1995年12号

「世界の中の日米関係を考える懇談会」 報告書の要約

 当研究所は本年1月より、学会、財界、ジャーナリズム等の委員により構成された「世界の中の日米関係を考える懇談会」を主催し、数次の委員会を開催しました。 また、米国においても、カーネギー国際平和財団が同様の委員会を主催しました。両国の委員会は2度の合同会議を持ち意見交換を行い、日米それぞれで報告書を作成し10月30日に発表しましたので報告致します。

1.「世界の中の日米関係を考える懇談会」設置趣旨

  1.  冷戦後の世界において、中長期的に世界の力のバランスが急速に変化するとともに日本自身の政治経済状況も変化していることから、新しい世界秩序及び日米関係のあり方のビジョンが求められており、これを提示することが必要。

  2.  日米包括協議は本年6月でほぼ2年を経過することから、これを節目として現在の日米通 商関係を明確化し、新たな解決策を提示することが必要。

  3.  日米での相互理解が不足し、互いの国を誤解している面 があり、これらが日米関係を悪化させる一要因となっていることから、日米のオピニオンリーダー等の情報及び問題意識の共有のための情報及びデーターの交換を行う。

2.「世界の中の日米関係を考える懇談会」経緯

  1.  本懇談会は、(財)地球産業文化研究所(GISPRI)の主催により、本年1月から開始され、数次にわたる懇談会の開催及び適宜委員から意見を伺う機会を持ちながら進められた。

  2.  本懇談会と並行して、米国でもカーネギー国際平和財団の主催により、同趣旨のスタディグループが設置され、日本側と同様の運営が成された。

  3.  日米両グループは2回の合同委員会を開催し、双方の意見の交換を通 じて、各種問題についての相互の考え方の一致点及び相違点について理解を深めた。

  4.  日米両懇談会の報告書は、それぞれの独自の報告書となっているが、「変革期にある日米関係」の表題の下に、合わせて一冊にまとめられ、英語版と日本語版が日米で発表される。

 なお、その冒頭には、日米両座長の共同声明が付けられている。

3.懇談会議論概要

  •  日米の両懇談会ともに、1)二国間の経済問題を中心とする日米関係、2)アジア地域との関係における日米関係、3)地球的規模の課題を巡る日米関係、の三つの柱立てに沿って議論が展開された。

  •  両懇談会ともに、1)の経済問題に係わる日米関係に関し、議論が集中した。これは、両国間の通 商問題を含む経済問題の深刻化が、日米関係全体をより困難な状況に陥れつつあるとの共通 の認識に基づくものである。
     しかし、現状認識では大きなギャップが見られた。具体的には、日本側が、I. 経常収支インバランスについては日本の資金余剰と米国の資金不足という双方のマクロ経済構造が要因である、II. 為替レートの大幅な変動についても、日本側の黒字拡大等のみならず、米国側の基軸通 貨国としてのドル防衛努力が不十分であることが要因である、III. 市場アクセスについては日本市場は非難されるほど閉鎖的ではない、との認識を提示した。
     一方、米国側は、I. 及びII. は主として日本が対応すべき問題であり、III. に関しては日米の市場アクセスには明らかな不均衡が存在するとの考えを示した。

     また、2)アジアとの関係、3)地球的規模の課題との関係についても、アジア地域における自由化のタイミングとペースに関する見方(日本側は米国型よりも自由化プロセスにおける自主性を重視。)や地球的課題と二国間の課題の重点の置き方(日本側は両課題に並行的に取り組むべしと主張したのに対し、米国側は二国間の課題に対応することが先決とする意見が有力。)等についての相違が見られた。

  •  上記のように、現状認識や問題設定に関してはギャップが見られたものの、日米関係を改善・強化するために何らかの対応が必要であることは、両国の懇談会が一致して強調し、具体的な対応策の提言に関しても共通 点が多かった。

4.報告書概要(米国側懇談会の報告書との対比については表I参照)

(1) 二国間の経済問題を中心とする日米関係について

 通商問題を含む経済問題が日米関係全体を非常に困難な状況に陥れつつうるが、それらの問題に対し、以下のような対応策を提言。

  1. 適切な経済政策の推進
    日本の積極的な景気拡大策及び規制緩和の推進。
    米国の財政赤字縮小・国全体の過剰消費を抑制するための努力。

  2. 経済制度の収れん化(コンバージェンス)

