2002年3号

GLOBE2002(CSR)会合出席と米国NPO訪問報告

 サスティナブルなグローバル社会の形成に、企業の社会的責任(CSR)はより重要になりつつある。企業はCSRをどのように考え経営に反映させようとしているのか、また、NPOはその企業行動をどのように評価しているのか、企業のサスティナビリティへの関わりを議論する国際会議GLOBE2002のCSR会合への出席及び米国の二つのNPO機関との面談の機会が与えられたので、概要を紹介する。


1.GLOBE2002「企業のサスティナビリティと社会的責任」会合
 経済のグローバル化が一層の進展を見せる一方で、もはや経済効率のみを追求する企業行動は社会的に受容されないとの認識がひろまりつつある。「CSRは Why ? からHow ? の局面に入った」(基調講演)というメッセージが会合参加企業の平均的意識を表しているようだ。
 セッションは企業、行政、大学などからのプレゼンテーションとフロア参加者とのQ&Aで進められた。
 企業の社会的責任への取組みの必要性認識が漸く根付きはじめ、企業は、業績とどのようにバランスさせるのか、如何なるマネジメント手法がそれを満たすのか、といった点に関心を寄せている。一方、持続的発展に必要とはいえ、収益性を損なうものであるならば企業セクター全体が受け入れるのは難しく、特に中小企業には負担が大きすぎる、との指摘もある。また、CSRの一層の普及には、客観的な評価尺度の設定が必要だとする複数の意見、いずれのステークホルダーとも緊密なコミュニケーションが責任行動の円滑な実施に欠かせないとする体験報告があった。
 サスティナビリティ報告(GRI)については、報告提出を投資対象要件に加える法制化の機運(英米仏独始め計8ケ国)が報告されたが、全体に報告書提出を実施する企業数が少なく、相対比較が難しい上、内容自体その公正性をどのように確保すべきか、大きな課題である。中小企業にとってGRIに沿った報告作成はデータ収集の負担が大き過ぎ大企業と同レベルの対応は難しい、との擁護論も聞かれた。
 既存の財務報告システムは、今後国際的基準の導入と信頼度向上が課題で、将来はアニュアルリポートとサスティナビリティリポートの統合が望ましい旨を表現は異なるが複数の発表者が唱えていた。


2.コープアメリカ(CA)との面談

CA本部が入るビル全景
 ワシントンDCのビジネス街のビルのワンフロアーがCAの本部である。全米社会投資フォーラム(SIF)の窓口でもある受付けで来意を告げ、ほどなく応対に出てくれたのが若きマネージングディレクター、T.ラーセン氏であった。
 さっそく、インタビューに入り、CAの活動近況説明を受ける。
 CAは、米国の社会的な或いは環境の問題に関して、市民・企業の教育・啓発をミッションとするNPOで、米国でのNPOカテゴリー501C3登録している。 
 啓発材料として各種定期刊行物及び研究報告書を出版している。
 会員数は個人;5.5万人,企業;2,000社で漸増傾向にある。
 社会的責任/環境配慮型中小企業支援のため、認定企業を「ナショナルグリーンページ」というディレクトリーに掲載し会員宛に配付するグリーンビジネスプログラムをはじめ、グリーン商品購入の啓発プログラム/研修を実施する消費者教育プログラム、"Boycott Action News" で、企業のボイコット情報,無責任企業に対する株主の議決権行使情報等を提供する企業の社会責任プログラムほかを実施している。
 いまでこそ、グリーン企業のディレクトリーは日本でも見かけることができるようになったが、このナショナルグリーンページはそれらの草分けともいえる。掲載希望する企業は、CAのアンケートに答え、CA理事会が加盟可否判断する。グリーン企業としての具体的な認定基準は、職場でのビジネスビヘイビヤ,経営方針,従業員の待遇,事業上の環境配慮・人権配慮など各分野に仕分けられた細目である。
 ラーセン氏の関わった最近の研究「雑誌分野の環境インパクト」研究は、紙220万トンを消費する米国雑誌事業に着目、再利用率の改善,適正規模製本のためのデータ採取の勧奨,ノンパルプ製紙材料の導入などを提案している。
 1時間をこえるインタビューでの的確な回答に謝意を表し、ラーセン氏との面談を終えた。


3.投資家責任研究センター(IRRC)訪問

テイラー主幹研究員(左)とシーヒイ部長
 やはりワシントンDCのデュポンサークルそばの新しいビルにオフィスを構えるIRRCに株主サービス部門主幹研究員テイラー氏を訪ね、企業ベンチマーク部門のシーヒィ部長ほか、2名のスタッフを交え、2時間にわたり、IRRCの活動概要について説明を受けた。
 IRRCはコーポレートガバナンスと企業責任及び株主代理決議投票に関する研究を行うNPOとして出発、現在、80人の研究スタッフが機関投資家,企業,法律事務所等約500のクライアントへの情報提供と関連研究に携わっている。
 事業内容は、企業評価そのものではなく、企業評価のための参考データの提供で、中立姿勢を基本スタンスとする。公開資料,メディア情報,企業面談に基づき、役員構成の多様性,環境,雇用の公正性,武器製造,人権,労使関係等着目事項について会員に情報提供している。
 S&P500企業を対象とした "Corporate Environment Profile" の「見本」として米国石油精製企業E社の環境プロファイル(全33ページ)では、毒性廃棄物の回収、毒性化学物質の取扱い量、科学物質・油の漏洩量等の政府データとE社作成のGRI、そして各種メディア情報等が実にこと細かく所収されている。
 一方、01年には日本企業環境ベンチマーキング英語版を制作、頒価約400ドルで、これまで約1000部を米国内で販売した。「見本」としての機械工業部門のD社についての環境調査報告(全7ページ)には、D社の環境リポートに管理方針,資源・エネルギーの取扱い,コンプライアンスや訴訟問題,環境会計,環境プログラムなどの各項目に総計50の小項目を設け、如何なる項目が記述され、如何なる項目が記述されていないか、克明に記載されている。
 日本企業の社会志向性に関する米国での関心の高さとしての1,000部という数字の意味を推量することは難しいが、海外機関投資家の日本の株式市場での影響力を考えるなら、日本企業が環境,社会的責任等経営戦略として明確に盛り込む姿勢が求められることになると予測される。

(文責:竹林忠夫)

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