12月の初めから、アメリカに出張に行ってきた。いつもマンハッタンのホテルに泊まっているのだが、朝早くから店が開いている。24時間営業の食料品店は当然ながら、コーヒーショップ、靴磨き、ビデオショップ、アウトレットのデパートまで、8時には開いている。先日ロスに行ったときも、朝7時頃には建築工事が始まっていて驚いたものだ。大学に行ってみると、8時には、清掃の人は仕事を終えつつあり、もう秘書は来ていて働いている。もちろん、同じニューヨーク市内でも、また、アメリカでも場所によって事情は異なる。
一方、日本では画一的に労働時間が少なくなり過ぎている。朝も10時にならないと連絡のつかない会社ばかりである。しかも、祝日が多過ぎて、かつ週休2日なので、仕事がぶつ切りになるし、能率が悪いことこの上ない。
1988年から、日本の労働者の労働時間が急激に低下して、1993年の時点で、日本の労働者の年間労働時間はアメリカを下回っていた。国をあげての時短運動の結果 である。日本は、すべての企業に対し指導で、画一的に時短を行なわせるので、変化がドラスティックになる。それでも、いまだ日本人が働きすぎているという印象で、週休二日をより徹底させ、やたら国民の祝日を増やすので、日本の労働者の労働時間の短縮に歯止めがかからなくなっている。
労働時間の削減と同じことがより大規模に行なわれたのが、日本の学校での基礎科目の授業時間と内容の削減である。1980年から1982年にかけての各国の中学一年生の年間授業時間の調査では、日本の中学生の数学の授業時間は先進国中の最低であった。それにもかかわらず、文部省は、公立学校に2002年から完全週休二日制を導入し、更に授業時間を減らすことにした。
その結果として、日本の子供たちの平均的学力は、アメリカ、その他の先進国と比較しても、落ちてきている。指導要領で学習内容のレベルを落としたり、授業時間を減らすことによって、日本の子供たちの学力が画一的に低下している。日本では、すべての子供が同じことを学習するので、優秀な子供の学力も低下することになる。
先進国で最低の授業時間、アメリカを下回った労働時間、TOFELの点数が北朝鮮、モンゴルと並んで世界の最低、大学生は小学校の算数もできない。
何が原因で、このような日本になったのだろうか。細かなことを挙げるときりがない。根本的なことを1つ挙げるとすれば、政策決定の課程で、専門家を活用しないことが原因であると思う。政府の委員会の委員やマスコミに登場する人も、本当の意味での専門家でないことが多い。経済評論家でも、法学部出身者が多く、経済理論を知らないと思われる人も多く、経済学部の教授といっても専門はバラバラで、自分の専門に基づく発言をしている人は少数である。
このような事は、外国ではあり得ない。特にアメリカでは、常に履歴書を取り寄せて、その人の過去の仕事の内容を評価してから、人の起用を行う。諸外国では、アメリカの大学のPh.Dをもった役人や、大学から引き抜かれた専門家が、政策をつくり、交渉を行う。Ph.Dをもった専門家を起用する国と、ずぶの素人を起用する日本とでは、勝負は闘わずして明らかであろう。
日本でも、官庁やマスコミが、候補者の履歴書を取り寄せて、その人がどのような論文を書いているかを見てから、審議会の委員を頼んだり、テレビや新聞でのコメントを求めるべきである。そうすれば、プロ野球の監督の妻というだけで、テレビでコメントを述べて有名人になるということも少なくなるだろうし、ドラマのヒロイン、マンガ家、作家などを集めた審議会で、日本の科学技術を左右する教育政策を決めるということもなくなるだろう。
審議会の座長や委員を決める前に、全員の履歴書を取り寄せ、審査することを率先して始める省庁がどこか出てきてくれないだろうか。