1997年7号

ロシア・東欧の市場、経済開発 および投資環境について

 今回、ロシア・東欧の市場、経済、投資環境等に関連した研究テーマの事前調査のため、5月中旬ロシア(モスクワ)、欧州数都市を訪問、関係者との意見交換を行ったので、以下にその概略を報告する。

ロシア・東欧の経済・投資環境の概況

 ソ連崩壊後、中央集権の計画経済から自由競争の市場経済の移行をめざしているロシア・東欧の経済の発展が大いに期待されているが、まだ十分な成果 が出ていない。ロシアは統計的にここ数年経済のマイナス成長がつづいているが、直近の予想では、成長率がプラスに転じ、インフレも大幅に改善しているという情報もある。今年以降、経済面 での楽観的な見方も多く、世銀、IMF等の支援も続いている。また、エマージングマーケットとして、欧米・韓国企業のエネルギー、サービス産業、自動車、家電等の分野への積極的な投資が続いている。

 東欧については、マクロ経済面での不安は一時的にあるものの、安定的な経済成長を持続しており、ロシアに比べ、投資リスクが少なく、引き続き、海外資本の受け入れを推進している。主な東欧諸国は社会主義体制以前から技術水準が高く(たとえば、チェコは第二次世界大戦以前、世界の十大工業国の一つであった。)、ある程度の経済インフラが整備されており、EUへの加盟にそなえて、外資導入による産業資本の充実を図りながら、市場経済化への移行を着実に進めているためである。日本企業の投資も自動車、家電を中心に活発で、特に、グリーンフィールド型の投資に変化しつつある。

 ロシア・東欧への欧州企業の投資は歴史的つながりや経済制度の欧米化がEUへの加盟により推進される等の理由により加速化されているが、政治的配慮も若干考えられる。欧州各国は99年の通 貨統合へ向け、その参加条件を達成すべく努力しているが、財政赤字、失業率等問題の解決は容易でない。ビジネス上の純投資という観点からみると、一般 的に国内失業率が高い現在、東南アジアの方がビジネス上リスクも少なく、成長率も高いのに、なぜロシア・東欧に投資するのかという疑問も残る。中国とロシアの対比をみると、中国は「easy to invest, but difficult to market」(投資は簡単だが、利益は少ない)、ロシアは逆に「difficult to invest, but easy to market」(投資は困難だが、いったん投資すると儲けやすい)といわれている、中国ビジネスはその見方か支配的だが、ロシアビジネスの将来の予測は困難である。

ロシア経済の現状

 経済はここ数年のマイナス成長(96年は前年比▲6%)からプラスへと転換する見通 しであるが、過去のマイナス成長についても、いわゆるブラックマーケット(地下経済)の部分(人によるとGDPの20から40%位 ?)を考慮すると、それほど悲観する状況でもない。国営企業の民営化も一部大企業を除けば、金融・サービス、軽工業、中小企業を中心にほぼ完了している。投資は鉄鋼、金属等よりもエネルギー、金融、流通 、サービス関連産業が中心に移行しつつある。海外投資もエネルギー、流通 、機械、金属分野が中心で欧州企業の投資が大きい。(金融セクター部門の投資を除くと) 中小企業分野でも研究機関に保有されているビジネスシーズ活用の研究開発型ベンチャー企業が徐々に新設されつつある。経済の中心はモスクワ、サンクトぺテルブルグの大都市で、地方経済の活性化は進んでいない。大都市と地方の格差は徐々に広がっている。経済の再建・産業の活性化よりも旧体制からの転換を急ぐため、政治、社会面 での優先順位の高い課題が多い。

