2002年5号

WSSD参加見聞記 -ソウェト地区視察-

 2週間に及ぶWSSDプログラム終盤の9月3日、ナズレック近郊のソウェト視察を行った。

 一行は、カナダ,オーストラリア,アルジェリア,ジンバブエほか各国のNGOや自治体関係者ら14名でマイクロバスにて訪問した。1994年の黒人隔離政策廃絶まで黒人居住区に定められていたこの地区は、粗末な住居、電気・水道も整備されぬアパルトヘイト政策のシンボルとして名を知られていた。90年代初頭からNGOがこの地区に入り、住民の生活向上の支援活動が始まった。


 視察の第1プログラムではこうした活動で徐々に地域の改善が進みつつあるソモホ(SoMoHo ; Soweto Mountain of Hope の略称)プロジェクトの実施地区を訪問した。

 主に英国高等委員会南ア支部からのファンドで活動する"World Voices"というNGOが、この地区に拠点を設け、それまで地元民がゴミ捨て場としていた丘(後にソウェト希望の丘と命名)から回収した空き瓶と木切れ、そして紙を若干の砂と混ぜることにより、簡易住宅を作ってみせ、住民の住居づくりを促した。以降、地区は自力で住宅整備を進め、現在は一帯、豪華ではないが簡素で清潔感ある住宅が並ぶこととなった。歩道と車道に分けられた鋪装道路にはゴミもなく、一行はマイクロバスを降りてさほどのも緊張感なく車から降り、地区を徒歩で巡回した。プロジェクトはさらに地元児童への絵画・音楽などの教育活動と、若年層を対象に洗車業,手作り工芸品創作などの雇用創出を進めており、昔のゴミの丘は山頂にテントづくりのコミュニティセンターを設営、地区の整備・発展のシンボルともなっている。

 住民の表情は一様に明るく朗らかな様子で、訪問前に抱いていたイメージとは懸け離れたものであった。

ソモホの丘へ徒歩で向かう.頂上テントは展示センター

ゴミ山からの材料の利用をアピールするデモンストレーションハウス
紙,砂を混ぜて固めた壁,空き瓶を並べた明かり採りなどなど

有料洗車場(バケツ1杯の水を使って若者が洗車サービスを行う)

ソモホの丘の裾に作った菜園

丘の頂きから望む住宅地域

廃タイヤを利用した椅子を配置した集会場

ソモホ山頂の展示センターには小学生を対象にした 教育プログラムのための教材,作品などが展示されている

ソモホ山頂の展示センターには小学生を対象にした 教育プログラムのための教材,作品などが展示されている


 次に第2のブログラムとして、クリップタウン地区を訪問した。

 1903年に開かれたヨハネスブルグ最古の街区はマンデラ氏、ツツ司教という2名のノーベル平和賞受賞者を輩出したことでも知られる。

 1997年に地区の役員と行政部門とで作るクリップタウン地域開発フォーラムが発足、この地区の歴史的資産の保存と歴史地区としての整備・開発を市に働きかけ、日本円で約50億円かけ鉄道駅改築、タクシー専用駐車場新設、住宅新設(すでに日本の長屋形式の集合家屋建設が一部で進んでいる)、川の清掃、レクレーション設備設置等を進めることとなったという。

 一行は、はじめにコミニティセンターで地区の現況と今後の開発計画の説明を受けた後、地区の広報担当の青年とともにマイクロバスに乗り込み写真撮影の可否をガイドに確認するように、との注意を受けて住宅地区と商業地区の巡回に入った。

 一般住居は2~4坪程の粗末な平屋建ての小屋がビッシリと並ぶ。上水道は共同炊事場、生活排水は道路へ放流、トイレはモバイルユニット1基を8世帯で共用している。ソホモ地区の比較的整った住環境の記憶と印象を残しながらこの地区を訪れるとそのギャップを強く実感する。

 商業地域は食糧,衣料などがバラックづくりの店先に陳列され、さほど広くない通りで人車の往来には活気を感じる。篭に入った鶏が売られていた。聞けばこれは食用で1羽15ランド(日本円で約160円)程度という。日用産品についていえば総じて日本の物価の2分の1から3分の1程度との印象だが、食糧品についてはさらに価格水準はこれを下回り十分な供給状況にあるようだ。約1時間の巡回の後、コミュニティセンターへ戻ってきた。ふと気がつけばマイクロバスは後ろに3台のパトカーを従えていた。確かめたところ我々の巡回を護衛していたとの説明、一同期せずして顔を見合わせた。

平屋のバラックが密集するクリップタウン居住地区

浄化が進み見た目にはさほどの汚れもないクリップ川だが・・・

川端には「泳ぐべからず、飲むべからず、洗濯禁止」の立て札

かやで編んだ手提げや敷物を作る技術習得で収入源を増やす試みが進められている(クリップタウンコミュニティセンターにて)

長屋風の集合住宅の建設も進められている


 この地域のインフラ整備が進めば、それに従って治安状況も改善されるものと予想されるが、ハードインフラとともに、市民教育とコミュニティとしての新しい秩序つくりといったソフトインフラ整備を併行して進めることが地区の発展を確かなものとするに違いない。

 ソウェトの2地区を半日がかりで視察したのち、再びナズレック・エキスポセンターに戻った。参加メンバーは一様にある種の感慨を抱きつつ互いに別れを告げ4時間にわたる視察を終えた。

(文責 竹林忠夫)

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