCの設立準備会議の米国側パートナーであるWRI(世界資源研究所)、SEI( ストックホルム環境研究所)のBoston Center、インド、インドネシア、中国等の途上国からの参加者、また、日本からはセミナー講師として大垣教授(東大 都市工学部)、ICETTの吉井専務理事、当研究所は清木専務理事、林がそれぞれ参加した。またタイ側は、TEI(タイ環境研究所)が招請したバンコク首都圏庁や地方自治体の水関係者を中心とするタイ人及びタイ在住の外国人(ESCAP等の主に国際機関の関係者)であった。セミナー参加者総数は、上記メンバーを含めて初日には約80名、第2日目には約50名であった。
*都市排水処理問題は、例えば都市人口の規模と排水処理設備の最適な規模、人口密度との関係で下水道建設と合併浄化槽との最適化等の技術的・経済的なスタディの必要性は勿論残されているが、概括的には、技術、ファイナンスの問題ではなく各国内での関連する政府組織間での相互調整等、広義のマネージメントの問題であるとの見方が支配的であった。
産業用、家庭用の排水処理コストは基本的にはそれほど大した金額でないという議論がある一方で、十分な徴税機能さえ整備されてない状況下で「PPP(Polluters Pay Principle:汚染者負担の原則)」を実現に適用することの難しさは、コストの多寡の問題ではなく制度上の問題という議論も出された。(どの機関がどのような権限と手続きで料金を徴収するのか
例えば、タイでは下水道工事実施に関する権限が従来の内務省(PWD)から環境省へ徐々に移管されつつあるが、関連する実行・管理・運営面 での複雑で多様なノウ・ハウが、環境省には未だ十分には蓄積されるに至っていないという中央政府レヴェルでの事情の他、地方政府側からすると、限られた資金が必ずしもそのニーズに応じた適格な使われ方がなされていない等、中央政府と地方政府の間でコミュニケーション不足が、水環境行政の円滑化を阻害していること等が示された。
そういった関連する省庁間での相互調整という課題は、単にタイだけの問題ではなく、多かれ少なかれ途上国一般 に共通の問題であることも確認された。しかし、タイで上記のような様々な議論がなされていることは、従来とは異なった革新な政策の考え方を積極的に検討し、更にいえば既存の制度を再構築しようとの表れとの積極的評価もできる。
水処理or水環境管理問題:
水資源の管理は、タイでも大きな関心ではあるが、技術的、経済的、社会制度的問題が絡む複雑な問題である。水質、水供給等様々の問題があることを議論の中で知り得た。その他にも、例えば農業問題とも絡むであろう。関係する経済主体相互の管轄権に左右されない流域全体を管理するという方法が、この問題を検討する上で参考になるであろうとの見解が、先進国側の参加者から提示された。即ち、農業部門と工業部門、或いはバンコクのような大都市のみならず地方の中小都市生活者と農民と言った関連部門、関係者全体がそれに依存している「統合されたエコ・システムとしての水環境」という視点と、それに基づいて水環境を管理するという手法である。そして中央政府の政策担当者、自治体の当局者、産業界、環境論者その他の関係者にとってこの複雑な問題の諸要素をまとめ上げるのは価値のあることに違いない。TEIは政府の関係省庁、民間部門、NGOs、学会と連携をとってこれを実行する上で格好の立場にあるとの指摘が外国からの参加者から出された。
そうした努力は、農業部門、上流の林業部門、土地利用の慣習、都市部でのニーズ、関連する諸能力、エコロジカルな次元に関する既存の知見を集約することである。こうした作業は多くのトレードオフ要因を理解し、それらのバランスをとる上では必要である。
しかし、IFETECというフォーラムの本来めざすべきゴールは、水の管理の利害関係者を如何にすれば相互に関連づけることができるか、多くの互いに競合する目的を確認することができるかである。更にいえば、こうした諸問題を解決するためのアクションプランを検討することである。
こうした諸問題への解答を具体的に用意できれば、タイにおける水資源・環境の管理にとって極めて有益である。「バンコクという大都市を中心とした地域の持続可能な発展」という極めてチャレンジングな問題への解答は、タイ国内において見いだし得るはずである。国際機関、二国間支援および外部の研究者が支援することは可能であるが、タイのニーズ及び状況に合致する解決策を創り出すのは結局はタイ人自身の仕事である。
またこのセミナーで示されたように、国際協力が先進国から途上国への一方通 行であると考えるのは謝りである。タイの人々は新たなアプローチで実験をしており、直面 する困難な状況を克服し、その成功の実例をアジアの他の国々へ伝達することにより、この地域に大いなる貢献ができるはずだ。上記の流域の統合的な管理に関する参加型の計画策定プロセスは、タイ国以外にも、また水管理の分野を越えた問題にも適用しうる。
<タイの参加者にとって>
1日、2日のセミナーでできることには、自ずから限度がある。その意味では、タイの参加者が、海外からの専門家の議論(とりわけGlobal
fresh waterという比較的なじみが薄い話題)に触れつつ、従って或る意味では外国人の議論を土台にして、その傘の下で関心の的である下水道建設に伴う受益者負担の原則とか、浄化槽についての自分達の議論を展開する機会を得たことに、今回のセミナーの意義はあったと評価できる。
<海外からの参加者にとって>
また、外国人参加者にとってもセミナーの成果は積極的に評価しうる。中国、インド等の途上国にとっては、タイのような途上国の中では比較的進んだ国においても、都市における排水処理問題の本質が、基本的には相互に関連する政府諸機関、中央と地方の間での機能・権限の仕分け問題に根ざしたものであることには共通
性を感じたであろう。また下水道の建設か、簡易浄化槽の設置かといった技術的、経済的議論にも参考になる部分を感じたであろう。
米国、日本等のいわゆる先進国からの参加者にとっても、現地の専門家、関係者と直に議論し、下水処理設備ならびにメナム川河口を見学したことは、何よりも先ず五感を通 してトータルに都市における排水処理問題に触れる機会を持ち得た、という意味で貴重な経験であったと思われる。
<全体として>
国際協力についての情報提供、交換の機能をこのセミナーが果 たし得たという意味でも、それなりの成果は挙がったと評価しうる。何よりも、地元紙(バンコクポスト)にも取り上げられたという意味では、日本の民間団体が現地のNGOとタイアップしてこの種のセミナーを開くという地道な活動がPRされたという意味で、一定の評価を下して良いと思われる。