2003年4号
UNFCCC-SB18会合出席報告(2) - CDMの本格始動にむけて・第9回CDM理事会会合 -
約2週間に渡って開催された気候変動枠組み条約(UNFCCC)第18回会合(SB18)のちょうど谷間に開催された第9回CDM理事会会合(2003年6月7~8日、ボン・ドイツ)は、CDMプロジェクト活動の根幹をなす、ベースライン及びモニタリング計画の設定に関する具体的な方法論の評価を初めて行った会合として注目を集めた。週末に会議が行われたのにもかかわらず、事前登録を行った者しか入れないオブザーバー室には多くの関係者が詰めかけ、理事会メンバーによる方法論評価の行く末を辛抱強く見守っていた。
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CDM理事会によるQ&Aセッション風景(マリティム・ホテル) |
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CDMプロジェクト活動がなかった場合のベースライン予測や、プロジェクト実施後の温室効果ガスのモニタリング計画は、そのプロジェクト活動によるクレジット獲得量を決める非常に重要な要素である。もともとは、このベースライン及びモニタリング計画のオプションをCDM理事会内に設置されている方法論パネル(Methパネル)が事前に提示する予定であったが、現実には提案されるプロジェクトの数だけ違う方法論が考えられ得るため、当面はプロジェクト参加者が自ら方法論を、
指定運営機関i
を通してMethパネルに提案し、そのやり方が適切であるとMethパネル及びCDM理事会を説得できれば、その方法論を利用してプロジェクトを行って良いこととなっている。このボトムアップ・アプローチは、CDMプロジェクト活動の審査を行うことがビジネスそのものであるAEにとって、プロジェクト参加者にある意味その手腕をアピール出来る良い機会でもあるため、彼らは新しい方法論の申請に殊更熱心であった。
方法論の評価は2段階で行われた。第1段階では、申請された新方法論はMethパネルメンバー2名にアルファベット順に割り当てられ、その2名がさまざまなコメント等をとりまとめ、CDM理事会への推薦状を作成する。評価は、A(承認又はMethパネルによる簡単な変更にて承認できるもの)、B(プロジェクト参加者がPDDのAnnex3を書き直すことによって承認できる可能性のあるもの。パネルによる提言が提出されるまでに新たなデスクレビューは不要。)又はC(根本的に認められないもの。PDDのAnnex3を書き直すことで再提出は可能だが全く新しい方法論として提出する必要あり。)の3段階で行われる。Methパネルの推薦状を受け、第2段階ではCDM理事会がその新方法論について再び検討を行い、最終的にMethパネルでの評価基準と同じくA、B、ないしCで最終判断を下す。この場合、MethパネルとCDM理事会の評価が異なる場合もありうるが、Methパネルの評価はあくまでもCDM理事会に対する推薦であり、最終的な「お墨付き」はCDM理事会の評価にかかっている。
第9回CDM理事会で検討されたのは、
申請された15件ii中14件であり(残り一件は資料が揃っていなかったため未検討)、日本からは三菱証券が参加しているAT
Biopower Rice Husk Power Project in Thailand(3件)及びINEOSが参加しているHFC Decomposition
Project in Ulsanの計4件が検討された。CDM理事会での評価の結果、承認されたものは一つもなく、6件が若干の修正(B)を、残りの8件が根本的な書き直し(C)を言い渡された。特にCと評価された方法論の多くは、プロジェクト活動がどのようにベースライン・シナリオに追加的であるかを十分に正当化できていないことに大きな問題があった。しかし、今回は方法論の評価を行うこと自体が初めてであり、評価の首尾一貫性やプロジェクト参加者に対する説明不足及び不明瞭さ等、MethパネルやCDM理事会側の不備が問われる場面も多くあり、評価のための更なるガイダンスの必要性が浮き彫りにされた。なお、14件の方法論の中でも一番承認に近かったのはUlsanでのプロジェクトの方法論で、Methパネルはベースラインについては合格と判断し、モニタリング計画については若干の修正が必要だと判断した。しかし、CDM理事会にてベースラインとモニタリング計画の方法論をセットとして検討することとしたため承認には及ばなかったという経緯がある。
今後、Bと評価された6件の方法論は6月26日までに修正し提出すれば7月28~29日に予定されている第10回CDM理事会会合にて再検討されることとなっている。もし7月末に方法論が承認されれば、その方法論を使用したプロジェクト活動がAEに申請され、AEはそのプロジェクト活動の審査を行うことで正式に指定運営機関と信任されることも可能となり、従ってプロジェクト活動も正式に
CDM理事会に登録申請が出来るようになるiii。このように、次回以降、方法論承認活動が円滑に進めば秋には最初のCDMプロジェクト活動が出現し、既に開始されているプロジェクトからはCERsも発行されることとなる。不確実性も高く、コスト面でも懸念事項が多いCDMプロジェクト活動ではあるが、他の京都メカニズムに先立ちCDMが本格的に動き出すことで、近年立ち込めているUNFCCCの停滞ムードが一層されることを期待している。
以上 |
(文責:蛭田 伊吹) |
i |
現在は、方法論さえ決定していない段階であるため指定された運営機関は存在しないが、15社が申請中であり、CDM理事会内に設置されている信任パネルによって審査されている最中である。審査中の機関はAEと呼ぶ。15社のリストはCDM理事会公式サイトhttp://cdm.unfccc.int/DOE/CallForInputs参照。 |
ii |
ベースラインとモニタリング計画をセットとして数えた場合。今回の理事会で、セットとして検討することが決定したが、Methパネルでの段階ではそれぞれ別々に評価を行っている。 |
iii |
CDMプロジェクト活動の登録申請は指定運営機関でないと出来ない。 |