第10回「21世紀の開発戦略研究委員会 委員長:竹内啓(明治学院大学国際学部長)」(平成11年12月10日開催)において、アジア太平洋地域の都市問題の解決に取り組んでいるCITYNET(アジア太平洋都市間協力ネットワーク)よりご講演頂いたので以下概要を紹介する。
CITYNETの紹介:
CITYNETは都市問題の改善・解決を目指し、会員間の相互理解及び技術移転を促進し、加盟都市と団体の組織的能力の向上を図ることを目的としている。1987年に設立、アジア太平洋地域の都市・団体を会員とするNGOであり、国連の特殊諮問資格カテゴリーⅡを有する。11月現在の会員数は、19ヶ国、114会員(64都市、50団体)。会長は横浜市、副会長はムンバイ市、バンコク市であり、事務局は横浜市のパシフイコ横浜にある。
講演テーマ: 「地域開発におけるネットワーク作りとパートナーシップの重要性」
講 演 者: CITYNET事業課長 Ms. Bernadia Irawati Tjandradewi
講演概要:
1. なぜ都市は、重要なのか?
世界の人口は、2010年には70億人に達すると予想されているが、このうち42億人がアジア太平洋地域に住むことになる。都市は、経済成長の原動力を担う場でもある。
例えばタイのバンコク市は、タイの他の都市すべてを合わせたのと同じ経済規模を持っている。資源消費の面 からは、都市を維持するには多くの資源が必要であり、例えば東京の人口を支えるには、日本の面 積の3.5倍もの土地が必要であるのである。
国の全人口に占める都市の人口の割合は、開発途上国では、先進国の3倍になっている。世界銀行のデータでは、その大半が中小都市に居住している。(ここでは、50万人以下の都市を小都市、50万から100万人の都市を中都市、100万人から500万人の都市を大都市、500万人以上の都市を巨大都市と呼ぶ。)特に、アジア太平洋地域では、他の地域より都市人口の割合が高く、約1.5倍となっており、アジアの33の都市で人口が500万人を超えることになる。
UNDP(国連開発計画)が各都市の市長に対して行った、「21世紀の都市のチャレンジ事項は何か?」というアンケートでは、雇用、固形廃棄物処理、都市の貧困、住環境の不備、ごみ収集が高い回答率を得ている。
2. CITYNETの目的とビジョン
CITYNETでは、環境と健康、貧困緩和、都市財政と管理、都市基盤とサービス、参加型都市行政の5分野に焦点を当てて活動し、ワークショップやセミナー、専門家の派遣、刊行物の発行、各都市間の調整を行っている。
活動の目的は、これら5分野での地域レベルのネットワーク作りを手助けすることであり、それにより秩序のとれた都市開発の進展をはかることである。特に、地方自治体と各地NGOsとのパートナーシップ作りに力をいれている。
CITYNETは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と横浜市のパートナーシップで設立されたが、そのきっかけは、ESCAPと国連人間居住センター(UNCHS Habitat)による、第一回アジア太平洋都市会議(Y’LAP)「アジア太平洋地域における自治体の都市づくりに関する横浜国際会議」の成果 として、その横浜宣言の一つに、「自治体間の効果的連携の確立」を謳ったことである。正式な設立は、1987年に名古屋で開かれた第二回会議においてである。事務局は1992年から横浜市にあり、会長には横浜市長が就任している。会員は、主にアジア太平洋地域の都市などであるが、フランスとオーストラリアも加えて19ヶ国に分布している。主な会員は大都市であり、来年会員となる予定のカンボジアのプノンペン市を加えると20ヶ国になる。
3. CITYNETの活動状況と地域発展への取り組み
CITYNETは、多くの国の都市の連携、技術協力などを仲介する組織であり、たとえば、ホームページやニュースレターなどを通 して、各都市の横顔やデータベースなどを紹介したり、各都市の需要と供給を結びつける活動も行っている。
例えば、カトマンズでのワークショップではモデルハウスの展示で、カトマンズ市とネパールのNGOを結びつけることができた。
都市間の協力の事例としては、海抜の低いバンコク市の洪水対策の指導のために、横浜市の専門家をバンコク市に派遣したことや、また、アジア太平洋地域の各都市にとって大きな問題である固形廃棄物処理でも、横浜市へ会員都市を招へいし研修を行っている。
CITYNETの重要な役割は以下3点である。
(1) 地方自治体の力を結集することによって、各国政府や国際社会に影響を与えること。例えばニューデリーで行った交通
対策のセミナーでは、国の対策実施に結びついている。
(2) 通常は各国政府から地方自治体へ下りてくる形でしか入手できない情報を、政府を介さず直接市当局に提供可能とすること。
(3) 会員都市の最良の事例を他の都市に伝え、その国の政府を動かし、改善に結びつけること。
また、CITYNETの活動の大きな特徴は、南北のみならず南南協力を可能とする仕組みを有していることである。
4. 経験から学んだこと
CITYNETのこれまでの活動経験からわかったことは、以下のとおりである。
1. 資源の配分よりも資源の共有が重要
2. 政策立案よりも合意のとりまとめが重要
3. 参加することよりパートナーシップが重要
4. 研修よりもキャパシティビルディング
5. 最良の事例そのものよりもそれに含まれているアイデア
6. 計画よりも効果的な統治
例えば、横浜市での廃棄物処理の対策を、他のアジアの小都市に適用する場合、計画立案だけでなく、いかにして効果
的に行うか、といった総合的な検討が必要となってくる。
CITYNETは、このような需要と供給のマッチング、すなわち技術移転の可能性を探り、そして何が移行できて、何が移行できないかを見極めることを助ける業務を行っている。
フィリピンのマカティ市は、焼却炉の建設を検討していたが、CITYNETの研修プログラムにより、横浜市を訪れた担当者が焼却炉を見学し、その問題点についての研修を受けた結果 、焼却炉にはごみの分別が必要であり、現在分別を行っていないマカティ市では、良い解決法にならないことがわかった。
また、一つの都市から別の都市に移転できるものとしては、技術移転だけでなく、知識や管理方法、行政手法などの移転がある。CITYNETの活動には、情報の普及も含まれており、これには、インターネットやワークショップ、セミナー、研修プログラム、現地視察などの形がある。
CITYNETでは、NGOなど、各都市で特に専門知識を持っている組織が所有する情報の共有を奨励し、メンバー間での技術協力の強化を図るとともに、個人・組織のキャパシティビルディングの強化を目指している。
CITYNETの2000年度の計画は、1事例1頁のような短い情報のページを提供して、各都市にインスピレーションを与えることである。