今年2月23-25日、キューバ・ハバナにおいて上記IPCC専門家会合が開催された。その概要を報告する。
背景と概要
IPCC第三次評価報告書(TAR)では、以前の評価報告書と比較し、適応策を扱う第2作業部会(WG2)、緩和策を扱う第3作業部会(WG3)において、経済的、社会的、政治的問題に焦点があてられている。その中で持続可能な発展性・公平性(DES)の問題は極めてが重要な問題となっている。特にWG3第1章においては、報告書全体を貫く、気候変動問題を取り扱う際に不可欠な論点として位
置づけられている。またTARでは、専門用語・定義の統一を測ることを目的に8つの横断的な課題を予め取り決め、そのうちの4つについて指針書を作成しているが、このDES問題はそのうちの一つである。
これまで、スリランカにて昨年5月にDES専門家会合が開催されている。今回の会合は、DES問題のTARへの応用問題だけでなく、ラテンアメリカの地域的DES問題にも焦点が当てられた。参加は、WG2及び3のLAを含む、専門家総計約40人であり、日本からはIPCC谷口副議長及び筆者が参加した。
[ラテンアメリカの地域的問題]
ラテンアメリカの社会経済性と排出シナリオについて発表があった。次にラテンアメリカにおける気候変動の影響と適応策及び緩和策、それらと持続可能な発展性との関わり合いについて発表があった。最後に気候変動への脆弱性・適応能力と公平性から始まり、緩和策と公平性などラテンアメリカの地域問題を中心に議論が進んだ。
[WG2におけるDES問題]
気候変動の影響は、特に気候変動に脆弱な人、地域に起こりうる可能性が高い。これは貧困層が低い適応能力しか持たず、貧困層が多いところに高い危険性があるということである。DESがいかに気候変動に対する適応能力に影響するかが鍵となっており、資源・スキルのギャップなどの公平性や、将来の発展が果
たして将来の適応能力を意味するのかどうかといったことが議論となっている。適応能力とは気候変動による災害の損失を軽減・吸収する能力、という意味である。適応能力の拡張とは社会的インフラストラクチャーを充実させ、自然へのアクセスを容易にすることであり、持続可能性の基本的な部分と考えている。また、気候変動がDESにどう影響するかといった問題もある。さらに、気候変動政策を適用することで持続可能性が促進できるかどうかも考慮に入れなければならない。
[WG3におけるDES問題]
排出シナリオの特別報告書(SRES)の結果
、気候変動策よりも持続可能な発展のための政策が緩和策に与える影響が蛯ォいことが分かった。サ在のところ、SRESを基にした緩和策シナリオを扱うWG3第2章では、高い排出量
を示すベースラインシナリオ世界では、迅速な緩和が必要であること、また、濃度安定化のためには途上国で非常に大きな排出緩和が必要であることが分かっており、これらの結果
は、公平性、技術移転の重要性を示している。
[まとめ]
社会性、環境、経済性のバランスが重要であるという見解から、それぞれを表す指標について議論が進んだ。政策の意志決定とも関連しており、指標には整ったデータベースが必要であるが、科学の価値と政策の価値とのバランス・境界が困難な問題になる。仮に指標が明らかになったとしても、政策の意思決定にこれまでの手法的なものが十分適用できるのかどうかは、次の重要な問題となる。また、緩和能力と適応能力のトレードオフを検討すべきとの意見があった。
現象についてブレークダウンし議論をすべきとの指摘もあった。もっと局所モデルについても考えるべきであり、地域レベルのデータを地球規模の議論にあげることが重要である。
最後に、途上国にとって非常に重要であるCDMに向けたDES問題の取り扱いが必要だと意見があった。しかし、CDMは、CO2排出とコストは確かに削減できるが、現実には途上国の持続可能な発展性を向上させるものではないという指摘があった。
開会式ではキューバ政府からの挨拶があった。いささか環境問題を利用した政治キャンペーンのようであったが、強く温暖化問題へ取り組む姿勢が感じられた。会議や公開シンポジウムにおいては中南米からの参加者が多く、DES問題に対する同地域の関心の深さが窺えた。少々残念であったのは、前半の地域的議論が後半の「如何にTARにDESを応用するか」の議論に反映されていなかったことである。