2001年5号

IPCC 「気候変化と持続可能な発展」 に関する 特別報告書のスコーピング会合出席報告

IPCC気候変化と持続可能な発展に関する特別報告書(SRCCSD:Special Report on Climate Change and Sustainable Development)の提案書作成のためのスコーピング会合が、2001年6月25-26日、ワシントン、世界銀行ビル会議室にて開催された。

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本年4月ケニア・ナイロビにて開催されたIPCC全体会合において、本報告書の提案がスリランカによりなされており、重要な問題であると認識され作成には賛成多数であったが、政治的になる可能性があること、財源の問題、IPCCで執り行うことの意義(気候変化との関連)、など明確にすべき点が多かった。そのため、同年9月のロンドン全体会合までに提案書を作成し、全体会合にて審議すべく、専門家・一部のビューローによる本会合を開催することになったのである。会合では、Audience(報告書の対象), Objective(目的), Structure(構造)について議論された。全体の参加者は、50名ほどで、IPCC関係者、報告書執筆者、各国NGOなどから構成された。日本からは、国立環境研究所森田氏、GISPRI田中が参加した。

このテーマは、発展途上国と先進国の温暖化対策に関する共通認識を形成する上で不可欠の検討事項であり、第3次評価報告書から持ち越された最も重要な課題の一つである。
本報告書に対する途上国の取組の意気込みは強い。その背景には、IPCCの実質的な評価プロセスで先進国の専門家に常にリーダーシップをとられている途上国のフラストレーションと、米国を始めとしてこの問題の議論を避けようとする勢力への途上国の反発がある。これに対して、米国を始めとする先進国には、温暖化の問題から途上国への援助問題へと変わっていく事への警戒感がある。このため、発展途上国の持続可能な発展が中心課題としながら、そう言い切ると米国の反発を招くため、「途上国と先進国両方の持続可能な発展を議論する」報告書という中途半端な性格付けになった。
本報告書を通じて、持続可能な発展に関する理論的・概念的・哲学的議論は、益々深まりそうである。しかし、どのようにそれら議論を個々の事象やケーススタディに適応し、一貫した議論ができるのか疑問である。横断的な課題や評価軸は、複数の著者が個別に、同時に執筆を行う形態では、なかなか足並みが揃わないものである。過去の報告書作成でも整合性がとれず深刻な問題であった。また、ケーススタディなど具体化すればするほど、思想の違い、理解のずれの幅が顕在化するであろう。これら点について、今回の出席者には特に具体的に妙案はなく、ただ、執筆時に徹底させればよい、と無関心無責任な反応であった。
さらに、最後の章では前章までの内容に基づき、このテーマに関する政策への含意を述べるのことになっている。これも、上述の途上国と先進国の対立、まとめに至るまでのメッセージの不明確さにより非常に困難になることが予想される。
様々な懸念が残るが、持続可能な発展と温暖化対策の関わりにおいて、「技術」に期待される役割はきわめて大きく、この意味から日本の専門家の貢献が重要であるといえよう。IPCCに参加する発展途上国の専門家は日本に対して< 大変に良いイメージを持っているとのことであり、この特別報告書で日本の活躍は大いに期待される。
(田中加奈子)

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