2003年5号

社会的責任投資と持続可能な発展

0305-11

 財務的な指標と同時に社会的・環境的な指標で企業を選別し投資する社会的責任投資(SRI)が広がっている。SRIは80年代までは一部の社会運動家や教会グループの企業批判の一手段であったが、90年代に入る頃から、企業に社会的責任(CSR)を求めるグローバルな潮流にのって、一般投資家、機関投資家に広がり、メインストリーム化している。とくに90年代後半以降、株式市場で大きな影響力をもつようになった年金基金がその投資にソーシャル・スクリーンを組み込むようになって大きく拡大している。SRIの総額は、アメリカでは97年の5290億$から2001年には2兆300億$と約4倍に伸びている。これは米株式市場の15.4%を占める。ヨーロッパでも近年SRIが急速に広がっている。とくにイギリスでは1997年の227億£から2001年には2245億£と約10倍に成長している。これは英株式市場の12.7%を占める。

 わが国でも1999年にエコファンドが初めて登場して以降、9本のSRI 投資信託が生まれている。さらに今年に入ってSRI株価指数が誕生したり、年金基金がSRI運用を始めたり、SRIが市民権を得はじめている。もっともSRI
投資信託の総額は693億円(2003.8.12現在)と市場に影響を与える力はほとんどないが、しかしその数字以上に、企業や市民にCSRへの関心を高める役割を果たしていると言える。

 SRIは、企業に社会的責任を求める動きが市場社会で広がるとともに、その重要性が理解されるようになってきた。CSRの背景には、環境問題、雇用問題、社会的排除、途上国での不公正な取引や人権問題など様々な課題があるが、経済基本主義ではもう持続可能に発展していくことはできない、というグローバルレベルでの共通認識がある。

 持続可能な発展という概念は、国連「環境と開発に関する委員会」が1987年の報告書で、"将来の世代の能力を低下させることなく現在のニーズに沿って発展させること"と定義された。その後92年のリオで開催された「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」では、地球環境問題に対する責任、開発と環境保全のバランス、汚染者負担の原則、将来世代への配慮といったことが中心課題として議論され、環境問題の側面から社会経済システムの持続可能性が指摘された。さらに90年代後半になると、持続可能性という概念は社会性を含めて理解されるようになる。つまり企業のもつ社会的影響力の増大を受けて、働く場における社会的公正性の達成、途上国におけるスウェットショップの排除、さらにコミュニティ問題の解決、途上国支援など。こういった問題を無視していては、社会的基盤を崩壊させ、中長期的に持続可能な発展を達成していくことなど望めなくなる。企業は市場社会の変化を受けて、いかに環境的・社会的な面から持続可能な発展に寄与するか、CSRを踏まえた対応が要請されているのである。

 このことは2002年夏ヨハネスブルグで開催された「持続可能な発展に関する世界首脳会議(WSSD)」でも議論された。そこで経営者団体などが主催したコンファレンス「持続可能な発展のための企業行動」では、社会的・環境的課題に取り組む企業の役割・社会的責任が大きくなっていることが確認され、また課題解決には企業・政府・市民社会セクターのパートナーシップが重要であることが強調された。さらに今年フランス・エビアンで開催されたG8サミットでは、経済セッションにおいて「責任ある市場経済」宣言がなされ、各国政府がCSRの活動を支援していくことを確認しあった。

 こういったグローバルな潮流の中で、今後企業はより明確に社会的責任に責任ある経営活動を行い、ステイクホルダーにそのアカウンタビリティを果たしていくことが求められている。ただそれを倫理規範として企業の自主性に訴えるだけでは限界がある。また逆にCSRの内容を法律で詳細に規定し、規制するということも馴染まない。SRIはCSRを市場が評価するシステムである。消費者や投資家がCSRを果たしている企業を支持する、そうでない企業は支持しない、という市場が成熟し、そういった規範が市場競争のルールに組み込まれていく。CSRを果たすことが市場社会で評価されるようになれば、企業はステイクホルダーから支持・信頼を獲得し、企業価値を高めるため、積極的に取り組むことになる。SRIのような評価のシステムが市場に定着していくことで、持続可能な発展もその条件が整えられていく、ということができる。

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