1996年3号

第24回地球環境問題懇談会から 「気候変動枠組条約に関する最近の国際動向」

 平成7年12月4日、日本自転車会館3号館において標記懇談会を開催した。その中で通 商産業省環境立地局地球環境対策室宮本総括班長にご講演していただいたので、以下にその概要を報告する。

1.気候変動枠組条約の構造

 私は、去年の5月に地球環境対策室というところに参りまして、大きくは、気候変動枠組条約の締約国会議を含めたこのプロセスへの対応、もう一つは、ガット、WTOで進んできました貿易と環境という話、それからアジア・太平洋に向けた取り組み、なかんずく、今年はAPECということで、大体活動範囲が三つぐらいに分かれているところで仕事をさせていただいております。

 今回は気候変動問題ということでございますが、気候変動枠組条約の現在の仕組みがどうなっているかについて、復習をしてから入りたいと思います。

 ご承知のとおり、1992年のリオの地球サミットの時に、役所の中では署名のために開放されたという言い方になりますが、署名されました。1993年12月28日に批准国として50カ国目の通 報が国連にございまして、その3カ月後ということで、1994年の3月28日に発効いたしました。そもそもは、1992年までの交渉過程において、各国が将来的にどういう義務を負っていくかということを全て決めようということでございましたが、諸般 の事情があり、議論がそこまで至らなかったということで、今の条約の構造は、先進国は毎年自国のCO2排出量 をレビューして通報する。それから、先進国はCO2量 、温室効果ガスを、これはガス・バイ・ガスということでガスごとにカウントするか、トータルにカウントするかということには若干いろんな説がありますけれども、1990年代の当初のレベルに2000年時点において戻すということが、この問題の解決の第一歩となるということを認識しながら、あくまでも自主的に政策措置を打ち出し、それに向けた対策をとっていくという形になっております。

 途上国の方はどうなっているかといいますと、これは全く何の義務もないというわけではありませんが、現状について3年後までに報告をすればいいということで、特段の政策措置をとる義務は負わされていないということになっております。

 この枠組条約は、発効してから1年後に締約国会議を開くということになっておりました。普通 の場合でございますと、発効してすぐ第1回の締約国会議を開くというのが自然な感じがするのですが、なぜ1年間遅らせたかといいますと、第1回締約国会議で中身を詰めよう。1年間詰めた議論をして、第1回のところで議定書の形で何らかの義務を採択しよう。みんなにそういう意識があったために、1年後に開こうということになっておりました。この第1回締約国会議が今年の3月末から4月に開かれたところでございます。

2.気候変動枠組条約議定書交渉のポイント

 今回の議定書交渉のポイントは、二つございます。一つは、ただいま申しましたように、途上国は現在、3年後までに何らかの通 報をするということで、温室効果ガス排出削減ということについては特段の義務を負っていないわけです。しかし、昨今の中国を含めた、アジア・太平洋諸国の経済の伸びというのは非常に急激なものがございます。図1に示しますように、CO2の排出量 は、70年代はOECD諸国が6割を超えておりました。しかし、90年代においては既に50%以下となり、2010年にはOECD諸国以外の国が6割を占めるという状況でございます。先進国はかなり厳しい努力をしても数量 的にはさほどの減少は見込まれないわけですが、他方、途上国においては急速なCO2の伸びが見られるということでございます。そのために、途上国をいかにこの枠組みの中に取り込んで実効的な対策をとらせることを考えていくかというのがまず大事になってきます。

 もう一つは、政策措置の一つのメルクマールとして、1990年代のレベルに2000年で総量 を安定化させるということを先ほど申し上げましたが、各国がどのくらい義務を負うのか、先進国間の中でのバードンシェアリングということについては、これまでろくな議論がされてきておりません。各国の事情の違いをどのように反映させるべきかというのが当然問題になります。日米では、GNP当たりのCO2排出量 というのは大体2倍の差がございます。日本とカナダの間にはより大きな差がある。日本とオーストラリアではさらに大きな差があるという中で、日本が義務を負うこと以上に、アメリカは義務を負うべきではないのかという議論は当然起きてきます。そのために、日本国政府としては、いかに日本の産業の優秀性を各国に売り込んで、我々から見た公平な各先進国間の中での義務の割り振りを維持していくということが必要なのではないかと考えております。私どもから見ますと、先進国間での義務は差異があってしかるべきだというのが、公平性の内容でございます。

3.ベルリン・マンデート・プロセスの構造

 本来は、こういうことを盛り込んだ議定書を第1回締約国会議(ベルリン会議)で採択しようということでございましたが、そこまで議論が行きませんでした。そのために、ベルリン会議の結論として宣言を採択いたしました。宣言は二十幾つの本体と附属の宣言から成り立っておりますが、その中で一番大事なのが、第1という名前がつきました、いわゆるベルリン・マンデートというものでございます。

