関係各位 COP3に向けた提言について拝啓益々、ご清栄のこととお喜び申し上げます。本年12月京都で開催される気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、そのCOP3に向けた条約交渉は本格化しているところであります。 地球環境問題を業務の一環として扱う当財団といたしまして、この会議の重要性に鑑み、当財団・(財)地球産業文化委員会有志による提言(別 紙)を行いたく、ここに公表させていただきます。忌憚のないご意見がいただけれぱ幸いです。 以上1997年10月 |
(財)地球産業文化研究所地球産業文化委員会有志
本年12月に開催される地球温暖化防止京都会議(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)は世界の166ヶ国の締約国が集結し、21世紀に向けた地球温暖化防止対策の議定書の採択を目指す、まさに歴史的な会議である。後年には、世界が一団となって21世紀の地球温暖化対策を講じた第一歩として記念されるであろう。
日本政府が議長国としての責任の下、着実で実効性のある数量 目標を含む方策を折り込んだ議定書の採択に向けリーダーシップを発揮し、京都会議が地球温暖化対策において後世に残る画期的な会議であるべく、献身的で精力的な努力を続けることを望むものである。かかる状況の下、われわれ地球産業文化研究所・地球産業文化委員会有志は日本政府並びに産業界、全国民に対し、以下の提言を行いたい。
1)排出抑制には運輸・民生部門に対する有効な攻策措置が必要
地球温暖化問題は文明生活を享受すればするほど副次的作用として生じる。我が国の94年度のCO2排出量 の部門別内訳を見てみると産業部門(合むエネルギー転換部門)が47.6%であるが、その伸び率ば横這いであるのに対し、個人生活に関連する運輸、民生(業務、家庭)部門の比率も43.0%を占め、かつ、この両部門の90年から95年の伸びはいずれも約16%と大きなものとなっている。また2010年における90年比の努力目標が日本政府により提示されているが、民生部門の伸び率ゼロに対し、運輸部門が17%でやむなしとの見方もある。
したがって、産業部門における削減努力に加え、運輸部門および民生部門からの排出をいかに抑制するかが確実に削減目標を達成するための大きな鍵となることは明らかである。
そのため、運輸部門については、公共輸送機関の充実や交通 機関間の連携等の都市交通政策の導入など抜本的な運輸行政の見直しが必要であるとともに、輸送に関わる産業界の低公害車(電気自動車、バイブリッドカーなど)の開発・普及への一層の努力、ならびに政府の低公害車に対する課税の軽減措置等が必要である。なお、この運輸部門の過半数を占める自家用車については、個々人の日常生活に大きく左右されるため個人のライフスタイルの見直しにまで踏み込んだ対策の実施が必要であり、運輸部門における削減状況に応じた時限的な都心部への乗り入れ規制なども場合によっては必要であろう。
民生部門においてはオフィスビルにおける各種省エネルギー対策と並んで、家庭部門での家電の「節電標準化」、「待機電力の見直し」と、「住宅基準の見直し」や「省エネ設備採用に対する補助」などによる省エネ住宅へのシフト促進を図るべきである。
2)日常生活を通じた温室効果ガス削減活動の定着が必要
直近の総理府調査によれば、日本において6割近い国民が、生活の利便性を追求する従来通 りの生活習慣から、自覚ある地球市民として地球温暖化防止行動の先頭に立つ生活を選択する気概があることを示している。
この気概を現実のものとして深刻化する地球温暖化問題に対応するためには、場合によっては痛みを伴う個々人のライフスタイルの見直しと、その痛みを甘受する自覚が必要であることを強調したい。
またこのような、無駄を省いた合理的な生活をし、「持続的発展を可能とするライフスタイル」を定着させるために、政府は、国民が適切な選択行動を取りうるに必要な諸情報の提供、具体的にはどちらを選択すればより温室効果 ガスの発生が削減できうるか、あるいはどうすればより削減が可能であるかなどの情報の提供を行うこと、あるいは正しい現状認識を促すためのキャンペーンや啓蒙、教育・広報など息の長い活動を行うべきである。
また、この温室効果ガス削減活動の日常化定着に向け、場合によっては政府高官が率先垂範のパフォーマンスを行うこと等や有力タレントを使ったキャンペーン等も必要であろう。
