2000年3号

第38回地球環境問題懇談会 「環境会計の今後の動向」

  去る1月24日(月)商工会館において、「環境会計の今後の動向」というテーマで、国際基督教大学準教授宮崎修行氏、ソニー株式会社社会環境部企画室室長多田博之氏、株式会社安田総合研究所研究員竹原正篤氏の3人の講師をお迎えして、第38回地球環境問題懇談会を実施した。以下にその講演内容について報告する。なお、本報告内容については、当日の速記録をもとに事務局でまとめたものである。


 環境会計とは…事業活動で環境の要素が占める比重が大きくなる中、ビジネスと環境の関係を正確に掴もうとする動きが出始めており、環境に対する取り組みの実態を把握し、外部に情報開示をする目的で行なわれているもの。ただし、財務会計のような統一したルールはまだない。(日経エコロジー8月号より)

1.「環境会計の意義と国内外の動向」
        国際基督教大学準教授 宮崎 修行 氏

 環境会計の現在の状況について、非常に盛り上がった状況ではあるが、まだ形が整わない状況でもある。まだ統一的な形、ガイドラインといったもの、ましてや法律にはならない状況であり、各社困っているものと思われる。

 環境会計では、環境投資した金額が実際上のベネフィットにつながっているのか、また、実際上の環境パフォーマンス、例えばCO2とかNOxを減らす方向に向かっているか、といった事が大切。

 国内の取り組み事例として、IBM、富士通 、宝酒造各社の取り組みについて紹介する。IBMの環境会計は環境コストとベネフィットを対比したパイオニア的なもの。富士通 は「環境費用対効果算出ガイドライン」を策定している。宝酒造は環境パフォーマンスを通 信簿のように五段階評価で表示している。

 海外の環境会計の取り組み事例として、スイスのロシェ社の取り組み、EER(エコ・エフィシェンシー・レート)について紹介する。

 「ロシェは、全体的な総合環境効率の測定も重視している。その方法として、新しい指標EER(環境効率レート)を開発した。これは、全社の売上高を、環境保護に支出した金額と環境被害(環境被害単位 で表す)で割った値である。EERはアウトプットを増やすか(一定レベルの支出と被害に対応する)、インパクトを減らすこと(例えば、販売と環境支出を一定にして環境被害を軽減する)により改善できる。環境被害単位 は、排出された汚染物質の重量とその被害程度に基づいて設定する。これは、環境コストを投下すると、それが売上高に跳ね返らないとこの数字が下がるということ。また、環境コストをかけた分よりももっと環境インパクトが下がらないと、全体としては数値が上がらないという厳しいもの。」

EER = S ÷(E×EDU)
   EER = 環境効率レート
   S = 全社の売上高
   E = 環境保護に支出した金額
   EDU = 環境被害単位

 環境コストを投下するとそれが売上高に反映しないと数値が下がってしまうという点で、ロシェ社のEERは、かなり完成されたエコエフィシェンシー(環境効率)を表しているものではないかと考えている。

 また、ドイツで広く実務に取り入れられている環境原価計算プロセスについて紹介する。これは環境関連原価を変動環境関連原価、製品固定製造環境関連原価、製造グループ固定環境関連原価、共通 固定環境関連原価など、いろいろな生産領域で製品毎、製品グループ毎、最終的には工場全体での環境コストを把握しているもので、いかにもドイツ的なしっかりしたものだと考えられている。

 環境会計は、環境投資を促進するような会計システムであるべき。つまり環境会計を導入した結果 、環境投資が少なくなったとか、環境保護がむしろ遅れてしまった、ということになったら、いくら公明正大で客観的で科学的で比較可能性があっても、そういう環境会計はほとんど意味がない。また会社全体で見て、環境部(環境保全に携わる人)がトップマネジメントを説得できる材料になるようなものであることが重要である。


