2002年4号
SB16参加報告
2002年6月5日から14日にかけて国連気候変動枠組条約の第16回補助機関会合(SB16)が条約事務局のあるドイツ・ボンのマリティムホテルで開催された。京都議定書の運用ルール採択はCOP7でほぼ終了し、今会合の焦点は議定書の実施に関する手続上・技術上の問題が中心となっており、オブザーバー・メディアも含めた参加者は1,000名強と、「ボン合意」が採択されたCOP6再開会合では立ち見も出た大会議場の傍聴席は人影もまばらでややさびしい会合となった。会場に設置されたテレビの前で、遠くアジアで開催されているサッカーワールドカップの試合に喚声をあげる参加者の熱気とは対照的だった。今回の会合のおもなトピックの交渉経過および結果概略を報告する。
会場に設置されたテレビでワールドカップを観戦する参加者 |
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SB16直前に手続を済ませた日本を含めて74カ国が議定書を批准したことが、新しく事務局長に就任したJoke Waller-Hunter氏から発表された。この結果、議定書発効の要件のひとつは満たされたわけだが、もうひとつの「1990年先進国CO2排出量全体の55%以上の国の批准」という要件を満たす鍵を握るロシアは、今年中に国内検討を完了させられるようにしたいと述べたものの、参加者の多くが注目する批准の明確な時期の言及は避けた。これにより、ひとつの目安とされた今年の9月南アフリカ・ヨハネスブルグで開催される地球サミットまでの議定書発効は難しい状況になった。
全体的にスムーズな議事進行が行われる中、テキスト採択が難航したのはSBにおけるIPCC第3次評価報告書(TAR)の活用方法に関する議論だった。温暖化の「緩和」という文言が結論書や決議案に入ることが将来の削減義務につながることを懸念して、途上国側による議論の妨害に近いようなやり取りが深夜まで続けられた。最終的には最終日に合意が成立し、TARを今後の議題の参考資料として利用すること、毎回SBにて研究と観測、気候変動の影響と適応、また脆弱性、緩和について検討していくことなどが決定された。
米国の議定書離脱により経済的な打撃を少しでも緩和する方法として「よりクリーンなエネルギーの輸出」を第1約束期間に排出削減クレジットとして認めるよう求めたカナダ提案に対して参加者の注目が集まった。州政府の独立性が強いカナダにおいて議定書批准の手続は困難を極めており、少なくともこの提案をそういった抵抗勢力の説得に使いたい思惑は、そもそも「提案」として取り上げるべきではないという点で途上国やEUの強烈な反発に合ったものの、この議論が最終的にCOP8に持ち越しになったことでもう少し生き延びることができた。
COP7で保留されていた議定書7条1項および7条2項に基づく補足情報の報告、8条に基づく各ユニットおよび登録簿に関するレビューおよびメカニズム使用資格の回復手続方法のガイドラインについては、メカニズム使用資格回復手続のレビュー期間の延長を求める途上国の提案によりタイミングの問題にいくつかのオプションが残された決議草案がSB17およびCOP8でおくられたほか、「COP9で決定される予定のCDMシンクの定義がCOP8で決定される予定の7条8条ガイドラインに影響がある場合は考慮する」というブラジル提案が付け加えられ採択された。ガイドラインの保留箇所について締約国の意見に基づきSB17でさらに協議が続けられる。また、SBに先立つ6月2日/3日に開催された議定書7条4項における登録簿規格および各国の登録簿作成状況に関する情報交換のワークショップの報告が行われた。今後はシステムの専門家などを交えた協議が行われることが予想され、登録簿規格についてのドラフトペーパーがSB17までに用意される。
先進国に求められている2005年までの「実証可能な進展」についての報告については、条約の国別報告のガイドラインおよび7条ガイドラインに従って実施され、COP7決定に即したあらゆる妥当な貢献を含めること、報告は第4回国別報告に矛盾がないものであること、提出された報告は事務局によって編集され2006年の最初のSBで検討されることに最終的に合意した。この文書は決定草案としてCOP8で協議される。
COP9までに決定される第1約束期間におけるCDMの植林・森林再生プロジェクトの定義と様式については、今回委任事項とアジェンダは合意されものの、定義についてはG77+Chinaの提案と日本も賛成したカナダ提案との間で合意が得られず、結局SB17にて定義と様式について引き続き議論を続けることで合意した。
SBSTA全体会合 |
全体的な所感として、ロシアの批准状況により議定書の地球サミット前の発効が困難になったこと加えて、同時期にインドネシアで開催されていた地球サミットの最後の準備会合で焦点が温暖化から貧困問題にシフトしていることもあり、本格的は議論の多くが10月インドでのCOP8に持ち越しにされ、今回の会合が場つなぎ的であった印象は否めなかった。
(文責:高橋 浩之)
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