 このベルリン・マンデートでは、かいつまんで言いますと、先進国の2000年以降の取り組み、何年までにどういうターゲットを設定するのかが決まっていないこと、それから、先ほどから申し上げていますように、途上国の役割が依然として不明確になっていること、この2点がコンセンサスとして認識されたということでございます。そして、そのための議定書またはその他の法的措置を、1997年の第3回締約国会議において採択を目指すということで、今回の宣言が採択されました。

 一般的にはこの宣言の内容のみがとらえられているわけでございますが、このベルリン・マンデートには、それを支えている構造がございます。それは、1)先進国は独自に技術開発を行う、2)先進国から途上国に対しては、その開発された技術もしくは既存技術を移転・普及していく、3)途上国の方はそれを受けとめる、という構造でございます。

 そこで出てきたのが共同実施という考え方です。共同実施の基本的な考え方は、同じお金を使うのなら、先進国で対策を講じるよりも、途上国で対策を講じた方が、CO2の排出量 という観点から見ると、より大きな効果が得られるということです。CO2 問題が有害大気汚染物質の排出と大きく違うところは、温室効果 ガスの場合は、大気中に蓄積されることが悪なのであって、CO2を排出すること自体は悪ではないというところに問題があります。そのために、有害大気汚染物質の排出については、必ず汚染者負担ということが厳しく決められるわけですが、CO2の場合には、蓄積することに問題があって、例えば物すごい勢いで植林などがなされていた場合には、CO2を排出してもいいということになります。それはそれで一つの考え方です。そのために、対策の費用とそのベネフィットがどのくらいの関係にあるかということを、この問題ではきちっと議論する必要があり、しかも先進国と途上国ではコストベネフィットの関係が相当違いますので、その意味で、途上国での対策が有効となるわけでございます。もう一つの関係として、省エネ技術とか進んだテクノロジーを受け入れていくというのは、途上国にとっても悪い話ではありません。経済開発の資源を先進国から移転していただけるという話であることには間違いありません。そのために、先進国と途上国が共同でCO2の削減を実現したならば、これはウイン・ウインと言っていますが、要するに、二重配当の結論が出るのではないか。このような考え方が共同実施の考え方でございます。

4.AGBMでの主な論点

 アド・ホック・グループ・オン・ベルリン・マンデート(AGBM)、ベルリン・マンデートに関する議論を行うために組織された会議でございますが、今年の10月に開催された第2回会合で大きくクローズアップされてきたことがあります。一つは、数量 化された目的(クオンティファイド・オブジェクティブ)について国別にアプローチを変えることが必要だという議論が収束してきたということです。各国とも、外交交渉によって国内的な義務を負うという段階まで来ているわけですから、国際会議でいいうよにあしらわれて、自分だけに義務をかぶせられるというのでは、国内的にもちません。各国統一でこういう考え方で義務を分かち合いましたという考え方が必要でしょう。従って、ある数式が何かに合意し、その考え方によって日本は何%が、アメリカは何%だということを各国毎に決める必要があるということでございます。例えば日本であれば、アメリカと全く同じパーセントでかぶってきたら、それはとても国内でもたないでしょう。国内対策に民間からご協力いただけないだろうというのが各国共通 の考え方でございます。そのために各国はそろそろ本格的な議論が始まりました。こういう中で、次回の来年3月初旬の会合までに、私どもも何かと国内の議論をまとめたいと考えております。

 それからもう一つは、途上国の義務についての議論でございます。現在、途上国に対しては新たな義務は課されておりませんし、ベルリン・マンデートでも、基本的には途上国に新たな義務は課さないということになっております。ただし、新しい義務は課さないけれども、すべての締約国は地球温暖化を防止する義務があるということになっておりますので、すべての締約国が負っている義務は誠実に果 たしてもらおうということでございます。一番大事なことは、途上国の義務は、3年後までに自国の状況を報告することだと申し上げましたが、3年後というのはあっという間に来ます。1997年には来るわけです。1997年の年明けぐらいから、各国の状況がどうなるかわかってきます。1990年と2000年を比較すると、例えば15%伸びますとか、そういう国の状況が明らかになってくると、1997年の半ばぐらいには、やや途上国も何か対策をとっていただくことが必要なのではないかという議論が起こってくるのではないかというふうに、半ば期待を込めて先進国は思っているわけでございます。そのために、逆に途上国にこのプロセスに自主的に参加していただくためには、技術移転をサポートしていくということで、彼らの開発を支援していくことが必要だと思います。