課題と今後の対策

 エネルギー開発中心の経済政策の影響で、過去、莫大な資金と優秀な人材を投入した先端技術の蓄積と新規産業分野への応用が十分なされていない、また海外へのその頭脳流出も大きな問題となっている。軍民転換が大きな戦略といわれているが、予想以上に遅れている。特に、原子力、航空・宇宙、機械、新素材、情報・通 信、ソフトウェア等の先端技術は世界的にも水準が高く、将来の産業構造の改革に重要な要素となるが戦略的な産業政策が不明確であり、また、自動車、家電等の旧来型産業も輸入依存体質から脱却できず、育成も遅れており、国際競争力も低下しつつある。東欧諸国との差もひろがっている。

 海外投資を奨励するために、運輸(道路、鉄道)、通 信(情報ネットワーク、放送システム)、経済関連法の経済インフラの確立が急務である。特に、投資面 でそのインフラの透明性を確保するために、税制、関税、会社法、会計システム、海外投資法、民営化等の法整備が重要である。

 現在のモスクワを中心とした一局集中型経済システムから地方経済の活性化による地域別 経済格差の是正が必要である。情報通信、流通、輸送システム等のハード面 でのインフラの整備も課題となる。

日本の対ロシア支援

 日本の対ロシア投資に関しては、極東のエネルギー開発が中心であり、他産業への本格的投資は見られない。これまでの支援策は政府間ベースでロシア企業の対日輸出の展示会セミナーの協力、産業構造体質強化の人材の派遣・受入れ等の小規模なものである。民間ベースでの投資は欧米・韓国企業にかなり遅れをとっているが、市場の将来性と経済インフラ整備に基づくリスク要因を考慮しがら、投資・提携等を検討すべき時期にきている。特に、自動車、家電、通 信機器分野等への投資や航空宇宙、新素材、機械、情報通信、ソフトウェア分野等での技術提携が期待される。

東欧経済の成長性

 チェコ、ハンガリー等の東欧諸国は社会主義体制以前から工業国として有名で、技術水準が高く、経済的にもその存在は注目されていた。市場経済への移行にともない、その社会的インフラはある程度整備されており、現在の発展著しいアジアと比較しても、歴史・経済・技術面 でも海外投資の推進、産業資本の充実を図る点での利点は大きい。チェコ、ハンガリー、ポーランド等の主要国ではここ数年2-3%の安定成長を維持している。

 主要国はEU加盟を表明しており、海外企業、特に欧州企業からの投資は年々増加傾向にある。ロシア同様、韓国企業の進出も目立っている。従来の既存設備の活用、合弁事業型からアジア地域に多いグリーンフィールド型投資に変りつつある。食品、日用品から繊維、自動車、家電等と投資分野が多岐にわたっている。OECDへの加盟の結果 、旧体制から欧州型ビジネスルールの確立を進めている点も誘致策とても有効である。

日本企業の投資状況

 ハンガリーの協和醗酵のリジン合弁事業が東欧における日本企業最初の投資であった。スズキの合弁事業は体制転換前から有名で、現在東欧最大の自動車工場として注目されている。家電関連では松下、ソニー、TDK、住友電工、矢崎総業等が進出しているが、合繊の東レ、自動車エンジンのいすゞも大規模な計画があり、またトヨタもポーランドに工場建設を検討しており、実現すればその波及効果 が十分期待できる。これらの共通する点は既存企業の買収、合弁ではなく、グリーンフィールド型の投資を効率的に実行しようとしている。

最後に

 欧米企業はロシア・東欧の技術水準の高さに着目しており、ソ連崩壊時より、各種研究機関、組織、人材への積極的なアプローチを開始しており投資に関して積極的である。日本の場合、政府ベースではあるが、極東の資源、水産中心の開発協力、対日輸出、産業構造転換の支援等にかぎられている。民間ベースで消極的姿勢が目立つのはロシア全体がもつ政治的、経済的な暗いイメージ(北方四島の返還問題、対日民間債務、投資環境の未整備、最近のタンカー石油流出問題等々)の影響や日本企業の横並び主義によるものではないかと思われる。ロシア・東欧にアジア(インド、中国含む)に対する日本企業の投資ブームのようなものがおこるかを注目したい。

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