2001年4号

就任ご挨拶

 この度(財)地球産業文化研究所専務理事に就任いたしました木村耕太郎です。通商産業省及び経済産業省におきまして様々な経験をしましたが、本財団と関係が深いものとしてはCOP4から昨秋のCOP6まで地球温暖化交渉に携った事が挙げられます。新たな意欲を以って財団の業務の発展に尽くしたいと存じます。前任の安本皓信氏同様、宜しくご指導ご鞭撻賜れば幸甚に存じます。

 本財団は地球的視点から地球産業文化に関する諸問題の研究に取り組むことをその任務としていますが、近年注目を集めている地球的課題としては、経済のグローバライゼーションの進展と如何に持続的発展を実現するかが挙げられると思います。経済のグローバライゼーションはGATT等の後押しもあって、これまでも徐々に進んで来ましたが、旧ソ連邦の崩壊に伴う冷戦の終結とインターネットに象徴されるIT革命の進展により爆発的に加速されるに至りました。モノ、ヒト、カネ、情報が国境を超えて絶え間無く行きかい、システム相互間の競争が続いており、現在はアメリカ型の効率を重視したシステムが優勢です。有限な資源の最適配分を実現するという観点からは望ましい事ですが、行き過ぎれば弱者切り捨ての副作用を伴い、これを補完する概念としての「社会的公平」とのバランスを如何に実現するかが問われています。英国においてサッチャー元首相に代表される効率重視主義から労働党政権への移行及び先般の労働党の圧勝はこの問題を考える上で示唆に富んでいると思われます。奇跡とも言われた戦後の経済復興を成し遂げた日本型システムもかつては効率的に機能し、社会的公平の実現に寄与してきましたが、戦後50年を経て制度疲労に陥り全面的な改革が求められています。特に資源を有しない我が国にとって必須のインフラストラクチャーである教育制度の改革は、そのリードタイム及び影響の時間的広がりをも考えれば、十分な深慮が必要であると思います。

 持続的発展の実現は、もう一つの地球的課題であり、その実現には資源の効率的利用や環境への負荷の制限等が必要ですが、いずれにせよ経済活動は今や環境への配慮無しには成り立たなくなっています。この事は同時に特に先進国において新しい環境ビジネスを生み出し経済を成長させるというプラスの側面も有しています。しかしながら発展途上国の現実は厳しく、ベトナム政府とのグリーンエイドプラン政策対話の際に訪問したハノイのメッキ工場の汚水処理の実態を見て、環境問題と経済問題は一つのコインの両面であるという感を強くしました。中国やタイにおける改善は経済発展の賜物であり、やや牽強付会ではありますが「衣食足りて礼節を知る。」という格言は環境問題にも当てはまると思います。地球温暖化問題は、主として通常の経済活動や日常生活の副産物である二酸化炭素により惹起され、その影響が局所に止まらず地球全体に及ぶという意味で新しいタイプの環境問題です。途上国も排出者であり、経済成長に伴い将来は先進国を上回る排出が予想されるという点で先進国と利害が対立する問題でもあります。国際社会はこの問題のとりあえずの対策として気候変動枠組条約と京都議定書を用意しました。京都議定書は削減目標のみを定めその実現の手段である京都メカニズム等の細目はすべてその後の交渉に委ねていますが、締約国の様々な思惑、膨大な作業量等から交渉は難航し、米国ブッシュ政権の京都議定書からの離脱声明もあって今後の展開は予断を許しません。しかしながら京都議定書には極めて抽象的ながらも排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズム等今後の解決策の萌芽が含まれている事は否定出来ないと思います。

 こうした状況下にあって、叡智を集め政策提言を行うという本財団の使命も益々重要になるものと存じます。一層のご協力をお願い申し上げます。

 

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