1999年5号

出張報告: アジアに進出している日系企業の情報利用および 日系情報通信の対アジア進出状況調査報告


「アジア・太平洋の情報化が産業に与えるインパクト」研究委員会活動の一環として、3月25日から4月1日まで、標記を目的にタイ%フィリピンで現地企業等の見学・ヒアリングを行なったので、その概要を報告する。


1.タイ・フィリピンの電気通信事情 

     タイは公社による独占、フィリピンは自由化市場という違いはあるが、電話の普及率などの電気通 信事情は似ている(タイはWTOで2006年までの通信完全自由化を約束しており、今年から徐々に部分自由化される予定である)。 

     両国とも98年時点での固定電話の普及率は10%程度であり、普及は首都圏に一極集中している。また携帯電話の伸び率が著しく、タイでは固定電話の半数にあたる約230万回線(98年10月現在)が契約している。固定電話より加入が簡単で、料金にも大差がない携帯電話に普及が集中していると考えられる。電気通 信事業者も利益が出やすい携帯電話や国際通信に事業を集中する傾向があり、固定電話の普及促進策は、両国とも政府による各通 信事業者へのノルマの割り当てで行っている。しかし現在は、経済危機の影響で回線数は増えても契約者数は逆に減る傾向にある。 

     インターネットは徐々に普及し始めており、タイでは99年1月時点で約60万回線がISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に契約している。 

     フィリピンでは通信自由化以降、電気通信事業者が多数乱立したが、最近になって外資もからんで再編の動きが強まっている。 

     経済発展には通信インフラの拡充が不可欠であり、アジア各国は通信インフラ、特に固定電話の普及を促進しようとしている。経済危機以前は確かに経済発展に通 信インフラが追い付いていない状況であったが、今は逆の状況になっている。

2.日系企業の情報利用状況 

     今回の出張では、タイ%ソニーの半導体後工程工場とフィリピン%トヨタのRV組み立て工場を見学させていただいた。両工場の情報システム利用状況は以下に述べる通 り全く対照的であった。 

     ソニーは日本の工場と同じ工程管理システムを導入し、日本との物流管理にも情報システムを導入していた。また技術者%管理者には、ほぼ一人一台の割合でパソコンを配備している。工程管理システムに改良を加える時は、タイ現地のソフトウエアカンパニーに外注することもあるそうである。日本との間でデータ通信を行う時に、通信品質が悪いためによくデータ転送に失敗するという話しも伺った。 

     一方トヨタは工程管理、物流管理ともにほとんど情報システムは使用していなかった。コンピュータを導入するよりも人件費の方が安いので敢えて導入していないとの説明であった。情報システムに限らずロボットなども意識的に導入しておらず、人件費の安いアジアでは、自動化%情報化はコスト削減手段にはならないと考えている。 

      ソニーとトヨタでの情報利用状況の差は、企業文化の違いではなく、製品の違いによるものと考える。多品種少量 の半導体の場合は情報システム導入によるコスト削減効果が出やすいが、少品種多量 の自動車では人による管理でも十分対応できるということであろう。

3.アジアの情報化 

     通信インフラを拡充して、外国資本、特に成長著しい情報産業を呼び込み、自国の経済発展の起爆剤にしたいと考えている国がアジアには多いが、「人件費が安い」という今までアジアにとってメリットだったものが、通 信需要増加にとっては逆にディメリットになっていると考えられる。さらに現在は、景気減退そのものが通 信需要増加を阻害している。また情報化はソフト技術者の雇用促進という面 があると同時に、単純労働者の雇用疎外という側面を持つ。これもアジアにとっては通 信需要増加の阻害要因になると考えられる。 

     アジアで今後情報化あるいは情報利用が進むのは方向としては間違いないが、アメリカのように経済発展のリード役を果 たすと考えるのは過度の期待であるように思える。 

     一方インドのバンガロールのように自国の情報化はさておき、安い労働力を活かしたソフト産業を育成して一大輸出産業に育てることは可能である。フィリピンなどはインドと同様に英語を公用語としており、ソフト技術者を養成する学校も多数あるので、第2のバンガロールとなる素質は十分にあり、すでにその兆候が現れている。 

     少なくとも現時点では、通信インフラ整備よりはソフト産業育成の方が、アジアの特色を活かした経済発展に貢献すると考えられる。

(文責 事務局 古見孝治)

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