平成10年6月18日(木)、本年度第1回通常理事会を開催し、平成9年度事業報告書等を審議・議決した。事業報告書の概要のみ、以下のとおり報告する。
平成9年度は、前年度からの継続調査研究4件および新規3件の計7件の調査研究を行った。また、国・特殊法人等から調査研究事業を受託し、積極的な事業展開を図った。一方、我が国経済は景気が停滞し厳しさを増していることから、低金利水準が続いており、事業運営のための財務面 では依然厳しい状況であった。
(委員長:茅 陽一 慶應義塾大学教授)
物理的条件研究小委員会では、地球環境問題をはじめとする様々な制約の下で、社会がどのような姿になれば持続可能といえるのか、また持続可能性を失うのか、その条件を明らかにすることが研究の大きな狙いであった。これに対し人口・食糧・エネルギー・経済・開発等の様々な分野の専門家が、地球温暖化、資源制約、環境制約、人口増加等々の諸制約下でのサステイナビリティの長期定量 的評価を行い、今後の技術開発のありかた、分配の社会システム構築、地域自立を目指す開発のありかた等々の提言を導いた。またこの研究成果 については、地球環境問題に関する啓蒙書として「地球環境 ‘98-99」を出版した。
(委員長:森嶌昭夫 上智大学教授)
急激な経済成長を遂げつつある東アジア地域において、これに伴って増大する環境負荷の問題が大きな懸念事項となっている。この解決策の一つとして、環境技術移転の実施が重要であり、日本の貢献が期待される分野となっている。本調査研究では、平成8年度に引き続き、環境技術移転に関する基本的考え方を踏まえ、環境技術協力を推進するための方策について検討し、提言を取りまとめた。
(委員長:今井隆吉 財団法人 世界平和研究所理事)
アジア・太平洋地域では、アジアの奇跡と言われた急速な成長から、一転連鎖的な通 貨危機に見舞われ、不安定な政治経済的状況の中で方向感を見失っている。アジアの通 貨危機は、21世紀型の危機ともいわれているが、これはまさに冷戦の終焉で急展開しはじめたグローバリゼーションに潜むそれぞれの分野でのガバナンスの問題である。多くの分野で新しい事態に対応できるガバナンスがまだできていないし、あるいは時代遅れである。実体が掴めない分野も多い。他方、冷戦時代の負の遺産の清算もまだ済んでいないし、とりあえずの妥協で設定されたルールも抜け穴の多いままであり、さらに危険性が残っていることに関心が薄れつつある問題もある。核に関する条約も宙に浮いたままであり、一方でアジア地域での大規模な原子力利用の計画が進んでいる。地球規模の環境問題は動き始めが、まだ行き着く方向はみえない。どうして膨れ上がる人口の中で秩序ある経済社会を発展させられるかもみえない。
近代欧州概念の主権国家による秩序に対して、脱国家あるいは超国家的な動きが先行している。これらに対して自生的、内生的な動きまで含めて、多面 的メカニズムを分析し、グローバル・ガバナンスの課題について研究した。
(委員長:奥野正寛 東京大学経済学部教授)
本委員会では、冷戦後にグローバル化の進展した市場経済に焦点を当て、市場をさまざまな制度の集まりととらえ、実態を総合的に把握し、多様な制度の役割を明らかにするとともに、市場システムが今後どのように変化していくか検討することにより、日本経済の進むべき方向および国際システムの在り方を展望した。
(委員長:鵜野公郎 慶応大学総合政策学部 学部長)
ロシアはソ連崩壊後、社会主義計画経済から市場経済への移行を推進し、政治的安定と経済的発展を目指している。軍事技術の蓄積からメカトロ技術、航空・宇宙開発、新素材等の国際的水準も高く、その事業化が経済活性化の中心となっている(軍民転換)。本委員会はロシアの産業・経済、技術動向等の現状、さらに投資環境の問題点の分析を行いながら、新たな展開が期待される日ロ関係をベースにロシア経済の発展のために日本および日本企業との協力に関する建設的な枠組みを提言した。
(委員長:白石 隆 京都大学教授)
97年のタイ通貨危機に始まるアジア経済危機は、IMFのタイムリーな支援策が市場に好感され、一応の小康状態を保っている。当初、本研究委員会の名称は「アジアの製造技術の内部化と産業政策のあり方を考える」研究委員会であったが、座長の京都大学白石先生より、本名称ではアジア全般 を取り扱うという委員会の趣旨からして対象を限定してしまうとの疑問が出された。出席委員各位 とも討議した結果、アジアにおける製造業を中心課題に据えるとしても、広く課題を捕らえるために委員会名称を「アジアの中の日本を考える」研究委員会と改称してはとの意見が出され、全会一致で名称変更についての合意を見た、アジアの中の日本のあるべき姿について研究した。
本研究委員会ではASEANを中心としたアジア諸国における政治・経済・社会システムについての理解を深めることを通
