1998年9号

出張報告「21世紀の開発戦略研究委員会」 プレスタディ


 2050年のサステイナビリテイ研究委員会の研究成果を受け、H10年度から新たに「21世紀の開発戦略」を研究することになった。そこで、研究委員会の発足に先立ちタイ、中国、フイリピンを訪問し関係機関との意見交換等を通 し、新しい研究委員会の方向付けを調査したので以下報告する。

地球環境対策部 寺田 隆

〈出張期間〉:6/21~6/28

〈主要訪問先〉:タイ:タイ環境研究所(Dr. Sitanon Jesdapipat)、バンコクJETRO(野中次長、持丸氏)、中国:中国人民大学環境経済研究所(馬中所長)、豊田中国技術中心(石田代表)、フイリピン:フイリピン大学(藤崎教授)、マニラJETRO(飛騨氏)他(KSCバンコク、マニラ事務所)


1.タイ

  1.  環境問題には住民も厳しい目を向けている。バブルの時は、環境問題が限界のところまできていた。バブル崩壊によって少し収まったといったところ。

  2.  産業廃棄物処理施設建設には住民の反対運動有。産業廃棄物問題は日本とほぼ同じレベル。

  3.  環境があらゆる法律、制度の上位概念としてあるのは日本と同じ。違いは、環境規制遵守のためのノウハウが実力として不足していること。

  4.  水の重金属汚染問題も深刻。企業の出す排水が水質基準を遵守できていない。測定機器や、測定技術を持つ人材が確保できていないなど問題も大きく、規制遵守のための基本的な条件が満たされていない面 が多い。

  5.  企業経営者に日本の公害問題の事例を紹介し、被害の深刻さを通 して企業経営への影響の大きさを知ってもらい、環境問題に前向きにとりくんでもらうとの構想あり。

  6.  今はグリーンエイドプランを普及させている段階。規模150億円。タイ側にてアクションプラン作成。進捗は中国より少し遅れている状況。

  7.  進学率は中学50%、高校で25%、大学数%と、日本とはだいぶ開きがある。人材不足の要因にもなっている。

  8.  ISO 9000シリーズは収益に直接結びつくので、企業側もかなり取り組んでいるが、ISO 14000シリーズはまだまだの状態。

  9.  タイの資金流動性は全く良くない。現在でもバブル崩壊時と状況は変わっていない。ただし市民の危機意識はない。

  10.  環境問題に対する地方自治体の力は日本に比べて弱い。操業停止などを指導できるレベルにない。

  11.  タイは農業国であり、努力して収穫し生活するという面については、日本民族に近いものがある。

2.中国

  1.  この2年間企業への環境問題にたいする態度が厳しくなっている。環境破壊は許さないという態度で地方自治体が環境規制を徹底し、工場を操業停止させる強い態度に出ている。例えば准河を汚染する排水を出している企業の工場などは閉鎖に追い込まれている。従って地方自治体の方が、中央政府より強い権限を持っているといえる。

  2.  環境被害を直接受けている住民の意見には強いものがある。

  3.  大気汚染、水の汚染がひどい状況。

  4.  中国環境経済研究所は、主にアメリカのNGOや政府機関の資金援助を受けている。

  5.  中国の今後10年間の経済発展は、大変リスクを伴うであろう。財政上の問題が深刻になりそう。WTOに加盟することは楽観視できない。地方の企業がどのように国際競争力のある商品を作るようになるのか、想像もできない。輸入関税の引き下げにどう対処したらよいのか。

  6.  近年、不良企業・工場はどんどんつぶされており、失業率も高くなっている。その結果 、国民の暮らしは悪くなっているようである。

3.フイリピン

  1.  やりかたを強制するような外国からの援助の方策は通用しない。反発を招くだけ。地元の人々の生活に立脚した改善案、方法に留意すべき。

  2.  効率化を追求した日本の工業技術は、環境問題に対しても有効である。

  3.  貧困問題はどの国でも重要なテーマである。国の経済復興を成し遂げ、多くの貧困層を救済したスハルトの業績は一方ではきちんと評価すべきである。

出張全体をとおして:

  1.  バンコク、北京、マニラと途上国の首都を訪問したが、飛行場からホテルにつくまでに数多くの近代的なビルがまず目にとびこみ、各国の経済発展を象徴するようであった。しかし交通 渋滞は激しく、割り込みは頻繁、車線も守られていない。また冷房の無い乗合バス(フイリピンのジープニなど)が、数多く見受けられたのには驚いた。中古車も多く見受けられ、そのためか大気汚染もひどかった。

  2.  特に北京ではホテルの窓から眺める空は晴れた日でも朝からどんよりしており、眼下の三環路(高速道路)は一日中渋滞している。よく見ると入り口と出口が交差しており、そこで激しい渋滞を引き起こしていた、道路の基本設計の考え方に日本との大きな差を感じた。また市内の一般 道路の道路工事でも工事区域の周囲には柵が無く、車や歩行者の通行をガイドする案内人の配置もない。また、自転車は朝夕結構多いが通 行は車道のみに制限されて、歩行者の安全にとっては非常に良いが、信号が変わっても車の前を悠然と横切って行く姿は日本とは大きく異なり、安全に対する彼我の差を感じざるを得なかった。

  3.  各国とも環境問題に対する市民の目には厳しいものがあり、規制もある。しかし、規制を守る力としての、ハード(設備)・ソフト(技術・人材)が圧倒的に弱いようである。これについては、環境問題をすでに経験し克服してきた先進国の支援がやはり有効であろう。

  4.  途上国における環境問題には、各国共通 の問題もあり、横断的な取り組み方も、効率的な対策の観点から重要であろう。現在は、自国内および先進国との個別 的アプローチで対処している。

  5.  滞在した都市で率直に感じた事柄であるが、水、食料、交通 、空気、治安などにおいて、人々が生活していく上での社会的なフアンダメンタルズが日本に比べ圧倒的に不足しているようである。また一方では東京と何ら変わらない近代的なビルが、一般 市民の生活レベルとのギャップをよけいに強く感じさせた。「経済発展とはなんだろうか?」の疑問をあらためて抱かざるを得ない。世界中で同じような顔(ビル、交通 、ショッピングセンター、フアーストフード店、フアッション、人口集中etc.)を持つ都市がどんどん増えることが経済発展だろうか?人々の生活も、世界中どこでも同じような電化製品に囲まれて暮らすようになることが、目指すべき経済発展だろうか。その国の自然環境、気候風土、民族性等を充分に生かした、固有の経済発展、その国ならではの世界経済に対する位 置づけを模索できないだろうかと強く感じた。

  6.  今、世界はマネーゲームの真っ只中にいるようである。途上国のGDPが瞬時に吹き飛ぶような為替の取扱高、値動きの乱高下、巨大な外国資本の移動など、世界の経済全体がグローバリズムの進展により、性格が徐々に変化し、市場経済の新しい枠ぐみを欲しているのではないか。

  7.  世界の中で貧困で苦しんでいる人々はまだまだ多い。途上国に対する先進国の支援のありかたを、持続的な発展の観点から「21世紀の開発戦略研究委員会」で研究して行きたい。

▲先頭へ