3)産業界になお一層の創意工夫と削減努力を要請
今回の地球温暖化問題に際し、産業界は経団連環境自主行動計画を発表、36業種(137団体)が環境アピールに沿って2010年までの具体的な地球温暖化防止計画を策定している。
過去に日本の産業界は73年に始まる石油危機におけるエネルギーコスト高騰に対処するため、多大の人材と資金を投入し、技術開発、設備投資による省エネルギー達成に努めるとともに、日常の創意工夫・改善活動により20~30%もの大幅なエネルギー効率を達成し、世界に冠たる省エネルギー技術大国となり、日本の省エネルギー技術は今や世界標準に至った経緯がある。そのため、先進諸国においても日本の省エネルギー水準まで削減努力を行う必要がある。
しかしながら、日本においてすでに省エネルギー対策の多くは、ほぼ限界まで推進されていると考えられるが、過去に抜本的な省エネルギー対策が、技術力の向上と国際競争力に加え、大きな経済的メリットも得られたことを再度想起し、なお革新的な技術開発による一層の削減努力を要請したい。
4)技術開発と技術移転の促進が削減の鍵
IPCC二次報告書は、先進国の保有する先進既存技術を移転するだけで大幅な省エネルギーが達成できることを述べている。すなわち、世界的な枠組みでのエネルギー利用の効率化の促進が重要である。したがって、我が国は技術移転を促進するための技術協力、トレーニングの受け入れなど発展途上国側の技術インフラの強化に寄与するための活動を官民協力して支援して行く必要がある。
また、エネルギー利用の効率化と技術に加え、長期的な観点からはより高度な省エネルギー技術の開発や化石燃料に頼らない新技術あるいは再生可能エネルギーなど革新的な次世代技術の開発・実用化に向けて不断の努力をすべきである。
このような革新的な技術開発には、高い技術力と資金が必要であり、それらを有する先進国が国際的な枠組みの中で協力しながら推進することが重要である。この分野は日本が最も貢献出来る所であり、政府と産業界は連携して技術移転の促進とともに技術開発とを図るべきである。
5)京都議定書についての提案
12月の地球温暖化防止京都会議において採用される議定書に盛り込まれる内容として以下の5項目を提案したい。
イ)温室効果ガスの大気中濃度の早期安定化に向け、実質的な削減目標を2010年に設定すること。
ロ)採用される数量目標は、各国の排出実績や今までの削減努力などを勘案し、「衡平性」を考慮した「差異ある目標の設定」を行うべきである。
ハ)削減目標を実効あるものとし、より柔軟に温室効果ガスを削減するための枠組みである「排出権取引」の採用、「共同実施活動」から「共同実施」への早期移行の実現。
ニ)削減対策への途上国の自主的参加
ホ)将来の途上国対策を話し合うアドホック・グループ・京都・マンデート(AGKM)の発足。
以上。
(追記)
現在、最も地球温暖化問題について科学的知見を持っているIPCCによれば、地球温暖化は相当な確度で発生すると予想しており、その結果 としてもたらす問題として海面上昇、気候の変動、生態系への影響等が挙げられるが、人工的な温暖化は地球上かってない急激な温度上昇をもたらすため、その被害が計り知れないこと、場合によっては人類が営々と築いた文明の滅亡の危機を伴うことを忘れてはならない。
また、温暖化は「北」の国については気候緩和による食料増産をもたらす一方、「南」の国では気候の悪化による食料の減産などが予想され、かつ、技術力と資金のある先進国は温暖化の対応にあたっては比較的対応が容易であるが、技術も資金も有していない発展途上国は適応が困難であるなど、地球温暖化問題は益々「南北間題」を助長しかねない問題もはらんでいること併せて理解しておくべきであろう。
(財)地球産業文化研究所地球産業文化委員会有志
阿比留 雄 | 日本原子力発電(株) | 社長 |
岩男 寿美子 | 慶応義塾大学 新聞研究所 | 教授 |
牛尾 治期 | ウシオ電機(株) | 会長 |
茅 陽一 | 慶応義塾大学 | 教授 |
公文 俊平 | 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター | 所長 |
河野 光雄 | エコノミスト 内外情報研究会 | 会長 |
島田 晴雄 | 慶応義塾大学 経済学部 | 教授 |
中西 輝政 | 京都大学 総合人間学部 | 教授 |
福川 伸次 | (株)電通総研 | 社長 |