弊所では総合安全保障研究委員会:「地球的諸課題とガバナンス」研究会:を発足させたので、以下に概要を紹介する。
総合安全保障政策は、軍事的手段ばかりでなく、経済的、社会的側面 を含めて、多面的に安全保障をとらえようとする考え方である。本研究会は、日本の安全保障政策における総合安全保障の重要性を考え、以下のような相互に関連する二つの観点から、この概念を拡充する必要があると考える。
第1点は、国際環境の変化に国内政策の面 から対応するだけでなく、国際社会の安全保障環境の形成に能動的に関与することが重要なのではないか、ということである。
2点は、環境問題やエネルギー問題について国際社会が一層、相互依存関係を深めており、また軍事的な領域についても、国際社会に問題対処のための重層的な枠組みが形成されつつある、ということである。
アジア・太平洋地域では、急速な経済成長が続いているが、他方では、大規模な原子力利用計画や石油資源への依存増大といった資源・エネルギー問題、酸性雨や海洋汚染といったトランスボーダーな環境問題が生じている。また、冷戦の終結にともなって、核兵器や化学兵器解体といった新しい課題が生じている。国際社会の特徴は、そこに中央集権的な政府が存在しないことである。したがって国際社会に共通 な課題については、「統一的な意思決定機構の不在の下での問題のコントロール(governance without government)」が必要になる。 今後、日本の総合的安全保障の一環として、このような国際社会のガバナンスの仕組みをいかにして創り出し、利用するのか、ということが重要になるであろう。
本研究は、グローバルな課題に対しては、その課題毎に、関係国が柔軟に連繋を作りながら、国家、二国間取り決め、地域取り決め、セカンド・トラック、国際機構といった多面 的なメカニズムを利用して取り組むのが有効であるとの仮説に立って、国家、地域、国際機構などさまざまな主体のガバナンス(=統一的な意思決定機構の不在の下での(外交)課題の政治的コントロールの能力)の現状と課題について研究する。
第一に国際社会のガバナンス的取り組みを必要とする課題を列挙し、その現状を調査する。続いて、課題ごとの取り組みを比較して、とりわけ多様性に富み、主権国家的でない(Westphalia的でない)東アジアの国際社会の特徴を踏まえて、日本の総合安全保障政策と外交へのインプリケーションを考えたい。
環境(全体的取り組みの概観、地球温暖化、水資源問題等)
人口
食糧
海洋汚染
原子力(含むエネルギー問題)
テロ 化学兵器 麻薬等
インターネット
委員会の構成
委員長:今井隆吉 杏林大学教授
主 査:曽根泰教 慶應義塾大学総合政策学部教授
委 員:池田信夫 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
助教授
鈴木達治郎 電力中央研究所主任研究員
森本 敏 野村総合研究所主任研究員
山内康英 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教授
米本昌平 三菱化学生命科学研究所社会生命科学研究室室長
土屋大洋 慶應義塾大学大学院博士課程
期 間:平成9年9月より6カ月程度(6~7回)
研究の方針:
以上のようなグローバルな課題を、1. 網羅的に調査し、2. 外交課題として対処することを考え、整理の枠組みを考える。環境、人口、エネルギ
ーについてはそれぞれ適当な研究や論文があるので、別途議論をして整理する。その
ほかの課題については、適宜、小委員会を作り、必要な場合には外国のコンサルタントへの依頼や現地調査を交えながら、できるだけ突っ込んだ調査研究を行いたい。各
課題毎の調査終了後に、全体的な見取り図を作り、その比較を通じて総合的な対処の指針を考える。