     各種規制・規格、競争政策等の経済制度の差異を狭めるため、日米欧の三極間協議を開始することを提案(日米間の問題を相対化し無用な摩擦を回避するためにも、複数国間の協議とすることが適当。)

  3. 新たな紛争処理メカニズムの創設
     二国間の交渉(多くの場合米国の一方的措置を背景とする交渉)は、むしろ相互不信を増幅することが多くなっていることを踏まえ、新たに、WTOの紛争処理システムを補完するものとして、非強制的な紛争処理メカニズム(第三者による中立パネル)を創設し、活用することを提案。

  4. 交流チャンネルの多層化・広範化
     日米の経済システムや規制等について、第三者の視点も入れて客観的に研究分析する日米欧三極経済比較研究を実施する等、一層広く多層的な交流を促進すべき。

(2) アジア地域と日米関係について

     同地域の発展が日米関係にとって極めて政治・経済的に重要であるとの認識を前提として、次のような対応策を提言。

  1. 日本におけるアジア製品の輸入の拡大、米国によるアジアへの直接投資の拡大。

  2. APECを活用したアジア地域の貿易自由化の推進
     APECを活用して、経済法制等の整備、インフラ整備、人材育成、中小企業育成等産業基盤整備、マクロ経済政策等とバランスをとりながら経済自由化を進めるべき。
     当面は各国の発展段階に応じた自由化策を遂行する協調的自主的アプローチが適当。
     中長期的にAPECの本部機構強化が必要。
     産業毎の自由化アプローチも将来的に有効。

  3.  アジアの安定的発展に向けた日米協力
     エネルギー、環境等の成長制約要因の除去、インフラ整備に係わる協力を進めるべき。4) 安全保障

  4. 日米安全保障の有効性の再確認、日米中の対話推進、ASEAN地域フォーラムの育成等が課題。

(3) 地球的課題と日米関係

     冷戦終結後の国際システムを再構築するために、日米、さらに欧州の三極が共同でリーダーシップを取っていく必要があるとの認識に立ち、具体的には次のような分野での協力を提言。

  1. 世界の長期的発展の制約要因への対応

     資源エネルギー問題、環境問題、医療問題、食料問題等について、技術開発やその他の国際協力を進めるべき。

  2. 国際経済システムの強化

     WTOをはじめその他の国際機関の強化、ドルの安定化(基軸通 貨としての規律ある対応)、円の国際化を進めるべき。

表1 日本側と米国側の各懇談会報告書の対照表
論点 日本側報告書 米国側報告書
日米経済問題
(1)経常収支インバランス
〔現状認識〕
  • 日本の経常黒字、米国の赤字は基本的にはマクロ経済構造の問題。日本市場の閉鎖性が主たる要因ではない。

〔求められる対応〕

    日本……拡張的財政金融政策による過少投資状態の解消。規制緩和の推進。
    米国……貯蓄率引き上げ努力、財政赤字の削減、過剰消費抑制努力を進めるべき。

〔現状認識〕

    経常収支のインバランスは、日米のマクロ経済問題の本質的相違を反映。

〔求められる対応〕

    日本……銀行その他の金融機関の支援策強化。拡張的財政政策の推進。国内消費の妨げとなる規制等の障害の除去。
    米国……貯蓄奨励策を増強。

(2)為替変動 〔現状認識〕
  • 急激な円高の要因は、日米両国の不十分な経済政策、国際協調の欠如、米国の債務問題への不十分な対応、大量 の投機筋の為替取引。

〔求められる対応〕

    日本……経済対策強化(景気拡大策)、規制緩和、通 貨当局の国際協調の強化。
    米国……財政赤字改善、基軸通貨国としてのドル防衛努力

〔現状認識〕
  • 円高は円の問題であり、日本の外貨収入と外貨需要の不均衡が原因。

〔求められる対応〕

    日本……国内経済刺激、規制緩和を通 じた国内市場の開放加速による外国為替の追加需要の創出。財政黒字を世界経済全体に還元する責任を負う機関や機構の強化。
    米国……国内貯蓄増加、対外借款への依存度の低下。