2.「環境会計の取り組み事例」
      ソニー株式会社社会環境部企画室室長 多田 博之 氏

 環境会計を行うにあたっては、環境コストについて独自のガイドラインを定義しており、これに基づいて国内38カ所、海外も含めて120カ所の事業所の現状を集計している。ガイドラインをもとに、環境パフォーマンス、いわゆる環境負荷がどれだけかかっているかについて5~6年前からグローバルに集計している。しかし、金額的な情報も必要という事になり、2年ほど前に環境コスト集計のガイドラインを作り、環境コストを押さえている。この二つのガイドラインによって、コストとパフォーマンスの相関関係を把握して分析するというやり方を行なっている。

 どのようにデータを集めているか。先ず、事業所でデータを取る。ソニーはカンパニー制をとっており、この情報をそれぞれの親会社に提出する。それから、アメリカ・欧州・日本・アジアの4つの地域毎に地球環境委員会があり、地域としての集計・分析を行なっている。これはいわゆる内部環境会計になる。

 内部で集めた情報から、カンパニーごとに環境コストはどれくらいかかったか、エリアとして環境コストがどれくらいかかったか、を環境レポートとしてまとめ、ディスクローズする。これは外部環境会計になる。

 ソニーとしては、社内も含めソニーを取り囲む様々な利害関係者の方々に、ソニーの環境保全活動に関する情報を提供することが環境会計の目的だと考えている。

 内部環境会計目的としては、社内では、環境はお金ばかりかかるマネージメントと見られがちであり、そうした人たちに環境活動をやる事でどのくらいのコストがセーブできたか、ということを明示することが重要であると考えている。

 外部環境会計目的としては、開示する対象は社外のステークホルダーであり、そうした人たちが知りたい内容に合わせてデザインされるべきであると考えている。つまり、ソニーという企業が経済的価値を見出すのにどのくらい環境に負荷をかけたのか、環境負荷を減らすために環境コストをどのくらい投資したのか、結果 として環境パフォーマンスはどのくらい減ったのか、という内容が明らかにされている必要があるという事である。

 ソニーの環境会計については、「環境保全活動報告書1999」の44ページに紹介している。また、「数字で見るソニーの環境活動1999」の5~6ページには、環境コストと効果 の対比についてまとめている。効果の部分は、パフォーマンスがどれくらい改善したか、リスクの回避がどのくらいできたのか、コストの節減がどれだけ出来たのか、について開示している。


3.「環境の取り組みに対する投資行動への影響・評価」
      株式会社安田総合研究所研究員 竹原 正篤 氏

 安田火災グリーンオープン、愛称「ぶなの森」について紹介したい。この商品は、安田火災グループが昨年の9月から発売している、環境問題に積極的に取り組んでいる企業の株式に投資を行なう投資信託。この商品の従来の投資信託商品との最大の違いは、従来の財務分析に加えて、環境面 から企業の取り組みを分析して、最終的な投資銘柄候補を決定するというもの。

 地球環境問題が年々深刻化している中で、環境問題により積極的な役割を果 たすべきであるということは、金融機関についても例外ではない。平成11年度の環境白書の中でも、金融機関の環境に配慮した経営を強く求めている。しかし、実際に環境への取り組みを評価した金融商品を開発するとなると、様々な課題がある。一つめは売れるかどうか、二つめは評価基準が難しいこと、三つめはよい結果 がでるのかということ。

 地球環境への取り組みは企業にとって生き残り戦略となってきており、企業の競争力を左右し、中長期的に見て投資価値が高いと考えている。また、この商品の販売を通 じてグリーンインベスターの拡大に寄与したいということも考えている。

 最終的には、グリーンインベスターが確実に増えていること、環境報告書など企業が環境に対する取り組みを分析する材料の入手が可能になったこと、昨今低金利が続いており、個人の資産が従来の預貯金から証券投資にシフトしつつあるというタイミングもあったこと、といった背景からこの商品が開発され、販売されることとなった。

