商社は、「儲かれば何でも扱う、取扱商品及びその物流が環境に影響を与える、あるいは熱帯林を伐採する自然生態系の破壊者であるとか、また法規制の緩い地域に進出し公害を輸出しているのではないか」といったイメージを抱かれることが少くない。したがって、ある意味では自ら商社の行動を振り返り、また別 の意味においては商社の真の姿を理解いただくためにも、環境に取り組む必要があるというのが基本的な商社の立場である。
(1)地球環境委員会と地球環境行動指針
伊藤忠商事は1990年に地球環境委員会を発足させ、社として環境問題に取り組み始めた。この地球環境委員会は上意下達ではなく、ある営業部の部長の論文が提言書として経営陣の目に留まり、「それでは提言書の作成者本人が委員会発足に向けて取り組んでみては」ということで設立に至ったという特徴がある。そしてこの委員会が中心となって活動を進め、93年4月に「伊藤忠地球環境行動指針」を採択した。
企業理念である「豊かさを担う責任」を果 たすべく「青い地球と経済成長の両立を図る企業活動」を行い、このかけがえのない地球を守り広く社会に貢献する、ということを基本理念とし、行動指針として?環境影響への配慮、?環境関連諸法規・国際条約並びに産業界憲章の遵守、?環境影響のより少ない取引の推進、?社会との共生、?啓発活動の推進を掲げている。私どもがこの中で1つの柱としたのが、国際商業会議所(ICC)の産業界憲章である。92年にできたICCの憲章をベースにそれ以降の活動を展開しているが、ICCの憲章が例えばISO14000の基本になっていることを考えると、ICCの憲章を基盤においたことは正しい選択であったと考えている。
(2)環境保全推進のための組織・体制・制度
地球環境委員会が発足した半年後に、事務局として地球環境室が設立された。さらに環境監査のために環境管理部会を、また社内の省エネ・リサイクル推進のために省エネ・リサイクル部会を組織した。そして全社に約80名の環境担当者を配置し、地球環境室が中心となって環境保全活動を推進している。
「地球環境行動指針」策定とともに環境管理・監査制度を導入し、毎年1回環境監査を実施している。この環境監査は、各組織が自ら管理基準を策定し、自己評価をすることが可能な体制を整備し、自主監査の形式をとっている。これまでに4回実施したが、「なかなか的確に行われている」という印象を持っている。
日々のビジネスの中で地球環境室がどの様に関わっているかというと、当社の特徴としては、全ての事業企画案件、与信案件の申請書に地球環境問題に関する所見を述べるコラムがある。このコラムに何かを書かなければ、次のプロセスに進むことができない。通 常ほとんど問題はないが、「問題がない」ということを一言書くだけでも「何かをそこで考え、感じるであろう」ということも狙っている。そして社員一人一人の心の中に環境に対する意識を植え付けることを目指している。
(3)社会貢献活動
当社では、研究機関とかR&D(Research and Development)の機関を持っていない。R&D的な分野で貢献したいという趣旨で、91年に東京大学気候システム研究センターに地球温暖化の寄付研究部門を設置し、今春から第2フェーズに入った。そして、92年から毎年「伊藤忠シンポジウム」という形で東大と公開シンポジウムを共催している。
また社内ボランティア制度として「青い地球箱」と「緑の地球箱」運動がある。「青い地球箱」では、海外出張時の持ち帰り外貨を社内ボランティアを通 じて回収し、併せて会社も同額を拠出し、自然保護団体に寄付している。ただ最近では、クレジットカードが多くなった結果 、持ち帰る外貨が少なくなってきたという悩みもある。また「緑の地球箱」では環境月間等に全社一斉に募金活動を行い、自然保護団体に寄付している。またユニークなところでは、ボランティア休暇制度を活用し社内で講師を募り、地元小学校の児童及び社員の子供達を対象に夏休みの自由研究のために、本社内のライブラリーを教室にして環境講座を開催している。
(4)おわりに
以上述べてきたことが、私どもの地球環境保全活動の一環である。外から見ると商社が何をやっているのかわかりにくいかもしれないが、もし誤解があるのであればそれを解きたいし、真の姿を理解いただきたいと考え、毎日の環境保全活動を展開しているところである。
(本稿は9月17日の第30回地球環境問題懇談会での伊藤忠商事株式会社 真鍋 陽 地球環境室長の講演を事務局でまとめたものです。)