首題の会合に出席したのでその概要を報告する。
1.日時 :1997年7月28日~8月7日
2.場所 :ドイツ国ボン市ホテル・マリティム
3.参加者:参加国130カ国600名、日本政府代表団;外務省田辺地球環境問題担当大使以下42名
(うち通産省;石海審議官、林課長、桜井室長以下10名)、GISPRI2名(清木専務理事、二宮)
4.会合 :全体会合3回、ノングループ会合20回、その他多数の非公式会合
5.結果の概要
今回は12月の京都会議の交渉用議長テキスト作成後の初の会合であり、議長テキストに基づき、その重複部分を取り除き、各国の支持のない条文の削除などを行った。
その結果、主要論点については複数案が併記されたままであるが、全体的には議定書により近いテキストが作成され、これにより交渉の論点が整理された。(交渉テキスト英文128頁から約4割圧縮、条文は後日配布)
今回、数値目標などについて実質的な交渉は行われていないため、今後、非公式会合などを通 じて議定書採択に向けて相当な努力が必要と思われる。またAGBMエストラーダ議長より、主要国から早期に具体的数値目標を提示することが交渉促進に役立つ旨の発言があった。したがって、10月下旬に開催される次回AGBMが交渉の山場となるものと思われる。
6.AGBM会合結果について
今回の会合では初日午前の全体会合に続いて直ちに、(1)数量 目標(QELROs)、(2)政策・措置、(3)途上国を含む全締約国による義務の実施の推進、(4)組織的事項・最終条項、の4つのインフォーマルグループに分かれて議論された。それぞれの議論の概要は以下の通 り。
(1) 数量目標(QELROs)
今回はQELROs について議論が収斂するに至っていないが、それぞれの主張の共通
点、相違点が明らかになり、今後の妥協点の所在が明確になってきている。
議論された主な内容は以下の5項目である。[1] 対象ガスの扱い、[2]
複数年目標(バジェットアプローチ)、[3] 柔軟性のある枠組(フレキシビリティー)、[4]
差異化、[5] EUバブルの問題点について
[1] 対象ガスの扱い
対象ガスについては(a)温室効果ガスのどの種類を対象とするか、(b)吸収源の扱い、の2点が議論された。
(a)については米国が主張する全ての温室効果ガスを含めるバスケットアプローチ、EUが主張する特定の複数ガス(CO2、メタン、亜酸化窒素)と日本が主張する当面
計測の正確なCO2 のみとする3案に分かれている。日本案は中国,AOSISなどいくつかの途上国が支持したが、多数はバスケットアプローチに傾きつつあるようだ。
(b)吸収源の扱いについては、吸収源を含めるネットアプローチ(発生源-吸収源)と発生源のみを主張するグロスアプローチに意見が分かれている。米国はネットアプローチを支持、日本、英国はグロスアプローチを支持,EUは態度を保留した。
[2] 複数年目標(バジェットアプローチ)
この複数目標年はEUも相当の関心を示しており認められる方向にある。また米国が 主張するバンキング(目標を超過達成した場合の超過達成量 の次期への繰り越し・充当) も認められる方向で議論が進められている。なお、基準年についても複数年アプローチが議論されている。
[3] 柔軟性のある枠組(フレキシビリティー)
このフレキシビリティーは数量目標を達成するために行うべき枠組み・措置のことを指し、具体的には排出権取引と共同実施等のことを意味する。本件については途上国は総じて反対の立場にある。
(a) 排出権取引:
この排出権取引は米国が提案したことはよく知られているが、今回の会合ではEUが「目標数値のレベルが重要であり、国内の措置をまず進めるべきである。したがって、排出権取引が国内の緩い対策の言い訳となってはならない。」とするものの「個別
に話し合いたい。」と前向きの姿勢を示しており、日本についても衡平な初期割り当て、市場メカニズムなど効率性の確保、モニタリングの正確性の確保を条件に支持するなど、認められる方向で進んでいる。
なお、ボローイング(前借り)については米、カナダ、豪州などが支持,EU、途上国が反対している。日本は利子を付けること、及び適用に上限を果
たす条件で支持を行った。
(b) 共同実施 :
先進国と発展途上国間で行われる共同実施については米、カナダ、豪州などが支持している。EUは数値目標を果 たされる国(先進国)に限ると反対の立場である。途上国は共同実施活動の成果 の評価がなされていない現在は判断の時期でないと主張し、議論は進展していない。
[4] 差異化
本件については従来からのそれぞれの立場を確認しただけで具体的な進展は見られなかった。
なお、ブラジルが途上国の参加も含めた国際目標について差異化の独自案を提案している。
[5] EUバブル (EUを一体として扱うこと)
EUは3月のAGBMにおいて数値目標についてのEU案を提案している。この案はEU全体で1990年比で2005年-7.5%、2010年-15%の削減を要求するものであるが、EU内部の15ヶ国相互には+40%~-30%までの差別
化を認め,EU外部には一律削減を求めるものであるため衡平性等の観点から問題があると指摘されてきた。