 実際にどういうプロセスで銘柄が選定されているか。先ず、安田総合研究所、安田リスクエンジニアリング、安田火災海上保険で環境分析チームを作り、ISOの取得情報や環境報告書を読んでリストアップする。これを資産運用会社である安田火災グローバル投資顧問に提供し、アナリスト、ファンドマネージャーが財務分析を行ない、信用リスクや株式の流動性リスク等を勘案して200銘柄程度の投資対象銘柄(「環境ユニバース」と呼ぶ)を選定する。あとは、ファンドマネージャーが株価の割安度分析の観点から、随時ポートフォリオの中に組み入れて運用を行なっていく。ポートフォリオに入っている企業数は50銘柄程度で、原則年2回見直しを行なっている。

 環境分析を行なうにあたってはどの視点から分析を行なうか。一つめは、環境マネジメントの展開度、二つめは、環境情報の開示・コミュニケーション、三つめは環境負荷・環境効率の改善。この中で、環境会計をどのような扱いとしているか。

 現時点では、環境会計を企業の環境経営等の分析評価でのウエートを高めるのは非常にリスキーであると考えており、あくまで情報開示に対する姿勢という極めて限定的な評価を行なっているのが現状である。

4.質疑応答

Q1:コスト対ベネフィットあるいはパフォーマンスのところで期間対応が難しいという点について、環境報告書の中に、今年度かけた費用・投資、および今年度過去の経緯を経てあげた効果 ・ベネフィット、について別書にして明記すればわかりやすいということはないか。
A1:(宮崎講師)環境報告書に投資として把握された金額はあるが、投資間の償却費がどうなってくるかという事は通 常記載されない。環境コストは常に差額コストで、通常の設備と省エネ型の設備でどのくらいお金が余計にかかっていくか、ここの部分が環境コストになる。ところが環境技術が進歩するため、年度が進むに連れてスタンダードが上がってきて、この差額コストが変わってくるという点が環境コスト算定の最大の問題。したがって、ある投資がどうだったかという事については、プロジェクトを決めて、その範囲内でコスト・ベネフィットはどうなっているかについて、総額として示すのがよいと考えている。

Q2:環境コストという言葉は、環境に対する負荷という意味、環境を犠牲にするコストという意味で理解していたのだが、今日の講演では、環境対策にかけたコストという意味で使われているが、使い分けについて教えていただきたい。
A2:(宮崎講師)現状では、環境コストとは、内部費用(企業で負担する部分のコスト、環境保護対策費)のことを指す。これに対し、外部費用の部分は、環境パフォーマンスという言葉で、実態数値として捉えられることが多い。したがって、企業が負担する内部費用については環境コスト、社会が負担する外部費用については環境パフォーマンスとして区別 していると考えている。

Q3:各企業のマネージメントの決定ということになると、やはりコストをかける場合にベネフィットがいくらかということが一番いわれる。これを明示するガイドラインについて、企業・投資家ともわかりやすい内容のものが、いつごろ出てくるのか、現在の研究の状況について教えて欲しい。
A3:(宮崎講師)環境報告書から環境会計を取り出して、他社と比較する場合、皆が異なる基準で環境コストを把握しているのでは問題がある。その場合は同じ基準が望ましいということはある。しかし環境会計を内部管理目的で使用する場合は、ガイドラインの必要性はあまり重要ではない。環境関連の投資があるとすると、それによるパフォーマンスの向上や、ベネフィットが存在し、そのベネフットの中には当然環境関連のものではないものが混ざっている。売上高の中から環境上の売り上げはいくらであるということを示すことは到底不可能であり、その場合はトータルの数値で、全体としてその商品の開発が成功したのか、失敗したのかという観点で判断するべきで、環境上の考慮はある程度定性的にどのような原因と結果 が存在したのか、その脈絡をつける事が大切。ガイドラインの必要性については外部管理と内部管理を分けて考えた方がよいのではないかと考えている。

(文責 事務局 児島 直樹)

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