1997年10号

IPCC第13回全体会合他

 次のIPCC会合が9月21~28日にモルディブ共和国で開催された。この会合で地球研の清木克男専務理事が初の先進国からの全体副議長に選任された。

  9月21日 第14回 ビューロー会合

  9月23~24日 第4回 WG2会合

  9月22・25~28日 第13回 全体会合

 モルディブは約1,200の小島から成る国で、小島諸国を代表して、気候変動により海面 が上昇すると沿岸部で大きな影響を受けることをIPCCにアピールしたいとの意向から、今回IPCCの全体会合をホストした。ご存知のとおり、白い砂浜、青い海、珊瑚礁 等で有名なモルディブは、ダイビング・スポットも多く、日本を始め多くの国から観光客が訪れている。ゆっくりとした時間の流れを楽しんでいるリゾート客には、会議の行われたバンドス・アイランドとフルムーン・ビーチ・リゾート等の宿泊先のとの間をボートで移動し、毎日朝早くから夜遅くまで会議をしている出席者は異様に見えたかもしれない。

 第14回ビューロー会合では、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議(COP)の補助機関からの要請を受けて作成した、技術報告「CO2排出制限の提案の解釈」について政府・専門家のレビューによるコメントを基に最終的な編集作業を行い、完成させた。第4回WG2会合では、同じくCOPの補助機関からの要請を受けて作成した特別 報告「気候変動の地域影響」の政策立案者向け要約(SPM)について、政府・専門家のレビューによるコメントを基にline by lineで審議し、SPMをadopt、詳細報告書をacceptした。第13回全体会合では、「第三次評価報告書(TAR)」のスコープの決定、ビューロー・メンバーの選定、特別 報告「気候変動の地域影響」のSPMのapproval等を行った。

1. 第三次評価報告書(TAR)のスコープの決定

 TARについては、ワトソン次期議長からの提案についてline by line で審議した。統合報告(Synthesis Report)の承認の手続き等、一部は決定されず次回全体会合に持ち越されることとなったものの、気候変動の地域的側面 に重点を置いた評価の実施、WGの再編成、2001年の完成、途上国や産業界・NGOの積極的な参加促進等、ほぼ提案どおりの内容で決定された。なお、各WG報告書を次のとおりとすることとなった。

WG1:気候システムの科学的評価 WG2:気候変動に対する脆弱性(感受性、適応性)と、気候変動による影響の科学的、技術的、経済的及び社会的評価 WG3:気候変動を緩和する対策オプションに関する科学的、技術的、経済的及び社会的評価

2. 特別報告「気候変動の地域影響」の承認

 本特別報告のSPMについては、前述のWG2会合で採択されており、変更なく承認された。

3. ビューロー・メンバーの選定

 これまでIPCCはビューロー・メンバー選定にあたって、全体議長がメンバー案を提示し、全体会合で検討・審議して決定していたが、今回は各国政府から候補者のノミネートを受けつけた。各国政府から多くの候補者が出され、地域別 会合を開催して地域内の調整を行うとともに各地域の代表から成るNomination Committeeを設置して調整を行った。しかし、各国政府及び各地域からビューロー入りへの強い意向が出され、調整は難航、アジアからの全体副議長ポストについてはIPCCで初の投票となった。投票は各国一票で、出席者が1名の国は当該出席者が政府代表として投票出来るが、日本のように複数の出席者がある国は政府代表団のヘッドを投票者として指名するため、信任状(credential)が必要であった。投票の結果 、106カ国の過半数を獲得したインドがポストを確保した。

 調整が難航したのは、アジアからの全体副議長だけでなかったが、投票を行うことによってこれ以上IPCC内にわだかまりが残ることを避けるため、ボーリン議長は急遽、全体副議長を当初の3名から、先進国1名及び発展途上国1名を追加し計5名とすることを提案、各国政府の承認が得られた。その後、調整が進み、最終的には投票は1回のみで、他のポストは無投票で選出された。

 日本は、WG3の先進国からの共同議長にオランダとともに候補者を出しており、投票の可能性も示唆されていたが、ボーリン議長の提案を基にオランダを始め各国政府代表と協議し、最終的に日本からの候補者である弊研究所専務理事の清木が全体副議長に回ることで調整がついた。これまでの副議長はIPCC活動全般 に対し意見提出、調整を行う役割であったが、今回先進国からの副議長ポストが設置されるとともに、5名に増員されたことから、副議長の役割を明確にすることとなった。その詳細については次回ビューロー会合で議論することとなるが、現時点では次の役割等が案として提示されている。

  • 各WGの代表執筆者の選定等の支援

  • 気候変動枠組条約機関等との連携及び調整

  • WG3に設置されるクロス・カッティング・イシュー(公平性、統合評価モデル等)のタスク・フォースとのリエゾン

 なお、新ビューローの構成は表のとおり。

 IPCCは気候変動に関する科学的知見を評価する学術的な集団あるが、これまでも報告書の審議の際には各国政府から政治的な思惑の持った意見が出されていた。しかし、本全体会合、特にビューロー・メンバー選定の過程を見ていると、今後、今まで以上に政策に関連する課題に取り組むIPCCが政治的影響を受けることが危惧される。この状況を見てか、本全体会合を最後にIPCCを去るボーリン議長は、閉会のあいさつの中で、IPCCの透明性の確保とIPCCのとりまとめる科学的知見が政治的影響を受けないようにすべきとの発言があり、ワトソン新議長もこれまで築いてきた信頼性を維持したいと応えている。

 IPCCは、ある種のカリスマ性を持って設立以来、IPCCを率いてきたボーリン博士が去り、バイタリティにあふれるワトソン新議長を迎えて、2001年完成を目指して第三次評価報告書に本格的に着手する。第三次評価報告書を信頼性の高いものにできるかどうかは、ワトソン新議長の手腕にかかっていると言える。

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