1997年11号

リサイクルの技術開発と経済性

OPINION

地球温暖化防止京都会議にむけての提言

リサイクルの技術開発と経済性

-DSD(Dulals System Deutschland)視察から-


 「ポスト地球サミットはリサイクル」これはリオ地球サミット直後に近藤次郎先生(リサイクル推進協議会会長)が私達リサイクル関係者に激励の言葉として示された蔵書である。リサイクルはCO2抑制の有力手段であるから、COP3京都会議を前にして教えに思いを新たにしているところである。リサイクル技術開発は循環型経済社会構築に不可欠な社会資本であり、その重要性は急速に高まっている。今春、容器包装リサイクル法に基づく容器包装の「回収・リサイクル社会システム」が発足した。技術と社会システムはリサイクルを推進する車の両輪であるから、この新システムの登場はリサイクルの新しい時代を画するものとして注目に値する。

 海外においても新しい波が胎動しつつある。ドイツでは循環経済・廃棄物法が1996年10月施行された。また、包装廃棄物の回収・リサイクル推進機関として設立当初から各国の関心を呼んだDSD(注1)は、創立5年にして諸難題を克服し事業を軌道に乗せたとの情報も寄せられていた。このように内外変革の時期に、ヨーロッパの環境、リサイクル先進国ドイツの現状を視察することは意義あるものと考え、この春調査団を組んで訪独した。目的を包装廃プラスチック(以降廃ブラと略称)の先端的リサイクル技術開発とその事業化の実情調査に絞り、DSD首脳のご金力をいただいたお陰もあって、中核的企業を視察した。DSDが回収した廃ブラを品種別 に選別する事業、選別不能な多種混合廃プラをリサイクル目的の中間体に加工する事業、この中間体を油化、高炉還元剤に使用(リサイクル)する事業を一貫して体系的に視ることができた。調査団参加メンバーであるわが国リーディングカンパニーの技術者と現場で訪間先企業の技術者を交えて見聞し意見交換をしたが、種々考えさせられるところが多かった。その一端を述べてみたい。

混合廃プラスチックのフィード・ストックリサイクル技術

 この開発がDSDシステムの難題を打開した。
 DSDは1996年、包装廃プラ総排出量79万tの約80%を回収し、その約80%53万tをリサイクルした。リサイクル率は69%と高率である。因みに、日本の廃プラ総排出量 (一廃、産廃合計)884万tのうちリサイクルは95万t11%、エネルギー回収を加算してなおリサイクル率は25%にとどまる。ドイツの高率達成の秘訣は何か。技術開発が主役であると私は思う。

 DSD回収の廃プラのうち3分の1は品種別 に選別され、それぞれマテリヤル・リサイクルされている。残余と称するのは適切でない大半、3分の2(1996年約30万t)は選別 不能な多品種混合物であり、リサイクル不適な難物とされていた。政令によりエネルギー・リサイクルの道は閉ざされているうえに、埋立処分はもちろん許されない。グリユネ・プンクト使用料(注2)は取り立てながらリサイクル義務を履行(代行)していないなどDSD批判の焦点がここにある。この難問が、アクロメレート化(小塊化)技術開発の成功によって解決されたのである。「混合廃プラスチック」を「汎用性のあるリサイクル中間素材一アクロメレート」に加工製造する技術が完成し実用化段階に入った。油化、ガス化、高炉還元剤などの原料として大量 に利用できる道、フィード・ストック・リサイクルの道が拓かれた。回収廃プラの全体が技術面 でリサイクル(サーマル・リサイクルを除く)可能となったことは、他の包装廃材のリサイクルを合わせて、DSDシステムが全体として順調に機.能する展望が妬けたことを意味する。この技術開発は、5年の歳月を経てようやく完成したと、感慨をこめて説明したDSD責任者の発言は印象的であった。

DSDの技術とその幸業化の現状総括

 リサイクル技術に革新的なものはない。既存技術、産業インフラの活用がドイツのリサイクル事業を支えている。

 アグロメレートをDSDと共同で技術開発した企業に加えて、油化事業、高炉還元事業も視察した。技術と事業化の現状を大胆に総括してみたい。

 リサイクル技術に「革新的」なものはない。既存技術の改良、活用、多くの技術のシステム化、操業ノーハウの蓄積に加えて、既存の産業インフラ、設備が有機的に活かされて(廃プラ)リサイクルが事業化されている。ドイツ企業が真剣にリサイクルに取り組む事情は何か。ドイツはこの10年来、リサイクルに関して政策理念、具体策の両面 で漸新な「モデル」を提供してきた。理念の完成図が循環経済法であり、法が目指すリサイクルが至上命題とされる時代を迎えて、企業の生き残り、ビジネスチャンスの開拓のために地道な創意工夫と、持てる技術、設備の有効利用が必須との認識が高まっているのではなかろうか。

 リサイクルの技術開発、事業化は資金によって支援される。ドイツの包装廃棄物リサイクルは市場経済原則、競争原理に基いて効果 的に進められていると喧伝されている。グリユネ・ブンクト使用料負担が包装の減量 、簡素化、素材選択に影響を与えている事情は市場経済原則の機能の一端であろう。一方、グリユネ・プンクト使用料収入41億DM、約3千億円(1996年)からリサイクル事業の各プロセス、すなわち、選別 、中間素材化、油化、高炉還元化などに提供される処理費の機能は看過できない。処理費収入を興件として事業はようやく収支均衡となる、との説明を各所で受けた。

 循環型経済社会はリサイクルコストを商品価格に内生化する社会であるが、この社会構築を現実のものとするための課題、リサイクルコストの規模と負担、リサイクルの経済性が論議の的となる。環境大臣Dr Angela Merkelが、DSDの「エコ包装表彰」パンフ(1995年)祝辞の冒頭「包装廃棄物政令とDSD、環境保全と経済的負担は今日なお議論を呼ぶテーマである」と述べているのは興味深い。


    (注1)DSD

    Duales System Deutschland、包装廃棄物政令に準拠して、容器包装の使用者の出資によって1991年設立された会社。一般 のゴミの回収ルート(自治体)とは別に、回収、リサイクルを事業者から受託して行っている。

    (注2)グリュネ・プンクト使用料

    事業者は、容器、包装に付される「緑の点(グリュネ・プンクト)」の使用料を支払って回収、リサイクル義務の履行をDSDに委託する。素材別 、大きさ別に料金が定められている。

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