今回の議論において豪州、日本、ロシア、ナイジェリア、カナダなどから衡平性、法的責任(法的拘束力に関する責任の所在)、透明性の問題を指摘した。一方、米国は法的責任の所在の明確化が必要としたものの、排出権取引との類似性を指摘している。
これらの意見に対しEUは今回のAGBMにおいて見解を明らかにするとしていたが、次回会合に先送りした。
(2) 政策・措置
本件、オプションの整理・絞り込みはある程度進んだものの、基本的な考え方について義務化に反対する米国と義務化を強く求めるEU(東欧諸国も支持)を両極とした対立に変化は見られなかった。これに対し、日本政府は省エネルギーなどについて政策・
措置をとるべき大枠の分野について合意すべきとする日本提案をおこなった。この日本案には米、豪、加、ニュージーランド、ノルェー、ロシアなどがオプションとして含めることを支持している。
なお、最近OECD入りしたメキシコ、韓国は附属書X国として、従来の附属書?国と同一扱いで削減対策を強要されるのはベルリンマンデート違反であるとし、リストからの削除を要求している。
(3) 途上国を含む全締約国による義務(約束)の実施の推進
ここでは温室効果ガス排出目録の作成、国家戦略の策定、技術移転の推進等に関して条文の整理を行っているが、気候変動枠組条約の条文4.1条の約束(コミットメント)の解釈を巡り、途上国と先進国とで意見が対立した。
すなわち、先進国はベルリンマンデートに基づき条約4.1条の実施細則として途上国の役割と明確化を主張したが、途上国側は非附属書?国には義務(約束)を果
たさないとするベルリンマンデートの決定を盾に実施の内容を出来る限り限定的に解釈し、まずは先進国が率先して削減対策を実施すべきであるとしている。また、[1]
途上国に今以上の履行を迫るのであれば新たな資金メカニズムが必要、[2]
先進国の対策強化に伴って途上国に社会的、経済的に悪影響が出る場合には補償が必要としている(OPEC諸国、アフリカ諸国が強く主張)。これに対し、[1]
先進国側は途上国の対策支援のためには条約の現行規定で対応が可能、[2]
補償という考え方は不適切であると米,EU、日本がほぼ一致して反論している。
なお、米国は、ポストCOP3の課題として、途上国を含めた全世界が気候変動枠組条約の究極目的の達成に参画する枠組みに向けて国際的な作業を開始する必要性を強調しているが、今回は新OECD加盟国の取り扱い、将来の発展途上国に対する目標設定等については具体的な議論はなされなかった。
(4) 組織的事項・最終条項
議定書の全文、締約国会議、補助機関会合等の組織及び手続き事項、約束不履行の場合の措置、発効・改正手続きといった条項について議論が進められ、議定書条文案の整理を行った。これにより新たな議長案が作成されることになった。
なお、この大役のノン・グループ議長は我が国の在ジンバブエ大使館柴田公使が勤めた。
7.実施のための補助機関会合(SBI)
(1) 98~99年の条約の予算案などが審議された。また、98年以降の会議日程は以下となった。
98年 1stセッション 98年6月2日~12日 ボン 2ndセッション 98年11月16日~27日 ボン COP4 98年11月(ホスト国の立候補がない限りボン開催) 99年 1stセッション 99年3月~4月 ボン 2ndセッション 99年10月~11月 ボン
なお、COP4の詳細はCOP3において最終決定される予定である。
(2) COP3ハイレベルセグメント
COP3の会期12月1日~10日のうち、閣僚等が参加するハイレベルセグメントを12月8~10日の3日間にわたって開催することが合意された。
8.科学・技術上の助言に関する補助機関会合
(SBSTA)
条約の実施のための方法論的課題について98、99年のワークプログラムを決定したほか、通
報(ナショナルプログラム)の作成・提出状況、共同実施活動等広範な課題について討議を行った。なお、現時点で途上国から通
報があったのはアルゼンチンとヨルダンのみで、本年中に16ヶ国が提出予定とのこと。
作業の重複の排除と効率化の観点から、共同実施活動については今後SBSTAが中心に,NGOとのコンサルテーションや技術移転についてはSBIが中心になって検討する事などの役割分担が決定した。
9.今後のスケジュールと見通し
今回の会合では期待された数量目標については具体的な提案もなく、また途上国・先進国間との対立も依然大きいことが明らかとなった。エストラーダ議長の主要国から早期に具体的数値目標を提示することが交渉促進に役立つ旨の発言もあり、かつ米国も10月には数値目標を公表するものと予想される。一方、COP3まで補助機関会合は10月下旬のAGBM8を残すのみとなった。
そのため、最終的な数量目標に関する交渉はCOP3のハイレベルセグメントに持ち込まれるもの考えられるが、COP3に向けて今後、日本政府は議長国として公式・非公 式会合を含め途上国の取組強化、差異化に対する働きかけ、数量
目標の差異化とEUバブル問題などについて積極的に関係各国と調整を行い議定書交渉の進展を図る必要がある。議長国の責任は重大である。
(事務局 二宮 嘉和)