(3)市場アクセス 〔現状認識〕
  • 貿易インバランスは必ずしも市場アクセスの非対称性を示すわけではない。
    日本市場は非難されるほど閉鎖的ではなく、適切な努力を行えば参入は十分可能。

〔求められる対応〕

  • 日本における規制緩和、輸入促進、非製造業を含む海外企業による直接投資の推進。
  • 規制、規格、基準、競争政策等の経済制度のコンバージェンスの推進、特に競争政策の三極のコンバージェンス→三極経済構造ラウンドの提案。
〔現状認識〕
  • 日本の閉鎖的で消費者利益に反する市場の構造が、中心的な力となって円高と悲観的な経済成長をもたらした。

〔求められる対応〕

  • 米国政府、民間企業の、日本国内の経済自由化推進勢力と歩調をあわせた日本市場開放要求。
  • 包括的な三極ラウンドによる、競争政策、規制・規格・基準の均質化
(4)紛争解決のための方策
  • WTO を補完する穏やかな紛争処理解決機関を設立し、中立的な解決策の提示→政治問題化を回避。
  • 交流チャネルの多層化、公域化のための環境整備による日米間の不信除去。
  1. 財団・NGO 等の設立等の障害除去。
  2. 留学生、学者交流拡大。
  3. 米欧三極経済比較研究。
  • 多様な紛争処理プロセスの活用、具体的には、
  1. WTOの紛争処理手続の利用。
  2. 政府間協議。
  3. APECの任意紛争調停サービス。
  4. 二国間紛争処理機構の設立
アジアとの関係 〔現状認識〕
  • 日米両国が共同しアジア市場を安定的に発展させることは日米共通 の利益
  • アジアの成長パターンは、市場経済に安定的に移行する際のモデルとなることへの期待。

〔求められる対応〕
(APECの推進)

  • APECでの自由化促進はポスト・ウルグアイラウンドの動きの一つであるべき。MFN待遇が当然
  • 自由化の進め方としては「協調的自主的アプローチ」が適当。
  • 日米両国が「開発」への支援を続けることが必要。

    (アジアの安定に向けた対応)

  • エネルギー、環境等アジアの不安定要因を排除するための共同研究、共同事業、日米の政府・民間の資金援助による社会インフラの整備。
  • 日米安保の再確認
〔現状認識〕
  • 日米のアジアにおける生産拠点網の不均衡が存在。
  • アジアの輸出先として北米が大きく伸び、日本への輸出はそれほど増加せず
  • 東アジアは輸出志向型の成長をしたが、日本と異なり、国外からの投資に大きく依存。

〔求められる対応〕
(APECの推進)

  • APEC域外に対する無条件MFN待遇の付与には反対
  • 自由化の範囲は包括的であるべき。
  • 「前進のためのパートナー」プログラムには賛成。

(アジアの安定に向けた対応)

  • 日米がアジア太平洋の政治と経済についてより協力的なアプローチをとるべき。日米安保が中核。
  • 主要な地域問題についての日米の公的な協議及び調整メカニズムを強化。
  • 朝鮮半島の再統一に向けた対話を日米と韓国の間で官民レベルで深める。
  • 太平洋コミュニティーへの中国、ロシアの統合を促進。
地球規模の協力
  • 国際システム再構築のための、日米協力、日米欧三極の共同リーダーシップが重要。
  • 資源・エネルギー問題、環境問題、医療問題、食料問題等の発展の制約要因を克服するための技術開発と国際協力を日米間で進める
  • NGO活動を含む地域紛争における人道的支援の強化。
  • 日米欧を中心としたWTO等の国際機関の発展。
  • 基軸通貨としてのドルの規律ある対応への期待。
  • 中長期的な国際金融システム再構築の一環としての円の国際化。
  1. アジアからの輸入の拡大
  2. 東京金融市場の利便性強化
  • APECに代表されるアジア太平洋地域は他の地球の模範
  • 従来同様、アジア地域における日米のリーダーシップが地球規模でも重要な成果 をもたらす。
  • 日本が数多くの地球的規模の問題にイニシアティブを支援することが重要。特に国連安保理における常任理事国化が有益。
  • 日米の共同の努力が、個別 に努力する場合より、大きな成果をもたらすことを認識すべき。
注)下線の引いた箇所は、両懇談会で特に意見の相違が顕著であった論点。斜字の箇所は、対応策として共通 のもの。

 

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