2000年8号

-第39回地球環境問題懇談会- IPCC特別報告書とFCCC補助機関会合に関するセミナー

 今年11月に行われるCOP6においては、京都議定書で非常に大きな課題となっている京都メカニズムや遵守、シンク問題に関する用語の定義や運用などに対する基本的なルールが決定されることになっている。COP6は京都議定書や温暖化防止への世界的な取り組みの今後の方向性を決める上で、非常に大きな意味を持っているといえる。
  温暖化対策は、特にCOP3以降、国の政策レベルだけではなく企業活動にも影響を与えつつあり、FCCCに関する国際交渉の動向やIPCCによる報告書に対しては多くの企業、NGOが高い関心を寄せている。このため、会員企業および一般 の方に関連する情報を提供することを目的に、7月19日、富国生命ビル(内幸町)28階大会議室において(財)地球環境戦略機関(IGES)と共催でセミナーを開催した。今回は、6月5日~16日にボンに於いて行われたFCCC第12回補助機関会合(6月5日~10日は非公式会合)の概要および、5月1日~8日にモントリオールに於いて行われた第16回IPCC総会で採択された特別 報告書の中から、特に “土地利用、土地利用の変化、林業(LULUCF)”、“排出シナリオ(SRES)”および“温室効果 ガス排出インベントリー”について交渉担当者、報告書執筆者の方々より講演をいただいた。

プログラム

司 会 西岡 秀三 IGES
・開会挨拶 松下 和夫 IGES副所長代行
・IPCCの活動の現状と展望 谷口 富裕 東京大学教授、IPCC副議長
・特別報告書LULUCF 天野 正博 森林総研資源計画科長
  山形与志樹 国環研研究管理官
・特別報告書排出シナリオ 森田 恒幸 国環研社会環境システム部長
  森  俊介 東京理科大教授
・第12回補助機関会合の要点<1> 関谷 毅史 環境庁温暖化国際対策推進室専門官
・GHGs排出インベントリー報告書 田辺 清人 IGES主任研究員、IPCCインベントリーTSU
・第12回補助機関会合の要点<2> 石海 行雄 GISPRI参与
-会場からの質問をもとに- 松尾 直樹 IGES/GISPRI上席研究員
  関谷 毅史 環境庁温暖化国際対策推進室専門官
・閉会挨拶 安本 皓信 GISPRI専務理事


--講演内容--

(1)IPCCの活動の現状と展望
谷口東大教授/IPCC副議長

 IPCCは科学的知見を集積する機関であり、客観的かつ中立な科学的解析を提供する。温暖化対策において重要なのは、ここで得られた知見に基づき、どのような政策的判断が行われるかであり、政治家や行政官およびその根底にある国民の理解や判断が問われているといえる。
 現在、IPCCにおいては第3次報告書が作成されている段階であるが、この報告書では第2次報告書までに行われていた科学的な評価だけでなく社会科学的手法も用いた統合的アプローチが試みられている。

(2)特別報告書LULUCF
天野森林総研科長、山形国環研研究官

 この特別報告書は、京都議定書に“吸収源”が入れられたことを受けて作成されたものである。本報告書には吸収源に対する複数の解釈オプションが掲載されており、これを基にCOP6に向けて議論が行われることになる。政策立案者向けサマリー(SPM)は、5月に行われた会合で1行ずつ検討がなされたが、この過程で、各国の政治的な思惑により相当な変更がされている。これは、京都議定書の目標達成の手段として各国が吸収源に対して大きな期待をしているために、政治的な交渉が入った形となったためである。そのため、SPMが政治的に中立なレポートであるかという点については疑問が残る。
 SPMでは京都議定書第3条3項で規定される新規植林、再植林、森林減少の定義およびアカウンティング方法の組み合わせによって4つのオプションを示している。定義については、主に土地利用の変化をベースにする方法(IPCC定義)と、土地の森林による被覆率によって定義する方法(FAO定義)が考えられるが、本報告書の中では、FAO定義が最も可能性が高いというトーンで議論がなされている。
 また、第3条4項の活動としてカウントされる可能性がある吸収源の管理に関する活動については、土地所有者の反応やベースラインの適用などによって大きく変動すると見られる。最大のポテンシャルを評価した場合には、現実的なシナリオの下での推定値と相当異なった数値になると試算されており、不確実性が非常に高いことに留意する必要がある。COP6での議論においては、吸収源が数値目標の達成に与える影響に対して配慮すると同時に、今後の陸域生態系への影響に対する視点が必要である。

