京都のCOP3にむけて行われた事務レベルの会合である首題の会合に出席したのでその概要を報告する。
:1997年10月20日~31日
:ドイツ国ボン市ベートーベン・ホール
:参加国130カ国約1000名、日本政府代表団;外務省田辺地球環境問題担当大使以下登録58名 (うち通産省;石海審議官、林課長、桜井室長以下10名)、GISPRI(二宮)
:第8回AGBM、第7回SBI、第7回SBSTA
今回は議長作成テキストに基づき議論された。全体会合の下で4つのノングループによる議論(非公式会合)および関係国間の非公式協議による交渉が行われた。その結果 、議長案に修正を加えた新たな交渉テキストが作成された。
なお、今回のテキストでは主要論点については複数案が依然併記されたままであるが、論点が相当詰められ、考えられるオプションも絞り込まれている。また、エストラーダ議長は調整作業を継続すること、交渉テキストをさらに改善するために、AGMBM会合を最終とせず、京都会議の前日である11月30日(日)に再会することになった。
今回の会合では前回と同様に、(1)数量目標(QELROs)、(2)政策・措置、(3)途上国を含む全締約国による義務の実施の推進、(4)組織的事項・最終条項、の4つのインフォーマルグループに分かれて議論された。それぞれの議論の概要は以下の通 り。
本会合前に公表された日本案に続き、22日には米国案が公表された。また、途上国サイド(中国+G77)から新たな提案があった。
:2008年から2012年に排出量を90年レベルに戻すこと、その後の5年間(2013年~2017年)に90年レベルを下回る水準に削減。その後もさらなる削減に努める。削減を実現するための技術開発の推進、柔軟性措置(排出権取引と共同実施)の採用。
:各ガス毎に90年比で2005年までに7.5%、2010年までに15%、2020年までに35%削減すべきこと。補償のための基金とグリーン開発のための基金創設を主張
1)対象ガスの扱い
対象ガスの範囲についてはバスケットアプローチ(合計目標)が採用される方向であるが、全ての温室効果 ガスを対象とすべきと主張する米、加、豪等と、当面はCO2、メタン、N2Oのバスケットを対象とすべきと主張する日本,EUと意見が分かれており、どちらを採用するか今後調整が必要である。(代替フロンの計測上の問題を指摘)
吸収源の扱い(シンク)については日本、EU、AOSISなどは排出量 のみを対象とするグロスアプローチを主張。米、豪、加,NZ等はネットアプローチ(発生源-吸収源)を主張しており、合意に至っていない。(独、伊などEU一部にネット受け入れの意見もあることからEUも流動的)
2)複数年目標(バジェットアプローチ)
この複数目標年はEUが認めたことによりほぼ採用される見通 しとなった。また米国が主張するバンキング(目標を超過達成した場合の超過達成量 の次期への繰り越し・充当)も先進国間では支持することで概ね合意された。ただし、途上国側は反対している。
なお、附属書?国のうち、市場経済移行国(旧ソ連、東欧)の基準年については90年ではなく、排出量 がピークであった80年代の適当年を選択しうる基準年変更を認めることとなる見込みである。
3)柔軟性のある枠組(フレキシビリティー)
EUが5年間のバジェットを採用することを明らかにしたことより、柔軟性の議論は進展した。排出権取引と共同実施 についても先進国間で導入の条件、手順などの条文レベルの協議に入っており、着実に進展している。 ただし、途上国は国内措置が優先課題と反対している。とくに途上国とのクレジット付きの共同実施に強く反対している。
4)差異化
米,EU、途上国は一律削減を支持。日、ノルウェー、スイス、豪等は差異化を支持している。(ただし、国により差異化の考慮要素が異なっている。)
なお、差異化グループが交渉テキストに入れるべき合意ペーパーを作成し、カッコ付きではあるが議長テキストに盛り込まれることになったため、少なくとも差異化は何らかの形で残ることになった。
5)EUバブル (EUを一体として扱うこと)
EUはEU以外にも複数国でのバブルを認めること。数値目標の達成はバブル内で達成すればよいこと。達成出来なかった場合には関係国は自国の目標の範囲内で責任を負うことなどを主張している。
一方、日、米、豪、加、ノルウェー、ロシアなどは依然として責任関係の曖昧さ、EU域内外での不公平さ,EU内での設定ルールの不透明性などがあるとして反対しており、平行線をたどっている。
また、ロシアは先進国全体でのバブルを提案。豪・日は全ての国に差別 化を認めること、各国が目標を設定し、排出権取引を行いうることとする(日、米、NZ)等の意見も出された。
議長テキストは、政策措置の義務化に反対する米国と義務化を強く求めるEU(東欧諸国も支持)との妥協を図るような考え方を提案しており、これをもとに協議された。その結果 、政策措置について共通義務化を図らない範囲で何らかの規定を置くことについてコンセンサスが出来つつあるが、政策措置の共通 義務化については意見が対立したままである。
1.条文4.1項(既存の条約の義務の具体化)
先進国は途上国に対し、条文の範囲内で出来る限り具体的な措置を提案したいが、途上国側は追加的であり、実質的な義務の強化になることから反対している。
2.エボリューション(途上国の将来の義務設定プロセス)
途上国が反対しており、公式には議論されていない。しかしながら、米国が強く途上国の義務化を求めていること、将来の温室効果 ガス排出削減の実効性の観点から途上国の何らかの義務化は必要であり、京都マンデートなどの手法は検討されるものと思われる。
3.補償問題
先進国の温暖化防止策実施に伴う途上国への悪影響への補償として途上国側は2種類の基金(補償基金、グリーン開発基金)の創設を要求している。一方先進国側は補償のための資金供与は受け入れられないとしている。(既存の資金メカニズムとしてのGEFにより対応できるとして反対している)
4.組織的事項・最終条項
議定書の前文、締約国会議、補助機関会合等の組織及び手続き事項、約束不履行の場 合の措置、発効・改正手続きといった条項について議論が進められ、議定書条文案の整 理を行った。これにより新たな議長案が作成されることになった。
附属書?国の通報、資金メカニズム,共同実施活動、技術開発・技術移転、第4回締約国会議(98年11月ボンで開催予定)、運営予算事項などについて第3回締約国会議に諮られる決定案等を採択した。
ここではSBIと共同で共同実施活動、技術開発・技術移転について第3回締約国会議に諮られる決定案等を採択した。また、温室効果
ガス排出量の推計手法などの方法論に関する事項や、専門家ロスター(名簿)等についても議論が行われた。
なお、IPCCから3次評価レポートに関する新体制について報告が、ボーリング旧議長から最後のスピーチがあった。(新体制については別
紙参照)
今回の会合では、京都会議に向けた交渉の基礎となる修正テキストが作成された。多くの点で依然、各国の意見が異なるものの、このテキストを基に、京都会議での最終合意に向け、ハイレベルでの政治的判断も含めながら全体をパッケージとした大詰めの交渉が行われることになる。
今後のスケジュールは以下の通りであるが、これらの公式・非公式な会合を通
して議定書採択に向けた議長国としての最大限の努力が行われるものと思われる。
(1)非公式環境閣僚相会合(11月8,9日東京で開催)
先進国、途上国の代表20ヶ国を集め、8日に先進国、9日に途上国を入れたハイレベ ルの協議を開催予定。
(2)APEC閣僚会合、首脳会合(11月22-25日、バンクーバー)
(3)AGBM再会会合(11月30日)COP3の前日に会合を持つことが決定した。
(4)第3回締約国会議(COP3,12月1日~10日)
うちCOP3ハイレベルセグメントは12月8-10日に開催予定。
以上。