京都議定書は、排出枠を財の1種とみなし、経済原理を利用しながら効率よく温室効果ガスの削減を行うという考え方を1部に取り入れている(京都メカニズム)。京都メカニズムの運用ルールは、2001年11月にマラケシュ(モロッコ)で行われたCOP7で合意されたばかりであり、排出枠を取引する制度や、排出枠そのものに関する税や会計の整備は、今後取り組んでいくべき課題である。 現在、既に1部の企業により、自主的に排出枠ならびにその関連商品の取引が行われているが、排出枠の会計処理は、取引主体の判断により、“有価証券”、“繰延資産”など様々な形で処理されているのが現状である。 しかし、今後、排出枠の取引が増加するに従い、また規制等がかけられた場合には、排出枠の財としての価値も大きくなっていくと予想され、排出枠をいかに企業のバランスシートに載せていくかによって、企業経営は大きな影響を受ける可能性がある。 本シンポジウムは、このような問題意識の下、昨年度より行われている“排出削減における会計および認定問題研究委員会”の成果を成果を知っていただくと共に、問題を提起することを目的に行われた。当日は、合わせて、温暖化防止に関する国際交渉および、現在行われている排出枠取引の最新の情報も各界の専門家よりご講演をいただいた。
各ご講演の概要ヘ以下の通りである。 (1)京都メカニズムに関連する国際交渉の動向と今後
本合意においては、京都メカニズムに対しては、参加資格、クレジットの互換性や補足性などにおいて厳しい制約が課せられないこととなった、吸収源に対しては、日本の主張していた3.7%を確保することができた、といったことが決められた。また、遵守については、法的拘束力の判断はCOP/MOPに先延ばしとし、不遵守時の措置としては、超過排出量の1.3倍を次期割当より控除、および、遵守計画の作成などを行うことが決められた。 この結果を受けて、わが国においても、次期通常国会に向けて、議定書の締結とそれに必要な国内制度に関する準備が行われつつある。また、今後、登録簿の整備やCDMを促進するため、事業リスクの軽減策の検討などを早急に行う必要がある。 (2)GHG排出量取引の現状と今後の展開
現在、英国をはじめ、デンマークなどが排出量取引制度を取り入れつつある。また、EUも域内のエネルギー多消費産業を対象に、2005年より試行的にCap & Trade型の排出枠取引制度を導入することを検討している。欧米は、あらゆる動きからビジネスチャンスを見つけ出し、早期に取り組むことで自分たちのスタンダードやガイドラインを世界標準としてきている。日本も、こういった動きに遅れることなく、自らが世界標準を作るべく取り組んでいかなければならない。 (3)会計学における温室効果ガス排出枠の基本的考え方
排出枠は、同量を得ることができても、それを用いて得られる利潤の大きさが事業体ごとに異なると考えられる。これは、排出枠が実物資産の性質を持っていることを示しており、無形の資産ということができる。国際会計基準においては、漁業免許、輸入割当額(量)等が無形資産の例として挙げられており、これらは排出枠に類似するものと考えられよう。 派生製品の処理については、先渡し取引であれば約定基準で処理を行うことで、契約時にバランスシートに載せることができる。(狭義の)先物取引の場合には、コモディティであっても差金決済によって取引されるものは、金融商品に係る会計基準に従って処理することとなっており、これに準じた処理が行われるのが妥当であろう。 しかし、ここで、将来の排出枠取得の契約時点で“停止条件付きの排出枠”が移転したという解釈をすることができるのではないか。このように考えることで、契約時点において排出枠の譲渡が成立したと見なすことができ、バランスシートに載せることができると考えられる。 (4)企業会計における温室効果ガスの取り扱い
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