1.グローバルガバナンスとグローバリゼーション(概念的考察)
グローバルガバナンスは、90年代に急速に用いられるようになった。その背景として「冷戦終了後の新たな国際秩序」、「経済グローバル化に伴う弊害への対処」、「環境・人権等グローバル性ある問題への対応」がある。
我が国経済のグローバル化は、貿易(輸入比率・海外生産比率等)、投資(対内外直接投資増等)、金融(株式市場での外国人シェアーの増大等)で著しい。このことにより、従来の産業構造・システムは変容を迫られ、デフレ・インパクトを受ける原因となっている。
2.国際金融におけるガバナンス
80年代の通貨危機を通して、国際金融はグローバルガバナンスの重要な領域と考えられ始めた。国際金融のガバナンスは、国際通
貨、銀行規制、証券規制の分野で進んでいる。国際通貨面では国際通貨関係の安定化を図る必要性ではIMF加盟国間で合意はあるものの、IMFの監視機能の具体策について見解は一致していない。
一方、米国は自国金融産業の繁栄のためにIMFを利用してきたのではないかという意味で、IMFのガバナンスには疑問があるという見方がある。85年のプラザ合意によって、日本は金融政策を為替レート調整に割り当てた結果
、バブル発生と崩壊というコストを支払った。97年のアジア経済危機においてIMFは、韓国に高金利政策を求め、企業は財務上の負担急増で、壊滅的な影響を受けた。98年のロシア危機の一因は90年代初めにIMFのショック療法で設立された金融機関にあった。
国際金融システムを安定化するためのポイントは第一に民間金融機関が過度のリスクをとらない、第二にIMFの役割をどの様に強化・再編するか、第三に通
貨システムのあり方である。また、国際金融システムのアーキテクチャーでは、第一に透明性とアカウンタビリティー、第二は国際標準に沿った慣行の国内導入、第三に金融部門強化に向けた官民施策、第四はモラルハザード回避のための民間部門関与、第五はCCL(予防的クレッジトライン)の設定である。
3.国際貿易のガバナンス
国際経済における近年の重要な環境変化は「企業活動のグローバル化」、「経済のサービス化」、「情報化」と「環境意識の高揚」等である。次期ラウンドの焦点は「交渉の枠組み」、「労働問題」、「アンチ・ダンピング」、「投資・競争等の新分野」、「実施上の問題」である。昨年12月に新ラウンドに向けたWTOシアトル閣僚会議は決裂したが、次期ラウンドの円滑な推進には、漸進的な取り組みが必要となろう。
4.国際協力におけるガバナンス
NGOのガバナンス機能は「地球益の提示」、「政府間交渉へのインプット」、「リンケージ機能」に集約される。NGOによるガバナンスは人権問題、環境問題での事例が多いと考えられがちだが、安全保障、開発、貿易・投資分野でも「規範の形成(地球益の提示)」過程に大きな影響を与えている。この事例として、「地雷禁止国際キャンペーン」や「債務帳消しキャンペーン」がある。
「グッドガバナンス」という考え方は、開発支援の前提としての国内政治(行政)体制の質の善し悪しを議論する。他方、「人間の安全保障」は、「人間開発」が前提となっている。「グッドガバナンス」及び「人間の安全保障」という概念は、国家ではなく個人に関する問題であり、従来は内政問題と考えられてきた。これが国際社会問題としてクローズアップされてきたのは、冷戦後の国際秩序づくり中で民主化や民主体制を促進しようとする国際的理念の広がりのためである。
政府開発援助は、国際情勢の変化に対応し目的を変化させてきた。90年代後半はグローバリゼーション対応を考慮しつつ、援助が行われている。96年にDACは新開発戦略を採択し、21世紀に向けた援助戦略を明らかにした。この中で注目すべきは、援助のベースとして「参加型で持続可能なバランスのとれた開発」という考え方である。このような中で、新開発戦略を成功させるための課題として、「自助努力型開発の支援」、「成果重視型の国別アプローチの採用」、「途上国支援の協調と競争」が挙げられる。
5.グローバリゼーションとグローバルガバナンスの再検討
国際金融、地球環境問題に関するガバナンスの問題は、安定を確保するための枠組みづくりの問題である。国際貿易では、ガバナンスには利害調整機能が期待される。ガバナンスへの参加主体からみると国際金融問題は国家主体で、ドルやユーロに象徴されるように大国中心である。小国やNGOが中心となる領域も存在する。地球環境問題や開発援助問題がその例となろう。主体の多様化は、従来と異なる国際関係のシステムを要求する。国際関係が主権国家関係であった時は、国際関係の基準作りはパワーの論理で調整されてきた。しかし、国家と企業、企業とNGO及び国家とNGOは如何なる論理で行われるべきか。これが、グローバルガバナンスという包括概念が必要とされる理由である。しかしながら、それは一方で、国際政治学の理論であるものの、他方では国際金融や貿易の実態でもあり、この区別
をしないまま議論すると混乱を招く。
(文責 事務局 増渕友則)