(3)特別報告書排出シナリオ
森田 国環研部長、森 東京理科大教授

講演風景 (森田国環研部長)

 これまでの温暖化予測の多くはIPCCによって92年に作成された6つの排出シナリオのうちの1つ(IS92a)に基づいて行われてきた。これは、あくまでも“1つ”の社会の発展方向を描いたものである。今回は、2100年までを推計期間とする190のシナリオを分析し、多様な社会経済発展の仮定に基づく、非常に大きな幅を持ったシナリオを作成している。これらのシナリオは大きく4つのパターンに分けることができる(A1~B2,表参照)。これらは温暖化緩和のための対策を含まないシナリオである。
 このシナリオの持つ幅の大きさは人類の将来の発展方向が多様であり、これからの発展の方向によって温暖化の程度や対策の意味が大きく異なってくることを示唆している。これらのシナリオに基づいた詳細な戦略・政策の導出は、SRESでは検討されておらず、今後の課題となっている。

シナリオ A1 A2 B1 B2 IS92a
高成長社会 多元化社会 持続発展型社会 地域共存型社会
世界平均1人当り所得
(2050年)
US$20,000 US$7,000 US$13,000 US$12,000
人口 (2100年) 70億人 150億人 72億人 100億人 110億人
1次エネルギー需要 (2100年) 2100EJ/年 1600EJ/年 820EJ/年 1400EJ/年 1500EJ/年
化石燃料からの CO2排出量
(2100年)
130億t/年 300億t/年 60億t/年 140億t/年 200億t/年


(4)第12回補助機関会合の要点

関谷 環境庁専門官、石海 GISPRI参与、
松尾 IGES/GISPRI上席研究員  


講演風景 (石海GISPRI参与)

 SB12での主な論点は京都メカニズム、遵守、吸収源、気候変動による悪影響(産油国など)などである。特に京都メカニズムの議論においては、排出取引に国だけではなく法人も認めるのか、JIにもCDMと同様の細かいルールを適用するのか、CDMに吸収源や原子力発電PJを含めるのかといった点が議論された。吸収源については9月に行われる第13回補助機関会合に向け、8月1日までに各国から必要なデータおよび決定すべき事項についての意見を提出することになった。  SB12での結果からは、意見の対立点の整理は進んでいるものの、細かい論点が多数残っているため、どの点をCOP6までに合意し、どの点を後回しにするかといった判断が必要になると考えられる。COP6までの作業は吸収源が最も厳しいというのが現実的な感触である。

(5)GHGs排出インベントリー報告書
田辺 IGES主任研究員/IPCC TSU

 本報告書は各国の温室効果ガス排出目録の作成における良好手法(good practice)を提示、支援するものであり、温室効果ガス排出量の推計において可能な限り正確な数値を把握し、不確実性を減少させるためのものである。温室効果 ガスの排出源として、エネルギー、産業プロセス、農業、廃棄物をカバーしているが、現時点においてはLULUCFに関しては含まれていない。市場経済移行国以外の附属書・国は少なくとも03年以降に提出する目録には本報告書の指針を用いる必要があるとされている。今後、日本において国内制度が整備された場合、企業など民間においてもこのインベントリーを使用して温室効果 ガスの排出量を把握することも可能である。


(文責 纐纈三佳子)

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