5.我が国のCO2の排出量 の動向

 まず、我が国のコミットメントが何かということを復習しておきます。我が国は、1990年に地球温暖化防止行動計画が閣議決定しておりまして、これには二つの目標がございます。一つは、数値目標として、1人当たりのCO2排出量 を、2000年以降、おおむね1990年のレベルに安定化を図るというもので、もう一つは、革新的技術を開発することにより、総量 でも安定化するように努めるという、努力義務でございます。

 通産省では、その数値目標である、1人当たりのおおむね安定化ということを目的に、昨年、長期エネルギー需給見通 しを改定いたしまして、一応長期エネルギー需給見通しが達成されるならば、1人当たりおおむね安定化は達成されるという絵を描きました。しかし、現実は、表1に示しますように、1990年時点の1人当たりのCO2排出量 2.59というレベルに対しまして、1992年は2.65となり、1993年、これは冷夏、渇水、不況というような原因が重なりまして、2.60まで戻りましたが、1994年には、ご承知のとおり、猛暑と渇水ということで、エネルギー起源の速報値というのが9月に出たわけでございますが、相当多くなっております。私どもの試算によれば、大体3分の1ぐらいが猛暑と渇水の影響ということでございます。残り3分の2のうち、例えば化学産業の中でエチレンというものが、アメリカが急激に景気回復する中で、ASEANのエチレン事情が逼迫しました。そのために1994年は輸出が非常に伸びた部門がございます。このためにCO2排出量 がはね上がっているということがあると思います。こういうもので何割かは説明できると思います。従いまして、大体3分の2ぐらい、こういう特殊な要因で説明ができると思いますが、着実にCO2排出量 は増加しており、その意味では、私どもとしても、1人当たりおおむね安定化という目標も、かなり努力しないといけないと考えております。

6.共同実施活動への取り組み

 最後に、先ほどから地球全体のことを考えて日本として何をなし得るかということが大切だということを申し上げましたけれども、これについて、共同実施活動ということをご説明したいと思います。

 先ほどは共同実施活動と共同実施という言葉については区別 しておりませんでしたが、先進国が途上国で対策を行った場合、途上国で減らされたCO2の何%かは先進国の努力だということで、先進国が自国の義務の達成度合いの中に入れて構わないというのが、共同実施の基本的な考え方でございます。そして、2000年までを、一つの試行期間、パイロット・フェーズとして考え、その期間の中で、途上国としてどこまでのめるか、例えば先進国から省エネ技術を供与された時に、途上国としてはどのくらいおいしいものとなるかということについて、経験を蓄積するとともに、もっと根本的なことですが、CO2が何に比べて減ったというふうに考えるのかというようなことを整理して、国際的に共同実施の枠組みづくりを進めていこうという活動が共同実施活動でございます。

 この取り組みについては、やはりアメリカが先行しておりまして、昨年、環境保護庁の局長クラスとエネルギー省の局長クラスが共同議長になって、各省が入った評価パネルをつくりました。その中で、各企業の取り組みを審査して、アメリカの共同実施活動に資すると認定した案件を国としてPRをするという活動を行っております。

 私どももアメリカと同じような各省横断的なパネルが欲しいなと思い、6月ぐらいから作業を始めまして、11月24日に地球環境関係閣僚会議及び総合エネルギー対策関係閣僚会議の両関係閣僚会議の幹事会、幹事会というのは局長レベルで構成されておりますが、この幹事会を合同開催しまして、申し合わせ事項として共同実施活動ジャパン・プログラムを設置いたしました。これは、国はもちろん、あるゆる日本の居住者の行う対外事業活動の中で、どのくらいCO2が減る効果 があるかということについてモニタリングをしましょうと言ってくださった事業主体に対し、プロジェクト担当省庁が、評価ガイドラインに従ってジャパン・プログラムの認定を差し上げる。プロジェクトの認定があった場合には、当然ながら、結果 をレビューして、相手国政府と連名で条約に通報をしましょうということでございます。

 このジャパン・プログラムによって、少なくとも通 産省所管でやっております海外プロジェクトについては、相手国政府との交渉を民間に先駆けてさせていただくつものでおりますが、日本の民間企業の普通 の活動が、日本の地球環境保全活動だというふうにカウントされるシステムの考え方を整理し、国際的にそれを受け入れられるように努力していくことが、この問題にとって必要なのではないかと考えております。従いまして、民間企業の方々には是非このジャパン・プログラムにご参画いただいて、世界的な枠組みづくりに向けて努力していただけることを、私どもは切に希望している次第でございます。

 

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