1995年10月に開催された世界エネルギー会議東京大会の「結論と勧告」は、2つの基本的課題を提示した。第一は、今なお発展途上国には、電力など近代的な商業エネルギーの恩恵を受けられない人々が20億人も存在するという現実、第二は、環境問題に対処しつつ、持続可能な発展への道筋を実現する必要性である。
このような認識の下で、「結論と勧告」はいくつかの処方箋を提案している。その中では、補助金を廃止して、環境コストを含む合理的で適切な費用がエネルギー価格に反映されるべきであること、持続可能な発展に向けて幅広く公衆教育を行うこと、エネルギー市場自由化の流れの中で、業界、消費者及び政府との間に新しい協力関係(パートナーシップ)を形成すること、資金・技術面 で国際協力を一層推進することなどが上げられている。また技術については、エネルギーの利用効率改善、新しい再生エネルギーの開発、信頼される原子力の推進という3点について、長期的な視点からの技術開発の重要性を強調している。
世界エネルギー会議東京大会が発した重要な警告は、最近の規制緩和・市場重視といった流れの中で、短期的目標へ関心が集中している状況に対して、環境問題や技術開発など長期的な戦略ビジョンを犠牲にしてはならないということである。この警告がもっとも当てはまるのが地球温暖化問題への対策である。
地球温暖化問題はその対応の難しさから究極の環境問題と言われているが、今後この問題への対応策を講じることにより、21世紀の世界のエネルギーシステムは根本的な革新を遂げることになるだろう。これまでの議論では、2000年頃の温室効果 ガス排出量の安定化という比較的短期の対策目標が中心テーマであったが、気候変動枠組条約(FCCC)削減に進む必要がある。1997年にわが国で開催が予定されている第3回締約国会議(COP3)では、二酸化炭素排出量 削減が強く求められると予想される。
わが国は、1990年に閣議決定された「一人当たりの二酸化炭素排出量 について、2000年以降概ね1990年レベルでの安定化を図る」という地球温暖化防止行動計画の目標を世界に向けて公言している。しかし、エネルギー関係者の間ではこの目標の実現性は疑問視されている。地球温暖化対策としては、短期的に実現不可能な目標を言い合うよりも、21世紀中頃を目標として、長期的な視野から二酸化炭素排出量 の削減を着実に進める方が有効である。
技術的には、二酸化炭素の大幅な削減を可能にする見通 しはある。理論的には、生活レベルや経済活動を犠牲にしなくても、わが国のエネルギー消費を数分の1に減らせる。現実に使われている技術の範囲でも、世界に対象を広げれば、省エネルギーの余地はまだまだ大きい。地上に降り注ぐ太陽エネルギーは人類のエネルギー消費の約一万倍あり、現在の技術性能でもサハラ砂漠の200分の1に太陽電池を敷き詰めれば、世界の電力需要はまかなえる。また、核融合を待たずとも、高速増殖炉の実用化で、実際上無尽蔵のエネルギー資源を獲得できる。また、今の原子力技術(軽水炉)でも、石油や天然ガス程度の供給力はある。要は、このような技術的可能性を如何に現実のものとするかが問題である。
この点では、通 商産業省が1990年に提案した「地球再生計画」が注目される。地球再生計画では、100年程度の超長期の見通 しの下に、世界的な省エネルギーの推進、原子力や再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーの大幅導入、CO2吸収源の拡大、さらには核融合や宇宙発電などの革新的エネルギー開発を内容とする。世界規模での研究開発ビジョンである。この構想はOACDに引き継がれ、COPIでも気候変動技術計画(CTI:Climate Technology Initiative)として取り上げられた。
地球規模で温暖化対策技術を大規模に展開するとなると、技術評価が重要になる。そこでは、経済性はもちろんのこと、エネルギー所要量 や環境インパクトに関するライフサイクル評価(LCA)も必要である。R&Dの困難さ、実用技術としての市場浸透速度なども重要な評価項目となる。また地球温暖化のように、問題自体に大きな不確実性が伴っている場合には、不確実性下での有効性を考慮するためにミニマムリグレット基準のようなものも必要である。
世界エネルギーモデルなどによって、地球全体として費用最小な二酸化炭素排出削減方策を計算すると、発展途上国地域に費用の安い削減方策が多く存在することが分かる。これらの地域では一般 に、太陽エネルギーは豊富だし、バイオマス資源の成育条件も良く、エネルギー利用効率改善の余地も大きい。これが、先進国と途上国が協定を結んでCO2削減を行う「共同実施」の意義の源泉である。「共同実施」のような技術移転を含む国際的エネルギー開発は、今後ますます重要性を増すと思われる。また、僻地の水力資源や砂漠の太陽エネルギーを利用するため、エネルギーの長距離輸送インフラ整備も長期的な国際開発プロジェクトとして有望である。長期のエネルギー技術開発を地球的視点から推進する必要がある。