通商産業省の情報処理システム開発課では、現在、標記プロジェクトを慶應大学藤沢キャンパス構内で進めている。現在はまだ、電子図書館に必要な機器及びシステムを整備している段階であるが、平成7年秋には、パイロットシステムが完成する予定となっている。この電子図書館へのアクセスは、N-ISDNを利用して行うが、一部の図書については、インターネットの回線を通 して行うことも検討している。当面検索可能な電子図書としては、国立国会図書館蔵書貴重書、明治期刊行図書、第二次世界大戦前後の刊行書、国内刊行雑誌、国会審議用調査資料、憲政資料などである。当初は過去5年程度のデータから始め、順次前後にデータを広げることにより、内容を拡充していきたいとしている。
このプロジェクトは、あくまでもパイロット・プロジェクトと位 置付けられており、このシステムを実際に動かす中で、電子図書館を運用する際の種々の問題を抽出したいと考えている。例えば、ユーザーアクセスをフリーにするのか制限するのか、使用時間に制限を設けるかどうか、データサービスについて料金を徴収するかどうか、色々なバリエーションを設けてデータを採取したいと考えている。また、コンピューター・ウィルスの侵入等も考慮して、セキュリティ等についての対応を考えるとしている。これらのテスト結果 を踏まえ、システムを改善し実用に供せるものにして、2002年に関西に開館する予定の国立国会図書館の分館の電子図書館システムにその成果 を反映することを、第二フレーズとして考えている。電子図書館が現実のものとなると、図書館の存在意義、利用方法も変わっていくものと思われる。
もう一方で、電子図書館構築の過程では、当然、電子図書の規格の問題がでてくる。これは、今後の電子出版にも大きく影響を及ぼすことになると思われる。その検討過程では、書籍の記述方法、ビュアーやフォントの標準化の問題、その他もろもろの電子の世界の約束事が議論されるであろうし、ある一定の規格に統一されていくことになるであろう。また、出版に関係する業界についても、今後色々な影響が出で来るものと思われる。近い将来、書籍の世界での"印刷"と電子出版の使い分けが進んでいくと考えられるが、その社会的影響は広い分野まで及ぶと考えられ、今後の動きを注視していく必要がある。