2002年3号
ボーム教授講演会開催報告
1.講演者
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Peter Bohm教授 (ストックホルム大学 経済学部教授) |
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専門は環境経済学、京都メカニズムの中でも排出権取引の制度設計を研究。IPCCやCOPにおいても政策提言を行う。 |
2.テーマ
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地球温暖化対策の今後(逐次通訳) |
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How can the next step in climate-change policy be cost-effective? |
3.日 時
4.場 所
5.講演内容
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昨年11月のモロッコ・マラケシュでのCOP7において京都議定書の運用ルールが決定し、すでに京都議定書からの離脱を表明している米国をのぞく各附属書
I 締約国は批准に向けた国内制度の議論を実施している。一方、2008年から2012年の第一約束期間に続く2013年からの第二約束期間についての議論は2005年までに開始されることになっており、今後の温暖化対策をどのようにするか検討する必要性も高まっている。そこでボーム教授には「after
Kyoto」を一つのキーワードに、費用効率性の高い温暖化対策についてのご講演を頂いた。 |
◆京都議定書が発効すれば、次の段階は第二約束期間の議定書をどのようにするかということである。いかにして費用効率性の高いものにするか、そして費用効率性の高いものにするためにより多くの国の参加を可能にするかが主要な問題である。ここで言う、「cost-effectiveness」とは、国際的な温室効果ガス(GHG)総排出削減目標量に対する社会的費用を最小化すること、あるいは与えられた費用で最大の削減量を得ることを意味する。国際排出権取引は「最も」効率性の良い仕組みとは言えないが、いくつかの理由により排出削減に有効な政策手段の一つである。
◆米国は国際交渉の早い段階から費用効率性の高い排出権取引を主張していた。しかし、排出権という新しい商品の自由取引に制限を課すいわゆる「補足性」の問題や、途上国に割当量を付与し国際排出権取引を行うという提案が採用されないなどの理由により、米国の議定書離脱は1998年時点で明確であると指摘するものもいた。他の諸国と比較して米国は排出削減に対して具体的な対策を実施してこなかったため、排出量は2000年には1990年比で15%の上昇し、2010年には京都議定書の目標が7%マイナスであるのに対し30%上昇ということになると予想される。新政策の具体的な効果はわからないが、1990年から2000年の間何もせずに今回の目標と同じ18%の効率化があった。今後米国は2000年から2010年あるいは2012年まで何もしないということ。もしこの状態が続けば、第二約束期間はおろか第三約束期間にも参加の用意ができていないだろう。
◆スウェーデンは、1990年の一人あたりの排出量は米国の1/2。1990年には、産業部門 50 US$(t-C)、非産業部門 160 US$(t-C)という高率の炭素税をかけた。1990年から2000年まで米国の排出量が15%伸びている一方で、炭素税の効果によりスウェーデンの排出量は横這いだった。スウェーデンは、いわゆるEUバブルで1990年比2012年にプラス8%の排出を許されているが、つい2週間ほど前に議会は2012年で4%削減を国内対策で達成するというさらに厳しい目標をたてた。発電量の半分を占める原子力発電を全廃するスケジュールになっているスウェーデンにとっては、非常に高い限界削減費用に直面することになる。「他の先例となるような厳しい目標を受け入れる」というスウェーデンの振る舞いは決して効率的であるとはいえず、米国の政策と対照的な事例といえる。
【国際排出権取引について】
国際排出権取引をどのように進めていくべきか5つの論点がある。 |
◆ 株式市場のような取引所の設置 |
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・ 影響力をもつ強国の市場支配による非効率性を排除
・二国間の相対取引よりも取引価格の透明性が向上 |
◆ 発展途上国の国際排出権取引への参加 |
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・発展途上国に排出削減の低コストオプションの提供
・カーボンリーケージの防止
・不確実性の高いCDMを廃止可 |
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◆ CDMの段階的な廃止 |
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・京都メカニズムの中で最も非効率的
・発展途上国にとっては過大評価されたベースラインにより利益を得る可能性はあるが、
確実なベースラインは設定できない |
◆ 約束期間リザーブの撤廃 |
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・約束期間リザーブの撤廃
・約束期間リザーブは「売り手」を直撃する
・本来問題なのは「削減目標の不遵守」であり、それは議定書で制裁措置を課している |
◆ 制限されたボローイングの導入 |
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・削減目標の不遵守時の措置は一種のボローイングだが、排出権を売ることができない
という意味でこれも「売り手」に打撃を与える
・制限された形で、金利を課すようなボローイングは費用効率性を高める |
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◆ |
グランドファザリング(排出権の無償割り当て)とオークションの相違点は、富の移転が前者では企業に、後者では政府に対して行われるという点のみで、企業の排出削減のインセンティブや、限界削減費用、排出権の価格は同じになる。 |
◆ |
米国でグランドファザリングが選択されているのは、費用効率性が高いからというわけではなく、これ以上政府にお金を支払わないという政治的な判断による。 |
◆ |
排出権の割当方法については、取引コストの点からいえば、燃料輸入業者などの上流に割当するのが効率的。グランドファザリング上流割当の場合は、富の移転が一部の企業に対してのみ行われるということで、政治的に受け入れにくいので、グランドファザリングと上流割当の組み合わせは難しい。 |
◆ |
オークションによる国際競争力の低下へ懸念は幻想に過ぎない。国内・国際価格に影響するのは限界削減費用であり、富の配分の差ではない。前述したようにグランドファザリングとオークションでは富の配分の相違はあるが限界削減費用は同じである。 |
◆ |
グランドファザリングの効率性のについては、(1) 投資の非効率性 (2) 新規参入の障害 (3) 非効率企業の存続の問題がある。排出権を無償で付与される企業と、排出権を購入する場合では資本コストに差が生じる。無償割当によって資本コスト同様、富の面でも差が新規参入者の障害になる。新参入者は既存業者よりも効率的である必要に迫られ生産性向上に影響する。排出権を無償で受け取ることのみで事業を維持するような非効率な企業が生じる。
※無償で排出権を付与する代わりに、排出権のオークションによる政府収入を租税のゆがみの修正に活用することで効率性を高めることができる |
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