じて、地域協力のあり方について新たな可能性を探るとともに、この中で日本がARF、ASEAN-PMC、ASEM、APEC全ての参加国である立場をより生かしつつ、いかなる役割を果
たしうるかを分析するための基礎研究として、ASEANの多元的社会の構造、国民国家の形成、地域システムの形成、地域国際関係とのリージョナリズム、等の各項目について、日本を含む列強による植民地支配の影響、華僑ネットワークといった観点を視野に入れつつ、主要な論点を抽出/整理/集約したうえで平成11年3月を目処として報告書をまとめる。
本研究は、最近注目されるようになったNGO、とりわけ専門知識を持つ国境を越えた集団、これを「認識の共同体」と呼ぶが、の国際的役割を検討した。
a) 地球環境問題影響・対応方策検討調査(地球温暖化対応方策検討調査)
b) 石油製品品質面需給対策調査
(地球温暖化問題への取り組みがアジア石油製品需給におよぼす影響調査)
c) 発展途上国エネルギー消費効率化基礎調査等事業/IPCC等国際会議事業、環境 技術移転国際会議
d) 中国における共同実施活動の推進調査
e) バイオテクノロジーの活用によるエネルギー・社会システムにおよぼす効果
の調査
f) アジア太平洋地域の経済自由化に向けた日米中3ヵ国の協調に関する調査
g) 国際経済システムと貿易政策に関する調査研究
h) APECジョイント・インプレメンテーション・プロジェクトの実施活動
活動内容は、
1 研究委員会の開催(計9回)、
2 研究委員会報告書作成(平成10年5月)、
3 海外調査、
4 基礎調査であった。
地球環境問題については、政府と連携して調査研究を進めているが、その関連で平成9年度は次の国際会議等に本財団役職員を政府代表団アドバイザー若しくはオブザーバー、またはNGOという立場で参加させ、対応した。
・国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)――海外出張3人および国内出張6人
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)――海外出張5人
地球環境問題に関する会員企業への情報提供と会員企業間の情報交換を目的とし、平成9年度は計3回の懇談会を実施した。参加者は毎回40名程度であった。
(CCICED:チャイナカウンシル)
チャイナカウンシルは、中国政府に対して環境と開発の統合に関する建設的な提案をするための国際的な諮問機関である。当研究所はチャイナカウンシル本会議およびその傘下の7つの作業部会(ワーキンググループ:WG)の内、4つのWGへ専門家を派遣している(クリーナープロダクションWG、エネルギーの戦略と技術WG、公害防止WG、貿易と環境WG)。
平成9年11月21日(金)経団連会館1001号室にて標記シンポジウムが約 120名の参加者を集め、通産省、経団連、日本経済新聞社の後援のもとに開催された。 なお、このシンポジウムの報告は地球研ニュースレター、97年12月号、98年1月号に掲載された。
平成10年5月26日(火)駐日スウ40デン大使館にて、地球産業文化研究所と欧州日本研究所(The
European Institute of Japanese Studies、ストックホルム商科大学内)
では昨今のアジア経済情勢の緊急性に鑑み、標記国際シンポジウムを開催した。
電子フォーラムに関してはホームページを開設したが、さらにその内容を充実させるとともに、関連団体(例えば、JETRO、環境NGO等)とのリンクを検討し、効果 的な広報活動の手段として期待できる。またホームページ閲覧者の動向調査ができるシステムになっており、その意見・要望事項等を反映させることが可能になっている。
地球産業文化に関する情報の収集、分析を行なうほか、次により情報提供を行った。
1.調査研究に関する報告書等の提供
2.機関誌「地球研ニュースレター」(和文)および「GISPRI」(英文)の発行
3.地球環境問題(企業)懇談会開催による情報の提供
平成9年度は、次のとおり委員会を開催し、当財団の調査研究の基本的な方向を中心に、意見交換を行った。
時 期:1997年12月18日
場 所:GISPRI会議室
本委員会は、地球規模での資源・環境問題、地球社会の発展のための国際システムのあり方、産業・経済と文化・社会の新しい関係のあり方等の地球規模で解決を要する長期的課題について、本財団の研究成果 を踏まえて、内外に向けた総合的な政策提言を行うこととしている。その活動として、本委員会の有志が平成9年10月、本財団の研究諸成果 に基づき、地球温暖化防止京都会議(国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議)の重要性に鑑み、「COP3に向けての提言」を通 産省をはじめとする関係行政機関、主要業界団体、および参加各国等に提出し、この問題への積極的取り組みを要請した。